キス
何が、起きている?
「んちゅ……ん、はむっ」
「~~ッ!?」
唇に触れる柔らかい感触と口内を蹂躙する舌の感触に驚愕する僕が慌てて目を見開けば、己の視界に入り込むのは純粋な紅。
何処か本能的に魅入られる感情見えぬ紅の瞳。
この瞳は、つい先程まで僕の前にいた──。
「……んはっ」
そんなことを僕が思うと同時にゆっくりと、自分に触れていた柔らかな感触が離れていく。
僕の唇からは艶やかな輝きを放つ唾液の糸が薄く伸びている。
「な、な、なっ……」
今、一体僕は何をされた???
僕は困惑で体を止めて硬直する。
「どう?」
そんな僕の体へと目の前にいる機械生命体が手をこちらへと伸ばしてくる。
「あひゃんっ!?」
そして、触れたのは僕の下腹部についている急所であった。
「小さい」
僕の急所へと触れた機械生命体がいの一番に告げたのは小さいという評価であった。
「何がっ!?」
その言葉が何を意味するのか。
僕は困惑しながらいきなり急所を狙ってきた機械生命体へと動揺の声を上げる……いや、何で?
こちらへの敵意があるのであれば腕の一振りで殺せるはず。
そのような存在が何でこちらの急所をわざわざ……?
「疑問。何で大きくならない?」
「いや、本当に何の話をしているのかわからないんだけど」
僕は機械生命体の言葉に対し、ただただ困惑の言葉を述べ続ける。
自分の死を少し前に覚悟した僕が何で、こうして訳もわからない機械生命体の言葉に困惑しているというのだ。
いつもなら、人類など羽虫を払うように叩きのめす機械生命体が。
「何故?」
「……僕も色々と何故?と返したところなんだけど」
そもそもとして、機械生命体が人間に話しかけていること自体イレギュラーだろう。
もう、さっさと殺してほしいのだが……。
「……」
僕は自分の前にいる機械生命体へと改めて視線を送る……うん。確かに僕の前には何の感情も浮かばない無表情を携えた機械生命体がいる。
そして、それがこちらへの敵意を持っていない上に攻撃もしてこないのも合わせて理解する。
「……はぁー」
魔道生命体の中には人間に殺されるような特段弱い個体が生まれていることもある。
そんな個体が機械生命体にいるとは思えないが……目の前にいる個体がそうだったのだろう。
「悪いけど、僕はもうこれで」
ならば僕がこの場に居座る必要なんてない。
さっさと自分を楽にしてくれる存在を探しにいかなくては。
「じゃあね」
結局、神殿には何かわからないガラクタがあっただけだったな。
そう結論付けた僕は迷いなくここを後にしようとする。
「許さない。私のそばから離れるなんて絶対に。これから君はずっと私と共にいる」
だが、そんな僕の手を機械生命体は迷いなく掴んで引き留め、そのまま一切の感情が感じられない棒読みの言葉をこちらへとぶつけてくる。
「……はぁ?」
そんな機械生命体を前に僕は困惑のまま言葉を吐き出すのだった。
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