第10話 悪役令嬢、いじめっ子を蹴散らす



「こんなところに、最近調子に乗ってるジンたん発見〜!」


 4階奥の男子トイレ、人気のないそこで俺は星野たちに囲まれていた。


「えっ……」


「お前さ、あの美人な子をホームステイさせてるんだって? ほんとお前ってグズでダサくてゴミな癖に環境には恵まれてんの? あ?」


 バコンと突き飛ばされて、個室トイレの壁に背中がぶつかる。そのまま星野は俺の頭を掴んで強引に座らせた。


「覚悟しろよ、ってかただで帰れると思うなよ」


 星野は俺をじっと睨むと拳を振り上げて頬に1発。それを撮影する取り巻きと笑っている取り巻き。


「痛いっ!」


「先公になんか言われたら転んだって言えよ? まぁ、お前をいじめても文句を言う親もいないし関係ねぇけどなっ!」


 今度は腹に蹴りが入る。


「死んじゃう、やめて」


「死ねよ、お前なんか生きてたって迷惑にしかならない」


 星野が足を振り上げるのが見えた。笑っている取り巻き2人が俺にスマホを近づけるのが見えた。


 その奥に——金色の綺麗な髪が見えた。


「そこまでですわ!」


 驚いて動きを止めた星野たち、トイレの入り口にスマホを構えて立っているのはマリーさんだ。


「お前……っ」


「いじめを全世界に配信中ですわ〜!」


「はぁっ? 何言ってるんすか、俺たち遊んでただけで」


「星野くん、いじめや暴力はいけませんわ〜! あら、そうこうしていたら先生たちがやってきましたのよ!」


 男子トイレに集まってきた先生たちが俺と星野たちを引き剥がす。俺は担任に肩を支えられて立ち上がった。口の中は血の味だしお腹も痛い。


「大丈夫か、すぐに病院に行くぞ。武田先生のところに行こうか」


「すみません」


「なんで荒川が謝るんだ。謝る必要ない、行くぞ」


「先生、ワタクシも同行しますわ。お姉さまにもご連絡をワタクシが」


「あぁ、すまないなロージェ。それから、お手柄だったぞ」


 褒められて、余裕の笑みを見せたマリーさんは俺にウインクをした。先生はそれをただのウインクだと思ったのだろうが違う。


——これはすべてマリーさんの計画だったのだから



*** 昨夜 ***


「星野、というのを懲らしめるのにはもう上からの鉄拳制裁しかありませんわね。聞くところ、彼はなんらかの理由でジンに嫉妬しているか単なる弱いものイジメですの。そういう輩は……そう、前の世界でのワタクシのように悪行を明るみにするほかありませんわ」


「っていっても……」


「ジン、あなたがいじめられているところをワタクシこのスマホを使って『証拠』を撮りますの。かつて、ワタクシがあの女にそうされたように……」


 そういえば、マリーさんはヒロインに誘い出されて暴行現場を目撃されて死罪になったんだっけか。それを俺がやる……と。


「じゃあ、俺が囮になるってこと?」


「えぇ、この一回わざといじめを受けにいくのですわ。そうすればもう2度とそうされなくなる……ですわ」


「でも星野たちはどうにかできても……秦野さんたちは? 星野たちが退学になったら俺に対するいじめが加速するんじゃ……?」


「それは簡単ですわ。あのような女性たちはみな『価値』をみて決めていますの。つまり、今のジンを彼女たちがいじめるのは今のジンにはそれに見合うだけの価値がないと思われているからですわ」


「つまり?」


「ジンに価値を付与してあげればよいのですわ。例えば、あの学園で1番の人気者である私がジンを大好きだと公言するとかですわ」


「え、えぇっ……」


「とにかく、女の子たちはのちのちで問題ございませんわ。ジン、しゅみれいしょんをしますわよ!」



*** ***



「マリーさん、ありがとう」


「とんでもございませんわ。ジン、怪我は大丈夫?」


「多分、骨は大丈夫だってさ」


 病院にまでついてきたマリーさんは心配そうに俺の手を握った。星野たちはどうやら退学になるとのこと、いじめの告発にビビったクラスメイトが俺に謝罪のメッセージを送ってきていたので情報を得ることができた。


「ジン、明日からはきっと良い学園生活に一歩近づくはずですわ」


「そう……かな?」


「えぇ、だってワタクシがいますもの。これからジンを虐めようとする人たちにはワタクシ容赦しませんわよ。こう見えて私、結構悪いんですの!」


 彼女は悪戯っぽく笑うと俺を優しく撫でてそれから歩き出した。


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