その名は「エイリアンセントーA」

 昭はさらに続ける。


「大体わかってきたんだよ。例の……ええと『決闘法』だったっけ? その決闘に使うために、このロボットを用意したんだろ?」


 それにいち早く反応したのは南だった。


「あ、そうだわ。『ガクセイバー』に似てるわ、この状況」


 どうやら確かに、南はしげるの言うようにが高い。

 高すぎて話が先に進まないあたり、同じようなを抱えている辺りまでそっくりだ。

 それに焦れたように、昭は手を振りながら話を進めた。


「ライディーンとか、そういうのはもういいからな? 肝心なところをはっきりさせてくれ。このロボットで決闘する。それは間違いないな?」

「その通りだ」


 追い詰められたのか、しげるがシンプルに答える。

 それでリズムを掴んだのだろう。昭はさらに続ける。


「で、それに俺が乗る」

「“乗らないのならば帰れ”」


 何とか自分のペースに戻したいしげるが、お約束の台詞を使って見せるが、そんな台詞に反応できるほど、昭の教養は高くなかった。


「乗ってやるから偉そうにすんじゃねーよ。けど、それもロボットが動いてこそだ。それは確かめてあるんだろうな?」


 あっさりと、乗ることについては了承する昭。

 しかし問いかけが元に戻ってしまう。


 確かに動作保証がないと、ロボットなどに乗れるものではない。それは安全面を保証しないという事にもつながるからだ。

 昭の確認はもっともなことだ、と二人の構成員は頷いた。


 自由業やくざをしている割には常識というものが備わっているらしい。

 あるいは、これは仁義の範疇であるのかもしれない。


 で、あるならば残念なことだ。

 昭が動作保証を求めたのは、自身の安全について不安を覚えたからではないのだから。

 昭が何を心配しているかというと――。


「殴れないなんて、そんな事じゃ困るんだよ!」


 この一点である。

 思考が攻撃に全振りなのである。


 そういった昭の性質たちは篁にとっては当たり前の話であり、つまり父親である、しげるもそれはわかっていた。

 だから、昭の訴えにも鷹揚に応じる。


「息子よ。大丈夫だ。ちゃんと動く」

「そ、そうか。殴れるんだな」


 昭は物騒に安堵した。それは身体の線を硬くしていた南も同様で、彼女もまたこのロボットが張りぼてである可能性を危ぶんでいたのだろう。

 割と常識的な方向で。


 いや、常識を持ち出すなら動かない方が常識的ではあるのだが……。


「が」


 そういった雰囲気に棹差すように、しげるが逆説の接続詞を挟み込んだ。


「何だぁ?」


 反射神経だけで昭が応じる。


「動くには動くんだが、どうにもうまく動かせないらしくてな。歩くぐらいは問題ないんだが、これで殴り合いとなるとまだ見通しが……」

「それで俺を改造したんだろうが!」


 と、昭が何だかもっともなことを言い出した。

 改造これもまた、常識に照らし合わせれば無茶無理無謀な言い分であることは言うまでもない。


 やたらに闘争心が高すぎる昭にかかると何もかもが歪んでいくのである。

 だがそれでも、現実に片足を突っ込んだままの南は、改造が理由で自分がここまでついてきたことを思い出した。


「そうです! 改造って何ですか? 発掘したパーツから――」


 何かしら未知のテクノロジーを取得したのではないか? と、これも中二心溢れるままに南が確認しようとした時、


 ピピピピウィンウィンウィン……。


 と、警報音が周囲一帯に響き渡る。

 しかもそれはホワイトベースの警報音でもあった。そのおかげで反射的に南は黙ってしまう。


「主任! 来ました!!」


 そしてロボット近く、足元付近から声が聞こえてきた。


「ああ、すぐ行くー! 昭は声のした方に向かえ! すぐに私も良く。タカちゃんたちはあっちだ。そのジープで、用意してあるテントに連れて行くからな」


 いきなりどたばたと忙しくなった。

 昭はいよいよかと、全てを投げ出すように走り出す。


 そして、しげるは近付いてきた白衣の集団に篁たちを託すと、そんな昭の後を追った。


 先行していた昭は、既に巨大ロボットの足元だった。

 それは即ち、新しい角度からロボットを見る、という事にもなる。


「ああ、こういう姿勢なんだ……ゴリラみたいだな」


 と、横目で見上げながら昭が呟いた。

 ゴリラ、という表現は確かに的確だった。


 前かがみの姿勢。盛り上がった背中。力強さを窺わせる腕。

 既知の知識と照らし合わせるなら、その姿はゴリラが一番似ているだろう。


 さらにボディ全体が黒いことも、そんな印象を補強することになっている。その黒さが元々こうであったのか、年月の経過によるものかははっきりしない。


「こっちです!!」


 少しスピードの鈍った昭に向けて、白衣の誰かから声がかかる。

 昭が改めてスピードを上げようとした時、しげるも追いついてきた。


「息子よ! 肝心なことを伝え忘れていた!」


 そのまま、昭に声を掛ける。


「何だ!? 実は動かないと言いだないでくれよ!」


 父親を信用しない事甚だしい昭が再度確認する。

 すでに二人は、ロボットの後部に組み上げられた足場、そこに設置されたエレベーターに乗り込んでいた。


 そして、しげるは息子に向かってこう宣言した。


「違う! この巨大ロボットの名前だ!


 ――この巨大ロボットの名前は『エイリアンセントーA』という!!」


 しげるの宣言と同時に、昭の時は停まり――。


 遥か上空から、耳を劈く落下音が響いてきた。

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