日本の集合知
掘り出した。
ほぼ間違いなく、しげるは言葉の選択を間違っている。
もちろん、実際には砂場に埋めてあったものを、簡単に「掘り出した」というような簡単な話ではないのだろう。
日本各地、地中深くに埋められていたものを「発掘」した。
そう「発掘」。それが適切な日本語というものだ。
しげるのさらなる説明を受けて、主に南がそれを修正してゆく。
それは南についてきた世話役たちも同様で、恐る恐るしげるに引っかかった部分を確認していった。
「あの……日本各地って……」
「それはそのままだ。日本のあちこちにあったわけだ。体とか腕とかのパーツがな。幸いなことに全部掘り出せたようで、それをずっと組み立てていたんだ」
その説明部分だけを取り出すなら、筋は通っているように思えた。
しかし改めて確認するまでもなく、どうにも胡散臭い話だ。発掘する前にそんな計画を聞かされていたのなら、即座に回れ右で間違いない。
しかし、実に巨大ロボットは組みあがり、矢立組はロボットを巡る金の流れをつかんでいたのである。
真に胡散臭いのは現実か、はたまた巨大ロボットなのか。
「……なるほど。……というのも変ですが、それで足の形状がああなんですね」
胡散臭さに巻き込まれたのか。
南がそんな風に呟いた。
「どういうこと?」
その呟きに、篁がいち早く反応した。
ついてきたは良いが、手持無沙汰になってしまっていることが幸いしたのだろう。それに筋モノを相手にしてもビビることのないあっけらかんとした篁の性格が後押ししたのだろう。
南はスムーズにその疑問に答える。
「ああ、見て。足元の方」
「なんだありゃ? ただの筒?」
そこに昭も参入してきた。
最初のインパクトはもう通り過ぎたのだろう。今は、改めて巨大ロボットをじっくりと観察するターンに入ったようだ。
呑気な気もするが、とりあえず今はせっつかれてはいないし、こうやって確認することも悪いことでは無いだろう。
その観察の結果、昭は「
そう言われて改めて脚部を中心に観察を進めると、膝のあたりに球形の出っ張りがあるものの、確かに全体は円筒形という単純な構造のようだ。
つまり脚部であるなら、当然あるべき足の甲というものが存在しない。
気付いてみれば、それは何処か異様ですらあった。
パーツが地球深くから「発掘」されたという事は、単純な想像ではあるが、そういったパーツ、ひいては巨大ロボットを作り出した文明があったということになるだろう。
つまり現代とは違った文化や風習が、この円筒形の脚部に現れている可能性がある。南もそれを感じて「なるほど」と口にしたのだろう。
――いや。
それにしては理解度が半端ではない。
こういった円筒形の脚部について「なぜそういう形であるのか?」という部分にさえ、何らかの「答え」を持っているかのような――。
「あれはライディーンと同じだわ」
そんな南が、突然そんなことを言い出した。
「ふむ。君は教養があるようだな。その通り。ライディーンが存在しなければ、組み立てにはさらに多くの時間が費やされていただろう」
それに、しげるが乗っかってきた。
その段階でわかる。話がさらにややこしく、さらに胡散臭くなることが。
それに反撃を試みるつもりなのか。それともさらに話を膨らませるつもりなのかはわからないが、続いて南が声を上げた。
「七津角さん。この辺り、Wi-Fiはいけますか?」
「それは大丈夫だが………」
「タブレット出して。持ってない? 何のためについてきたの?」
確認に続いて、職業意識を窺わせる理不尽を側付き構成員にぶつけるが、要はネットに繋がれば、南の要望には応えらえるようだ。
それを察した篁が、
「ライディーン、ライディーン……っと」
自分のスマホで「ライディーン」を検索した。
すぐに、ロボットアニメの画像をディスプレイに表示する。
「これでいいのね?」
と、画像を見せながら篁が南に確認すると、南は大きく頷いた。
「そう。これがライディーン。見たらわかるでしょ。このロボットの足」
「う……ん。確かに足の甲が無いな」
スマホを覗き込んでいた昭が呻くように、南の言葉を肯定した。
それで気を良くした――わけでは無いだろうが、南はさらに説明を続ける。
「このライディーンは、言ってみれば先史文明が作り出したロボットなのよ。こういった履歴を持つロボットは複数あって『ゴーグ』とか『ガルディーン』それに『ブレイクブレイド』もそうね。ただ発掘された足がこの形状であるのなら……」
「君、ヤクザやらしておくのもったいないな。実に高い教養の持ち主だ」
しげるが褒める。
それは胡散臭さが極まっているという事。
先ほど、昭が南に対して呻いたのは、その気配を敏感に感じたのだろう。
――「この女、クソ親父と同類か?」
と。
だがこれで、しげるからの説明を回避できたことは確かだ。
……あまり変わらない気もするが。
それに、先ほどのしげるの言葉から考えてみると、どうやらライディーンを参考にしてロボットは組み立てられたらしい。
通常の神経であればかなり無茶苦茶な話に思えるだろう。
そして、その考えは当たり前に不安を引き連れてくる。
それは――。
「おい、クソ親父。このロボットは、本当に動くのか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます