ファーストヒット! ……か?

 セントーAは操縦室の昭の動きに応えた。いや、闘争心に応えたと言っても良いだろう。それは傍から――具体的には観測所の南たちから見ても、それは伝わってくる。


 そして南はその動きが、自分が知っているものではないことに気付いた。

 いや知っている――という言い方は少々大げさなのかもしれない。


 何しろ南が知っている一般的なロボットの動きとは、即ちフィクションであるのだから。

 そしてそのフィクションのロボットと、セントーAの動きの最大の違いとは――。


「腕の……可動範囲が違う? 肩から先が動いてるんじゃないわ。背骨から肩甲骨への盛り上げり――筋肉が動いてる?」


 南はセントーAの動きから伝わってくる違和感を文章化して見せた。

 侵略ロボに向けて突進するセントーA。そのために上半身は腕を大きく振って、その動きを自然にサポートしているように見えるのだが、それがあまりに人間のに近い。


 その理由を探してみると、それは南の呟きが最も的確に示唆していると言っても良いだろう。

 だからこそ、並んでセントーAの突進を見ていた篁たちからも「あ!」というような声が上がるのである。


「よく気付いた。セントーAの動き秘密はまさにそこにある。ボディは単純な箱のような設計にはなっていないのだ」


 その尻馬に、しげるが乗っかって解説を差し込んだ。

 そしてそのまま、さらなる解説という態の自慢話を続けようとしたが――


「「「「セントーA!!!?」」」」


 と、多重でツッコまれてしまう。

 そう。この時初めて篁たちは昭が乗り込んだ巨大ロボットが「セントーA」と名付けられていることを知ったのである。


 ……「エイリアンセントーA」という正式名称に幸あれ。


 一方で、そのセントーAに乗り込んだ昭は、個性的過ぎる名前の事はすっかり忘れていた。

 アドレナリンの働きによるものだろう。


 そういった闘争心は侵略ロボ――その肩に乗る少年にも伝わったようだ。

 手元の機器を操って、侵略ロボの姿勢を変える。足を大きく広げ、腕を上げた。ファイティングポーズと言っても良い。


 その後セントーAに向かって駆けだす、というようなことは無く、その場で迎撃するつもりであるらしい。

 その侵略ロボの動きの方が、よほど南がよく知る「ロボット」の動きに近いものがあった。


 こうしてお互いの戦闘態勢が出来上がり、あとは激突の時を待つだけ。

 その時を目指してセントーAの巨体が走り、足を踏み出すたびに周囲一帯が地震のように揺れる。


 巨大ロボット同士の戦闘であるのだから、こうなることは必然か。

 そう考えると、この野っ原は戦いに適した場所であると言い切ることが出来る。


 つまり「汎宇宙公明正大共存法」の存在は確かに侵略ロボも知っており、それを遵守するつもりがあることが、これだけで窺えるという事になるわけだが、この時には観測所の面々もまた戦いに興奮しており気付いていない。


 一人、しげるだけが冷静に戦場を俯瞰しているように見えるが、果たしてそれを頼もしいととらえていいのかどうか。


 そんなギャラリーたちの視線を浴びて、セントーAが大きく左足を踏み込んだ。

 今までとは違う、より鋭角的な響きが伝わってくる。


 そして縦揺れ。

 何もしていないのに宙に浮くような感覚。それだけの質量が躍動しているという事だ。


 そして、その踏み込みに合わせるように、セントーAは右腕を大きく振りかぶる。

 こぶしを握り締めている様子が観測所からもはっきり確認できた。


 これがファーストヒットになる。

 侵略ロボはこれをどうするのか?


 自然にそういう未来図を予想した観測所の面々ではあったが――セントーAの拳は侵略ロボを捉えることは出来なかった。

 簡単に言うと空振りだ。


 それはセントーAの――つまりは昭の目測が狂ったせいのか。それともセントーAの操縦になれていないせいなのか。

 原因ははっきりとしないが、それを観測所から見ていた面々は、直感的に「何かがズレている」と感じる。


 その直感を具体的な形にするためなのだろう。

 観測所の電子機器が一斉に稼働を始めた。


 それはセントーAの動きを観測するためだけではない。

 もちろん侵略ロボについても観測している。いや、こちらが本命だろう。


 侵略ロボも、呆然とセントーAの拳を待ち受けていたわけでは無い。

 その攻撃の軌道を予測し、左腕を囮にするように前に出しながら、右足を大きく引いていた。


 これを格闘技の解説のように説明するなら、


 ――半身になって身体を開き、攻撃をいなす。


 といった動きだ。そしてその動きはセントーAと違って、どこまでもスムーズなものだった。

 落ちてきた時に見せた技術力――重力制御と慣性制御がその動きを支えていることはまず間違いないだろう。


 セントーAに比べれば、あまりにも洗練された動き。

 ただ躱しただけであるのに、それだけで彼我の差を見せつけるようだ。


 観測所にいる者たちの中には、それだけで絶望に搦めとられている者さえもいる。

 確かに、これでは戦いにすらならない――そう予感しても仕方がないところだろう。


 だが――。


 昭の闘争心、攻撃をする、殴りつける、という強い意志は萎えることは無かった。

 空振りした右拳をそのまま地面に叩きつける。


 それによって再び縦揺れが起こり、その揺れを利用してセントーAは宙を舞い、そのまま前転し、今度は左足を侵略ロボの頭上から叩きつけた。


 浴びせ蹴りである。


 その大胆過ぎる機動は侵略ロボ、ひいては肩に乗る少年の意表を突いたのだろう。


 ガゥッシシィィィィン!!!


 激突の鈍い音が響く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る