自己紹介
本当に訳がわからない。
帰ろうとする自分の手を掴んで引き留めてきた機械生命体の前に座らされた僕は困惑の表情を浮かべる。
「それでは改めて初めまして」
そんな僕の前で、機械生命体は一切表情も崩さないまま口を開き始める。
その口から紡がれる声は実に美しいものであったが、その代わりに何の感情も感じることが出来ず、やはり目の前にいる存在が貴族であるのだと実感させてくる。
「私の名前はハル。機械生命体が番外製造品。以後、お見知りおきを」
……番外製造品。
だから、目の前にいる機械生命体は不良品なのだろうか?
「高い戦闘能力に生存能力、自己修復機能まで併せ持った戦闘のスペシャル機体であり、会話機能から奉仕機能まで備え付けられている番外に相応しいフルスペックを有している高性能機」
そんな失礼なことを考える僕の前でハルは自身のカタログスペックを語っていく。
うーん……ただの人間には機械生命体がどうとかわからないが、それでも語っている感じを見るにおそらくは非常に高品質なのだろう。
高いスペックをつけた結果として、根本的なものに欠陥が出てきてしまったという感じなのかな?
「……」
「……あっ、自分の自己紹介とかもしておいた方がいいよね」
自分の性能について語り終えた後、一切喋らなくなってしまったハルを前に、僕は自分も名乗るべきだったかと思って口を開く。
「却下。不必要」
だが、そんな僕の言葉をハルは迷いなく否定する。
「こちらはエクスの情報を収集済」
「……なぜ?」
何で、たかが一人の人間の情報を機械生命体が有しているというのだ?
まず、そこからして謎何だけど。
「エクス・プリメント。年齢は十二。身長150.2cm。体重42.4kg」
そんなことを思う僕の前でハルは口を開き、淡々と事実だけを述べていく。
「性別、男性。性的対象、女性。性交渉経験なし。プリメント家の長男として生まれるも、すぐに両親は外界探査の時に死去。生まれながらに天涯孤独の身となったエクスは己の両親と仲の良かった夫婦に引き取られる。その両親の娘として生まれていたニーナ・カターニャの幼馴染として仲を深めながら育つ。いつも元気で外を駆け回るニーナとは違ってインドア派であり、村に残されていたわずかな本を黙々と、時には失伝している単語などを翻訳しながら読んでいた。そのために外の世界の知識と過去の人類社会には人類基準で高水準の知識を有している。インドア派ではあるが、だからと言って体が動かせないかと言えばそんなこともない。生まれながらに運動神経が良い方であったことに加え、永遠とニーナの手によって様々なところを引きずり回されていたおかげで多くのことを経験し、それに伴ってかなりの体力と筋力をつけた。好きな食べ物がもやしで、嫌いな食べ物が虫。好きな色は緑。お気に入りの本は過去の人類文明について書かれたもの。好きな女性のタイプは明るく元気で積極的な子。その理由が自分からグイグイ行けるタイプではないので、相手に引っ張ってほしいから……」
そして、ハルの口から語らえる情報はすべてこちらの情報を的確に言い当てていた。
「えっ?こわっ……」
僕は目の前にいる存在から語られる自分の詳細な情報にドン引きするのだった。
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