鈍感

「ふぁぁ」

一応ゲームの中ではシャットダウンしている間は、寝ているという設定になっている。なのでゲーム内のベッドに行かないと終了できないのだ。


さて、今日からこのゲーム『ニルヴァーナ』をしっかりやり始めるのだが、まず何からするのだろうか。一般的なゲームでは雑魚敵を倒しまくって資金を集め、いい装備を買うというのが定石だろう。過去にそうゆうのを守ってこなかったせいで痛い目を見てきたので、まずはその定石通りに行くことにした。


やはり、ゲームの中で一番序盤に出てくるモンスターといったらゴブリンかスライムといったところだろう。しかし最近のそれらのモンスターは小説やら漫画の影響を受けてなのかやたら強くなっている気がする。スライムは核を狙わないとどうとか、ゴブリンは集団で襲ってくるからどうとか、厄介な使用が増えた。集団はさすがに厳しいので他のゲームで培った技術を生かせそうなスライムから狩りに行くことにした。


(ここが黎明の草原かー)


『黎明の草原』プレイヤーからは『始まりの草原』と言われている。主にスライムなどの雑魚モンスターしか出ず、始めたての人はここで資金を集めたり練習をしたりする。たまに熟練のプレイヤーが遊び目的で来て大爆発が聞こえるということもあるそうな…


まあとにかくここである程度の動き方について慣れておこう。そう思いさっそく目の前にいた水色の水餅のような生命体『スライム』に斬りかかる。やはりこのゲームでも核を狙わないといけないのか、真っ二つに割れたはずのスライムが見る見るうちに元に戻っていった。


「今度はしっかり狙って…!」


体内にある核めがけて一直線に斬りかかる。見事に核が真っ二つに割れ、スライムは形が保てなくなったように溶けていった。


「よし!」


やはり初めてモンスターを倒す時はうれしいものだ。スライムの体液は回復薬の素材として重宝されているので、事前に持ってきていた採取用の瓶でスライムの液体を採取した。


「この調子でまずはお金を稼ごう」


そう思った時だった。急に視界がぶれ、後ろから斬り付けられたような感覚に陥る。

そのまま倒れこんでしまい、後ろを向くといかにもな服装をした悪そうなやつがいた。ネームタグが見えているのでNPCではない。つまり...


「プレイヤーキラーか…!」


"プレイヤーキラー"

文字通りモンスターではなくプレイヤーを倒して回っているプレイヤーのこと。

その中でも今回は、俺みたいな初心者をターゲットにしている『初心者狩り』というやつだろう。初心者は武器や装備が貧相でかつ動きにも慣れていないので返り討ちにされる心配がない。逆に、それほど勝った報酬も貧相というわけなのだが。つまり、初心者狩りをしているやつのほとんどは快楽目的というわけだ。


「最近、横取りやらなんやらで全然勝てなくてよ〜」

「おかげでストレス溜まりまくりなのよ〜。だからさぁ…」

ーブンッーと剣を振り上げる

「俺の快楽の養分になってくれよぉぉぉ!!!!!!」


(まずい…!)と思いつつも、もちろん俺になすすべなどなく、剣を振り上げられた時だった。


―バコォォォォォォォォォン!!―


突如目の前に人間の力ではありえないような砂埃が起こる。


「ごほっごほっ、今度は何だ...」


しばらく経って砂埃が晴れると中から出てきたのは黒髪ロングの女の子だった。まるで誰かを彷彿とさせるような…誰だっけ?そんなことはどうでもいい。彼女の足元を見てみるとそこには消えかかっているさっきのプレイヤーキラーの姿があった。もう倒されて、最後のセーブポイントに戻されるところなのだろう。


「だいじょうぶですか?」

「あ、はい。ありがとうございます」


気遣いが素晴らしくて忘れそうになっていたが彼女、相当強い。おそらく、リリースされた当初からやっているレベルだろう。


「お怪我は...背中にひどい傷を負っていますね。ちょっと待ってください。んっしょっと」


彼女は自分のアイテム欄からかなり高い回復薬を取り出すとためらうことなく自分の傷口に使ってくれた。ほんとに彼女には感謝しかない。これも誰かを彷彿とさせるような...うーん、やっぱり思い出せない。


「申し遅れました。私『BB』といいます。たまたま通りかかったところPK(プレイヤーキラー)に襲われていたので…」

「いえ、ありがとうございます。おかげで助かりました。自分は『ソーヤ』といいます。」

「ソーヤさん...やっぱり…」

「え?やっぱりってどうゆう…」

「いえ!なんでもありません。あの、もしよかったらフレンドになってくださいませんか?」


突然すぎる申し出に動揺する。なぜこんなに強い人からフレンド申請が来るのかわからない。こんなちっぽけな初心者とフレンドになっても何にもならないのに。もしかして、何か裏があるのか?まあ、所詮ゲームだ。ここでフレンドになったからと言って現実に何か影響が出るということはないだろう。


「ええ、なりましょう」


―プレイヤー名『BB』からフレンド申請を受信しました―

―承認しますか?―

―はいー

―プレイヤー名『BB』とフレンドになりました―


記念すべき『ニルヴァーナ』初のフレンドだ。大事にしよう。


「やった…!あ、じゃあ、私はこれで。ではまた」

「はい。またよろしくお願いします」


そう言って彼女と別れを告げた。


――一方――――――――――――――――――――――――――――――――――

「はぁ~。私が美竹ってバレてないよね...」

「それにしても、舞元くん、ゲームでもかっこよかったなぁ~。教えてもらった通りの名前だから間違いないよね…。フレンドになれてよかった~」

「たまたま通りかかったっていう嘘も多分バレてないよね。だってだって!自分が探してた人の前で「人を探してて」なんて動揺して言えるわけないよ!仕方ないじゃん!」

「とりあえず、今日のミッションは達成!明日、琴音ちゃんに自慢しよ~」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


そのあともしばらくスライム狩りを続けた後、十分に資金と体液が集まったところで、宿に戻りセーブをして今日は切り上げた。

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