黄金のようにキラキラと輝く髪に、こちらを真っすぐに見据えている碧い瞳。

 それらを持った可愛らしい少女が今、僕の前で満面の笑みを見せている。


「ねぇ、知っている?この世界には果て無く続く砂の大地、ありとあらゆるものを飲み込んじゃう炎の大地に、私たちが見たことないくらい大量の水と塩がある恵みの大地があるんだって!」


 そんな少女、ニーナは僕の前で満面の笑みを携えながら元気よく言葉を響かせる。


「……知っていると言われてもさぁ、僕はもう君から飽きるくらいに聞いたよ。知らないわけがないじゃん」


「何度だった話すわよ!ちゃんと忘れていないか確認するためにね!」


 呆れながらつぶやく僕に対してニーナは元気よく告げる。


「約束だよっ!エクスっ!」


 そして、そのままニーナは輝くような笑顔で僕の名前を呼ぶ。


「んっ?」


「大人になったら、二人でこの広大な世界を見て回ろう。そして、砂の大地も、炎の大地も、恵みの大地もそのすべてを見に行こうねっ!」


「あぁ、うん。いつかね」


「あーっ!今、何か適当に答えたでしょー!ダメだよぉー!そういうの!しっかりとわかっちゃうんだからねっ!」


 いつものように僕の元にやってきて同じような夢を語るニーナとの他愛もない子供らしい会話。

 そんな会話を楽しめるような、彼女との平和な日常が続けばと思い続けていた。

 あぁ、でも。

 

 ……。

 

 …………。


 燃えていく。


「いやぁぁぁぁぁ、やだぁぁ、痛い……うわぁぁぁ!?」


 村が燃え、血の雨が降り、ニーナの小さな体が大きな大きな魔道生命体の手につかまっている。


「助けて……助けて……嫌だぁぁぁ、死にたくない。死にたくないよぉぉぉぉぉ、エクスぅぅぅぅ!」


 魔道生命体に捕まっているニーナがどれだけ暴れて叫んだところで無駄。

 彼女の体はゆっくりと持ち上げられていき、魔道生命体が大きく口を開ける。


「……ぁ」


 そして、そのままニーナは丸呑みとなった。

 唯一、魔道生命体の口の中に入っていなかった彼女の爪先だけが地面を転がる。


「あぁぁぁぁぁ……」


 そんな様を、倒壊した建物の下敷きになっていた僕はただ眺めることしかできなかった。

 燃えていく。

 平和な日常が、何もかも。

 ニーナは食われた。


 ■■■■■


 これが、走馬灯だろうか?


「は、ははっ……」


 機械生命体の姿を一目見るなり僕の頭を一瞬で駆け抜けていった幼馴染であったニーナとの記憶。

 それに浸った僕は慌てて取っていた逃亡態勢を解いて足を止める。


「……もうっ」


 今の僕はもうたった一人だ。

 幼馴染は僕の前で死んだ。

 両親は僕の前で死んだ。

 村のみんなは僕の前で死んだ。

 生まれ育った村の中に残ったのは僕だけだった。


「……」


 なら、もう死んでも。

 僕は機械生命体の前で何もすることなくゆっくりと瞳を閉じる。

 ニーナ、僕も今からそっちに───。


「んちゅ」


「……~~っ?!」


 だが、そんな僕へと走ったのは己の命を刈り取る衝撃ではなく、唇に触れる柔らかい感触と僕の口の中を蹂躙する舌の感触であった。

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