巨体の履歴

 ローターから響いてきていた振動が小さくなってゆき、今度は足元からドスンという振動が伝わってくる。着地したのだ。

 それが自然と理解できるタイミングで、ノック――なのだろう――がヘリコプターの外壁に為された。今度も振動が合図代わりだ。


「開けてくれ」


 と、しげるが何処かへと声を掛ける。当たり前に、この空間はヘリコプターのパイロット席からもモニターされていたのだろう。しげるの声でスライドする出入口、あるいは搬入口が開いた。


 途端、空間に風が満ちる。気圧差の問題なのだろう。

 簡単なものとはいえ、シートベルトをしっかりと閉めていなければ、また混乱が生じていたに違いない。今回はぎゅっと目をつぶるだけで済む。


 そして、その瞼を恐る恐る開けると――


「う……うん、何だここは? 野っ原か?」


 スライドされた扉の向こう側に広がる光景は、ただ広々とした荒れ地。

 草原というほどでもなく、整地されたように平坦な地面でもなく。黒土が露出している部分が多い。


 そうなると昭が言うように「野っ原」というのが、一番適した言葉であるのかもしれない。


「ね、あれなんだろう? 何だかおかしな影が……」


 同じように外を見ていた篁が、その野っ原に違和感を見つけた。

 篁の言うように確かにおかしな影が差している。山や岡が作り出すような影ではない。何かもっと突然で、そして主張の強い形を作っていた。


 昭たちとは反対側のシートに腰を下ろしていた南たちは、何とかそれを確認しようともがき始めるが、そこにしげるが声を掛けた。


「慌てることは無い。しかし、こっち向きに着陸したのか。もったいぶるのは好きでは無いんだが……」


 と、愚痴まじりでしげるはシートベルトを外し、さっさとヘリコプターから降りて行った。別に拘束されているわけでは無いので、他のメンツも丁寧にシートベルトを外せば、問題なくヘリコプターから降りることが出来る。


「こっちだ」


 全員がヘリコプターを下りたのを見計らって、しげるが声を掛けてきた。


「こっちって、ヘリの向こう側ってだけ……じゃね……えか……」


 そうやって、文句をつけながら一番にしげるに追いついた昭の声がだんだんと尻すぼみになってゆく。

 そしてそれと同時に、昭の視線が上へ上へとスライドしていった。


 昭に続いて、ヘリコプターの向こう側を確認できる位置まで移動してきた篁たちも、そのまま昭と同じ状態になった。

 視線は上。そして開いた口がふさがらない。


 果たして、そこにあったのは巨大な人型であった。

 逆光の中でも、頭、胴体、腕、それに足があることがはっきりとわかる。


 つまり、そこにあるのは――。


「……ろ、ロボット……よね?」


 実際に目の前にあるのに、それが信じられないのか南は、呻き声のように周囲に確認をする。

 そしてそれに応えたのは、しげるだった。


「正確には“巨大”ロボットだな。ああ、間違いなく、目の前にあるのは巨大ロボットだ」


 確かに目の前にあるのは超常的な「ロボットがいる風景」。

 しげるは胸を張って「巨大ロボット」だと説明する。


 最近は、そこかしこに巨大ロボットのオブジェがあるわけだが、明らかにそういったロボットたちの倍はある大きさ。


 昭たちは具体的な大きさまではわからないままではあるのだが、とりあえず、巨大ロボットが生み出していたインパクトはようやく収まってきていた。

 それにつれて、聴覚が動き始めたようだ。


 今まで気づかなかったことが不思議なほど、空には多種多様のヘリコプターがホバリングしている。中には昭たちが乗ってきた巨大なヘリコプターの姿もあった。何かの作業中ではあるらしい。


 作業と言えば、巨大ロボットの周囲には足場が組まれていた。

 それはロケット発射場で見るものが一番似ているのかもしれない。だがその足場は、発射場のようにロボットを追い越すような高さに組まれてはいなかった。


 恐らくは腰の高さにまで組まれているらしい。

 それがもとからその高さであったのか、足場をばらしている最中なのかは、当たり前にわからない。


 いや、それを言い出すなら、このロボットはどこから来たのか?


 ――という、どこか哲学的な疑問に気付いてしまう。


 もちろん、ロボットがいきなり現れるわけはないので、その疑問は次に「どうやって作ったのか?」と、少しは現実的な疑問へと移行することになるだろう。


 そして、その疑問にいち早く辿り着いたのは南だった。


「……こ、これね! 大きな金が動き、その全容を必死で隠そうとしていたのは!」

「そう。別に利権とかそういう事は関係ない。隠そうとしていたのは単純にパニックを防ぐため――だったんだがなぁ」


 南の叫びに、しげるが何か含むところがあるのか語尾を濁しながらも、それを肯定した。それにもどかしさを感じた南が再度詰め寄る。


「何か違うんですか? 実際これほどのロボットものを作ったわけですから、利権関係なく大金は動いたでしょう? それに実際に動くとなれば、そこに使われた技術は――」

「ああ、それがな。その辺りは、まだ全くわかってない」


 しげるが不思議なことを言い出した。

 技術を使っていない、という事なら、まだ意味は分かる。


 だがでは、会話が繋がらない。

 そのちぐはぐさについては、しげるも気付いていたのだろう。そのままこう続けた。


「あのロボットな……実は掘り出したものなんだよ」

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