場を改める

 話を進めることが出来る状態――それは即ち、しげるに落ち着いて詰問できる状態という事になるわけだが、戦闘があった日の午後九時を回るまで、そういった状態にならなかった。


 いや、あれほどのことがあったのだから半日でこういう状態になったことは、むしろかなり早い、と捉えることも可能だろう。


 現在、しげるがいるのは路傍文化の七津角家。

 当然、その場に昭もいるし、篁に南も揃っていた。


「いやぁ、凄い一日だったね」


 と、ドーナツで満たされた紙箱を開けながら篁が呑気ににそう告げた。

 実際、この状態になるまで随分時間がかかったことは事実で、そのほとんどの時間は移動に費やされたのである。その他は食事。


 昭は今現在もカップそばを啜っている真っ最中だ。

 それなりに緊迫しているのは、しげると南だけ。


 あるいはこの二人に――実質、南一人に任せた方が良いという判断が下されたのかもしれない。

 それほど昭たちは南と一緒にいて、さんざん世話になっていたのであるから――。


              ~・~


 セントーAを駆使してまでクレームを全身で表現していた昭も、目標である侵略ロボも、戦闘停止と処理した何ものかも反応を見せないとなると、二進も三進もいかなくなったのだろう。


 ジープに乗ったしげるになだめられるままに、足場が組まれた最初の場所にセントーAを戻した。

 そのまま操縦室から出てきたところで――昭は意識を失った。


 怪我などではなく、疲労によるものだと昭は白衣から診断される。そして、そのまま昭はジープに載せられて野っ原から退去させられることになった。

 この「退去」という処置は篁以下、南たちにも同じように勧告されており、南はそれ以上に、


「息子を家まで運んでくれ」


 と、しげるに頼まれる始末。

 大胆にも程がある申し出ではあるのだが、南としては少しでも情報が欲しい、という事で、しげるに後からきちんと説明すると約束させて、それを了承することにしたわけである。


 甘い判断、という見方もあるだろうが、しげるの様子を見る限り、説明したいのはしげるも同じであるらしいと感じたこと。

 それに巨大ロボット同士の戦いを見た、という興奮が収まってくると、


「そんなもの、世界がただで済ますわけがない」


 という現実に気が付いてしまった事が大きい。

 当然、各国の報道に諜報機関は一斉に乗りだしてくるだろう。その中には巨大な利権目当てで動き出す裏社会も現れるに違いない。


 なにしろ矢立組がそういう観点で動いていたのだから、この予想は間違いないだろう。

 実際にロボットを動かした昭の価値は、同じ大きさのダイヤモンド以上と言い切っても良い。その上改造されているとなれば――。


「恩を売った方がこの先やりやすい」


 と、南は判断した。

 それには多分に、しげるの言う「教養の高さ」が影響していることは間違いないだろう。


 タクシーを拾える国道まではジープに送らせると、手下二人を使って先回って手配させ、新幹線に乗り一目散に戦場から離脱。

 篁に頼んで昭を強引に目覚めさせると、途中の駅で浴びるほどに蕎麦を食わせながら、何とか矢立組のシマ、つまりは地元に帰りついたというわけだ。


 その旅程が意表を突いたのか、それとも日本の組織が頑張ったのかは定かではないが、 とにかくあまり騒ぎにもならずにならずに自分たちのシマに侵入できたことは大きい。

 その後も、飽きずに蕎麦を注文する昭に辟易しながらも駅近くにあったこじんまりした蕎麦屋に入ったのが午後六時と言ったところ。


 そこで店内に吊るされたテレビを見上げることで情報収集。

 報道規制、というのはさすがに意味がなかったようで――南は最初からされてなかったのか、途中で方針変更になったのかはわからなかったが――夕方のニュースでロボットの戦いは大きく報道されていた。


 それによると、一番大きく扱われていたのはやはり異星からのやってきたロボットという部分。「侵略」という単語に似たような物言いはしなかったが、それをコメンテーターや識者が匂わせる、といった構成であった。


 ただ侵略ロボの肩に乗った少年については報道されていない。

 さすがにそこまで報道の自由は無かったのだろう。


 あるいは一見、地球人に見える少年を見せてしまうと壮大なおふざけの様に思われる危険を避けるために、映像は提出されなかったのか。

 観測所では当然、あの戦闘の様子は撮影されていたに違いないのだから。


 南がそんなことを考えながら胃を痛めていると、そのそばでは昭はもとより篁に手下二人も躍起になって胃に料理を詰め込んでいっていた。

 それだけ腹が減っていたのだろう。昭と違って、他の面子はこの日初めての食事であることは間違いないのだから、仕方がない部分はある。


 むしろ蕎麦だけではなく、カツ丼など丼物もメニューにある店に転がり込んだことは幸運と呼ぶべきであったのかもしれないが……やはり南としては、その呑気さに嫌気がさしてしまうのもこれまた仕方のないところではある。


 そして、そのタイミングで篁のスマホが鳴り、しげるから連絡が入る。

 南はここまで同行していた二人を連絡係として本家に戻し――


 ――ドーナツを買い込んで、路傍文化でしげるを待ち受けていた、という次第である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る