手探りだらけの戦闘
セントーAの左足が侵略ロボの左肩口に命中――したかのように見えた。
だが侵略ロボも案山子の様に突っ立っていたわけでは無い。元々、セントーAの攻撃を受け流すために前に出されていた左腕が防御に回っていたのだ。
つまり鈍い激突音はセントーAの左足と、肩に乗る少年を守るために肘ごと突き上げた侵略ロボの左腕との接触で起こったことになる。
さらに侵略ロボは滑らかな動きで、セントーAの左足を振り払おうとしていた。
浴びせ蹴りを受けても姿勢を崩さず、さらには受け流そうとしている機動。
侵略ロボの性能の高さが窺える。観測所がさらに忙しくなった。
侵略ロボは受け流すだけではなく、セントーAの足首……らしいものは無いので、それっぽい辺りを掴んで、そのまま振り回す意図もあるらしい。
セントーAの左足を完全に回避、と同時に攻撃に転じてきた。
セントーAもそれを大人しくやらせるはずもなく、右腕で地面を掴むと、いなされた力を利用して地面を転がろうとした。
その狙いは落下する時と同様に位置エネルギーがセントーAに有利に働いたのだろう。
侵略ロボの狙いは外され、セントーAの左足は解き放たれた。もしかするとそれは足首が無い事も理由にあげられるのかもしれない。
セントーAは地面を転がり、そのまま起き上がりこぼしの様な動きを見せ、こちらもスムーズに立ち上がった。
そういった動きを為し得たのは――。
「背中……背筋が自在に動いているように見えます。自在というか、より人間に近い」
観測所において南が熱に浮かされたような口調で、セントーAの動きに理由を発見していた。確かに南の言う通り、セントーAのの動きは人間のそれにかなり近い。
そんなセントーAに比べれば侵略ロボの動きは、どこかたどたどしい部分がある。
その理由はロボットの性能差にあるのか。
はたまた操縦者の力量に差があるのか。
しかし、昭はセントーAを動かすのは間違いなく今が初めて。ただ操縦方法、そして機体の設計思想が侵略ロボを上回っている――この時だけの有利であるかもしれないが――という可能性もあるだろう。
圧倒的にも感じていた侵略ロボとの技術力の差。
それがさほどの差ではなくなる可能性が出てきた。
そして、そういった現状については侵略ロボ――肩に乗る少年も同じように考えているのか、未だこれだけは上手くいかないセントーAの突進を躱しながら、攻撃に転じようとしない。
「何だか逃げてばっかりだね」
そんな侵略ロボの動きを、篁がバッサリと切って捨てた。
確かに、そう表現するのが一番わかりやすいのかもしれない。
だが南は、そんな侵略ロボの動きに不穏なものを感じていた。
「もしかして……情報収集に努めている?」
確かにそんな風にも考えられる動きだ。
それに侵略ロボも、地球に降り立ってすぐ戦闘になったのである。それを考え併せれば、むしろ情報収集していると考えた方が蓋然性は高くなるだろう。
「それはこちらもやっているんだ。当然の動きと考えるべきだな」
そして、南のそんな懸念を肯定するかのように、しげるがそんなことを言い出した。
それは確かにその通りではあった。そもそも、こんな観測所を設置している分、地球側の有利さを示していると言っても良いだろう。
しかしながら情報収集については互角であるとしても、大きな問題があった。
「それで分析結果を息子さんにどうやって伝えるんですか? 通信は可能なんですよね?」
セントーAに乗る、昭と連絡を取る。
セントーAにそういった通信機器を取り付けても良いし、昭にスマホ、はさすがに無理でも小型の通信機を持たせても、それは可能なはずだ。
しかしここまでのところ、しげるが昭と連絡を取っている様子は見られない。
観測所の白衣たちからも昭に呼びかけるような声は聞こえてこない。
南がそんな心配をしてしまう事も無理からぬところだ。
だが、それに対するしげるの返答は――無言であった。
「も、もしかして!?」
その無言は南を焦らせるには十分であり、南は叫ぶと同時にしげるへと詰め寄る。
慌ててしげるはワタワタと手を振りながら、
「い、いや、伝え忘れていたことが……」
「やっぱり忘れていたんですね!?」
「あ、昭の動きが変わったよ」
南としげるが押し問答していると、篁が声を上げた。
その声につられて二人がセントーAの動きに目を遣ると、確かに今までとは動きが違っている。
簡単に言えばセントーAは二足歩行を諦めていたのである。
乗り込む寸前、いみじくも昭が評したように、その動きはゴリラ――一般にナックルウォークと呼ばれるものに酷似していた。
両方の拳を地面に突き立てるようにして、四足歩行の様に走り始めていたのである。
それは安定性をセントーAに与えたのだろう。
今までとは違う俊敏な動きで、徹底的にセントーAを避けていた侵略ロボとの間合いを一気に縮めたのである。
そして昭はその勢いを利用して、そのまま攻撃することを選択した。
即ち――体当たりである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます