第9話 悪役令嬢、作戦を立てる



「おいひいですわ〜!」


 アメリカンドッグを頬張り、片手にはコーラ。机に広げたポテチとチョコ菓子は食い散らかされている。


「よかった。マリーさん、はいティッシュ」


「失礼しましたわ」


 彼女はティッシュで口元と手を拭うと満足そうに息を吐いた。異世界にはないであろうものたちをチョイスしてみたが大正解、とても嬉しそうだ。


「さて、しゅわしゅわなティータイムを終えたところで作戦会議をしましょう」


「作戦会議?」


「えぇ、ジンが人気者になるための作戦会議ですわ」


「俺が人気者に? なんで」


「なんでって、決まってるじゃない。ジンはワタクシのパートナーになる殿方。学園1番の人気者でなければなりませんわ!」


 圧倒的悪役令嬢感を漂わせながら彼女は俺の手を握る。自信たっぷりの瞳、不敵な笑みはまるで悪役だ。いや、この人元々悪役だわ。

 けれど、どうして俺が彼女のパートナーに?

 っていうか、パートナーってそういうこと……だよな?


「マリーさん、俺がパートナーってそれ」


「そのままの意味ですわ。いけませんこと? あら、もしかして、他に思いを寄せているご令嬢がいらっしゃる?」


「そういうことじゃなくて、マリーさんは俺なんかでいいのかなって……だって俺、こんなだし、マリーさんに似合うような男じゃないし」


「どうしてですの?」


「えぇっ?」


「ですから、どうして似合う男じゃないと決めつけなさるの?」


「そりゃ、俺は冴えないやつだし……マリーさんだってクラスにいてわかったろ? 星野みたいなスポーツができる顔がいいやつ、やんちゃなやつやお金持ちなやつが人気なんだ。少なくとも、この世界の学生は」


 残念ながら俺はそのどれもに当てはまらない。ましてや、転校早々カーストトップに躍り出たマリーさんと、だなんて。


「そう。では変われば良いのですわ。人間は変わることができる。ワタクシだって、そうよ? そのために新しい場所に来たんだもの。だからその……」


 さっきまで、悪役ヅラをしていた彼女が少しだけ恥ずかしそうに口籠った。俺はいじめられているというのに変わるのが怖くて彼女の誘いに頷くのが怖いと感じている。

 返事をできないでいる俺に、痺れを切らしたのかマリーさんが畳み掛ける。


「ね、ジン。あの学園で1番になりましょう! いいえ、そうして差し上げますわ! まずは、あのいじめっ子たちを蹴散らしますわよ!」


「ま、マリーさん?」


 なんて強引、なんて自分勝手。

 けれど、断れない性格で優柔不断な俺にはこのくらいがちょうど良いのかもしれない。良いのかもしれないけど……ちょっと怖い。


「ジン、先ほども話したように星野はきっと貴方の何かが羨ましいと思っているはずよ。彼と貴方の関係性を教えてくれないかしら」


「えぇと、星野は……中学の時からの同級生で、あいつが俺をいじめるのは多分だけど単純に弱いものいじめだと思う。俺なら殴っても殴り返さないし、親もいないから俺をいじめても怒るやつがないし」


「では、出会った瞬間から星野はジンをいじめていたの?」


 星野との出会いは、中学一年生の時だ。その時から彼はサッカー部で人気者な上やんちゃな性格で人気者だった、おまけに顔もかっこいい。


「覚えてない……けど、星野からのいじめが加速したのは中2かな。理由はわからない、いきなり放課後に殴られてそれからずっといじめられてる感じ」


「ではずっと彼が中心?」


「ここのところそう。女子にはずっとキモいって言われてるし、学校という学校でこんな感じだよ、ハハハ」


 苦笑いをする俺とは対照的に真剣な顔の彼女。


「ジン、仕方ないことではありませんわ。笑って済ませることでもありませんわ。わかりました、それでは星野に関しては心残りはありませんわね」


「えぇっ、物騒だなぁ……まぁないけどさ」


「ジン、スマホでは今を映し出すことができるのですわね?」


「あぁ、動画? 取れるよ。今日クラスの女の子たちとSNSのショート動画とってたよね?」


「えぇ、あれですわ。そう、教えていただける?」


「OK。どうして?」


「これを使って、星野たちを追放いたしましょう!」


 マリーさんは地頭がいい。その上、一度死んでいるので大胆不敵だ。


 俺には思い付かないようなその計画はすぐに実行されることとなった。




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