「汎宇宙公明正大共存法」
元凶のしげる。さらに昭。それに南とその側仕えとでも言える幹部クラスの構成員が二名がそれに従った。
さらに篁もヘリコプターに乗り込んでいる。
校舎自体は恐らく無事であろうが、さすがにこの後部活という事にはならないだろう。だから篁の予定がぽっかりと開いてしまった事は間違いないところだ。
だがそれでも、しげるに同行する理由にはならない。しげるも拒否するつもりではあったのだが――。
「お母さんに言いつける」
と、言われてあっさりと折れた。
七津角家は棟尾家に世話になりっぱなしなので、こういう力関係が出来上がってしまっているのだ。そんなわけであるので、当然昭も沈黙を守っている。
そうやって乗り込んだヘリコプターの中は、客席のような上等なものは設置されてはいなかった。やたらに武骨な椅子が、壁際の補強用の鉄材にねじ止めされているだけ。
乗り込んだ面々はしげるとともに向かい合わせで座っており、その間には大きな空間が広がっている。照明さえも急ごしらえのようで、天井近くにやたらに指向性の高いライトが何とかぶら下がっているだけ。
つまりは全体的に薄暗い。元々、人が乗り込むべき空間では無いのだろう。このヘリコプターは明らかに運搬用であることは間違いないのだから仕方ないとも言える。
だが、それだけに無茶を押してでも昭を呼ぶ――あるいは回収する必要があったことが窺えてしまうわけだ。
しかも、これほど強引に昭を迎えに来たというのに、目的地までは時間がかかるらしい。
体で感じる
窓も何もない――窓があったところで変わらないが――空間なので、どこに向かっているかはさっぱりわからない。
ただ、この状況に関して、しげるに説明させることは十分に可能だった。なにより、しげる以外の全員が説明を求めていたのだ。
「侵略」という強力な言葉の意味。それに一から十までわからない「汎宇宙公明正大共存法」という言葉について。
「――さっきも言ったように、地球は狙われているんだ。いわゆる異星人からな」
そして、しげるの言葉はボリューム以外はほとんど変わらない。
狙っている相手が誰なのか――あるいは何なのか、について補足があったぐらいだ。「異星人に狙われている」という言葉が「補足」になっているかは要検討ではある。
「それで……七津角さんは、それに対処していたわけですか? 異星人相手に?」
恐らく、この中では最も現実的、それでいながらしげるの言葉をでたらめと切って捨てることも出来ない南が、慎重に確認する。
すると、しげるは勢いよく頷いた。
「その通りだ。私たちはずっと前から、この日に備えて準備してきたのだ。そもそも矢立組はその動きを察知したからこそ、私の周りを嗅ぎまわっていたのだろう?」
「それは……そうですが……」
まさかそれが異星人侵略に備えるためにしげるたちが蠢いていたとは、想像すらできようもない。現に今、直接に教えられても納得できるような説明ではないのだから。
そんな南の沈黙の合間を縫うようにして、昭が声を上げた。
「それで、何とか法ってのは? それがさっぱりわかんねぇ」
「そうだな。あれは強引に訳したせいで、わかりにくくなってると私も思う。まず前提として、この宇宙には多くの生命体がいるわけだ」
それを聞いた篁が、首を傾げながら、
「宇宙人?」
と、ある意味では一般的な単語に置き換える。しげるはそれに対しても素直に頷いた。どうやら、使う言葉が大仰なだけで、事象としてはかなり単純なものであるらしい・
「そういう考え方で良いと思う。で、宇宙人同士が互いに狙いあっているわけだが、それでいちいち戦争していたらお互いに潰しあうだけ。そこで宇宙全体の決まりとして『汎宇宙公明正大共存法』出来上がったということらしい」
「らしい?」
即座に昭がツッコむが、しげる自身もその辺りはわかっていないらしい。
いや、そもそもしげるの話の大元、つまり情報源は何なのか? そこがまるっきり不明のままであるのだ。
そこを確認すべきだと気付いた南が再起動して、手を挙げる。
が、そのタイミングで大きくヘリコプターが傾いた。
「着くようだ。ここから先は終わってからだな。見た後の方が話が早い」
「待て待て。いったい何が始まるってんだ? それに何とか法については何にも話してねぇじゃねぇか。それぐらいチャチャっと言えねぇのか?」
「――決闘法」
「何?」
昭の追求に対して、何かが溢れ出たようなしげるの呟き。
それを昭が当たり前に聞き咎めるが、しげるはどこか投げやりに説明を続けた。
「……『汎宇宙公明正大共存法』は、私たちの間では『決闘法』と呼ばれている。つまり、侵略者側と地球側。その代表者が決闘することで勝負を決める。それが一番被害が少ない……という事になっているようだ」
「――ってことは、つまり喧嘩か!」
それだけわかれば十分とでもいうように、昭の凶相が凄味を増した。
そして、しげるもその理解を訂正しようとはしない。
だが、その理解には大きな条件が欠けていたのである。
昭たちは、これからそれを知ることになるのだ。
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