タイトル一部回収

 校舎前にヘリコプターが降下して来た時とは違う。あの時はけたたましいローター音があった。つまりその音は物を浮かばせている音でもあるのだ。


 だからこそ今となっては、あの音には恐怖心を和らげる効果があったことに気付く。

 単純に何ものかが落下してくる音とは、人に原初的な恐怖を齎すものであるのだから。


 そんな落下音が響く中で、ようやく昭が「名前はどうでもいいか」とあっという間に開き直って巨大ロボ――「セントーA」に乗り込んだ。

 コクピットは腹部にあり、背中から乗り込む形だ。


「本来なら、それなりの防護服を着せてやりたかったが……なに気にするな。兜甲児だって、最初は普段着で戦ってたんだ」

「クソ親父のこだわりなんか知ったことか」


 絶対にこの父親が息子の身を案じるはずがない、と信じている昭は最初から期待していないので、すぐさま言い返すとセントーAの背後に穿たれた穴に潜り込む。

 途端に背筋が盛り上がるようにして、その穴を塞いだ。


 まさにそのタイミングで、落下音を響かせていた何かが地表に到達しようとしていた。次に襲い掛かってくるのは激突に伴う衝撃音を想像し身構える地上の人間たち。

 いや、物質がエネルギーに代わることによって、先に閃光が襲い掛かってくるかもしれない。


 だが、そんな予想は悉く覆されることになった。


 落下物が、地表すれすれで停止したのだ。

 落ちてきた勢い全てをことにするかのように。


 そして、停止したことで落下物の全容が確認できる。

 落下物も、やはりというべきか人型――ロボットであった。


 全体的にメタリックブルーのボディ。全体的に角ばっており胸部と腹部がフレキシブルに動くような構造をしていることが見て取れる。


 そのボディには腕と足が接続されており、それぞれが二本ずつ。

 つまりロボットは人間――地球人と変わらぬフォルムであることがわかる。


 むしろその姿は、昭によってゴリラと評されたセントーAよりも人間らしいと言い切ってしまっても良いのかもしれなかった。

 そしてそれを裏付けるように、ロボットの――巨大ロボットの肩の上には人間らしい何ものかの姿が見えた。


 こちらも人間と変わらぬフォルム。

 しかも紫の髪など、その他の特徴は地球人とほぼ同じだった。


 ただしその皮膚は青い。

 さらに地球人の比率で考えると、その大きさはまだ子供、というようにも見える。


 つまり単純に考えると、


「巨大ロボットの肩に、少年が乗っている」


 という、実に古式ゆかしいスタイルであることが窺えるというわけだ。

 さらに目を凝らしてみると、青い肌の少年は手元に何らかの装置を抱えていた。


 その装置がロボットの操縦に関わるものであるなら、世はしげるの妄言を反映しているようだ、と勘違いも出来るだろう。


 では、間違いなく半分はしげるの妄言で形作られたセントーAはどうかと言うと……。

 こちらもまた動き始めていた。


 まず前屈みだった姿勢が真っ直ぐに。

 ボディに比して、小さな頭部の目の部分には赤い鬼火のような燐光が灯っている。まるでセントーA自身が意志を持ったかのように。


 セントーAの意志とは、即ち昭の意志。

 その昭は操縦席に居る。いや「席」というものは無いから操縦「室」と呼ぶべきなのか。


 昭は操縦室において手足を拘束されているように見えた。

 部屋の四方からにじみ出ているように見える螺旋。それは蔦のようにも見えるが、それよりももっと金属的な光沢を放っている。


 そしてそんな金属製の蔦は、実際には昭を拘束するほどの力はないらしい。

 緩めのバネが手足に巻き付いている、と言った方が的確であったとのかもしれない。


「もっと大きくしろ!」


 と、出し抜けに昭が叫んだ。目の前に現れたロボットを見定めようとしたのだろう。

 外が見えるモニター――なののだろう。その大きさの変更を要請する。


 それは無茶な欲求に思われた。

 だがモニターはモニターであることをやめた。


 昭の正面だけがのぞき穴のように見える構造ではなく、昭の周囲すべてが外の様子を映し出している。

 それによってかなり乱暴な話になるが、昭が生身でこの野っ原に立っているようにな環境になった操縦室。


 そう言った操縦室の変化は、セントーAの外見にも変化を与えている。

 黒一色のボディに何やら文様が浮かび上がっていた。


 その文様はボディ全体を波打つように駆け巡り、黒い身体に赤い炎を彫り込んだような姿で落ち着いた。

 そうなったことを昭は気づいているのか、眦を決し、バネが巻き付いている腕を振るい、足を広げた。


 そして拳を握りこむと、胸の前で打ち合わせる。

 その動作はセントーAもトレースしており、同じように指を握りこみ、胸の前で打ち合わせた。


 当たり前に響く爆音。

 その響きを体に感じた昭は、さらにテンションを高め腰だめの構えになり、


「よっしゃいくぞ! 先手必勝ーー!!!」


 セントーAを躍動させた。

 目標は言うまでもなく、目の前のロボット。


 今、「汎宇宙公明正大共存法」は具体的に施行されるのだ。

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