出会い

 天が堕ち、地が割れる世界の終末期。

 いつからかこの星を覆いつくしていた機械生命体と魔道生命体。

 その両者による星をも殺さんばかりの悠久の聖戦の中で、両者が現れる前の霊長であった人類は星の隅へと追いやられていた。


 旧世代。

 何処からか唐突に世界へと現れた機械生命体と魔道生命体に霊長として挑んだ人類は大惨敗。

 その数を百分の一にまで減らし、当時にあったほとんどの技術を未来に残せず、世界に散り散りとなった。

 その後は、人類が築き上げた文明社会を面白いように破壊しながら激闘を繰り広げる機械生命体と魔道生命体の狭間でもはや人類は世界の各地に小さな村を作って細々と生命活動を紡いでいるだけの存在へとなり果てている。

 そこにもはやもう、霊長としての姿はないと言っていいだろう。

 

 いや、かつての霊長であったからこそ、もはや機械生命体と魔道生命体、人類の他にほぼすべての種が絶滅した中でも生き残っているともいえるのか。

 まぁ、そんなことは今を生きている僕にとってはどうでもいい。

 この情報でさえ、どれだけ前かもわからない時代から語り継がれている口伝の話であり、どこまで真実なのかわからないのだから。

 重要なのは、そんな世界で僕が何をするかである。


 ■■■■■


 分厚い雲へと近づいていく山道。

 それを登って山の中腹にまで来た僕の前には今、古びた神殿が存在していた。

 

「……本当に」


 低位の魔道生命体の襲撃によって滅ぼされた僕の村。

 そこで共に幼少期から同じ時間を過ごしてきた幼馴染、ニーナが語っていた村から見える山の中腹には神殿がある。

 そんな与太話……それが、与太であったことをこの目で確かめて盛大に自殺してやろうと思っていた僕は目の前にある古びた神殿を前に動揺を隠すことが出来ない。


「ほ、本当にあったんだ」


 ニーナの言っていた話が嘘ではなかった。

 それに驚愕している僕はほぼ無意識で神殿の方へと歩いていく。


「……暗いな」


 ボロボロになった神殿。

 もはや至るところが朽ち、今にも崩れ落ちてしまいそうな神殿の内部を照らす光源は天井に空いた穴から差し込んでくる分厚い雲の光だけであった。


「……何だこれ」


 そんな神殿の最奥。


「……棺桶?」


 そこには棺桶のように見える謎の箱があった。

 

「空くのか?」


 僕は自分の前にある棺桶へと何気なく自分の手を伸ばしていく。

 そして、僕の手が棺桶へと触れたその瞬間。


『生体認証を確認。起動を開始します』


「───っ!?」

 

 当然、棺桶が訳のわからぬ言葉を告げると共に、棺桶が謎に光り輝き始める。

 そして、そのまま棺桶の蓋が勝手に浮かび上がり始める。


「……ぁ」


 勝手に蓋が開いた棺桶の中から、そのまま一人の少女がふわりと浮かびあがってくる。

 見た目としては十五、六歳と言った様子で僕よりは少し上。

 透き通るような白い髪に、これまた透き通るような白い肌の中でひと際輝く血のような紅い瞳。

 その様はまさに絶世の美女と言えるような井出立ちであった。

 だが、その美しい体からは、残酷で暴力的な輝きを携える機械部が露出していた。


「機械生命体───っ!?」


 機械生命体。

 人類では決して敵わぬ天上の存在が今、僕の前でゆっくりと棺桶から目覚めようとしていた。

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