がらくたどらごん

 あの後、がらくたドラゴンがどうなったかを知っているのは、ボクだけだ。


 その日も、お母さんの大声で起きた。

「何時だと思ってるの、いい加減に起きなさい! あーもう、こんなに散らかして、足の踏み場もないじゃない。少しは片付けなさい」

 お母さんは、床の空き瓶と虫の標本箱をまたぎ、ランタンと昨日のサンドイッチの残りと本が散らかった机を飛び越えると、思い切り窓を開けた。

 全開にした窓から、カーテンがひらひらと外に飛び出し揺れる。

 窓際に置いておいた石達が、カーテンに押し出され、窓の外に落ちてしまった。

「あー! 宝物なのに!」

「宝物ならこんな所に出しっ放しにしないで、ちゃんとしまっておきなさい」

 お母さんは、また机を飛び越え標本を跨ぎながらそう言うと、廊下から箒と袋を持って戻ってきた。

「自分で片付けるのと、お母さんがやるの、どっちがいい?」

 急いで箒と袋を奪い取ると、お母さんはやっと出て行ってくれた。

 

 見える所のゴミを箒でちょいちょい。何となく集めて部屋の隅っこのいつもの所へ。

 部屋の隅っこはもうゴミでいっぱいだったけど、まだお母さんに見付かってないからまだまだ大丈夫のはず。

 次は宝物。

 まん丸な石に、蛇の抜け殻。(萎れて小さくなっちゃったけど)大きなマンドラゴラの葉っぱに、(たぶん)百目鬼のまつげ。メデューサの鱗に、イエティの毛に……最近手に入れた宝物を、まとめて袋に入れていく。

 でも、一番のお気に入りは、大事に大事にポケットに。

 ベッドの上の宝物達を袋に詰め、枕をどかす。

 この前、幼馴染みのティムとエクサとマンドラゴラで度胸試しをした時に見付けた、魔物の牙。

 なんの牙か分からないけど、ボクの手のひらくらいある大きな牙は、間違いなく魔物のものだ。

 ぶつかったり勝手に落ちたりで、鱗や毛や抜け殻はよく見るけど、牙は初めて見付けた、一番の宝物だ。

 枕カバーをぐいっと引っ張り外し、牙をぐるぐるに包む。

 ポケットに入れたらパンパンで、ちょっとはみ出しちゃった。

 袋を背負い、ポケットを抑えながら、ボクだけの秘密基地、宝物庫へ出発。

 まずは、この部屋から脱出。

 カーテンレールの上に隠したロープを窓から投げ降ろし、するする降りていく。

 地面まであと少しって所で、ぴょんっと飛び降りると、背中で宝物達がガチャガチャ鳴る。

 お母さんに見付かったら大変だ。部屋に連れ戻され掃除と勉強とご飯にお使いに……早く早く急げ急げ。

 

 壊れた柵をくぐって隣のうちの庭へ。お隣は庭に虫除けスライムを飼っているから、見付からないようにぐるっと花壇の裏に回って、裏道に出る。

 二軒分裏道を走って角を曲がって、雑貨屋さんの屋根に登って近道をする。

 屋根から屋根に走って、ティムの家の屋根から通りに飛び降りたら、ばったりお父さんと会ってしまった。

「なんだ? そんな大荷物抱えて。朝ご飯は食べてきたのか? 父さんこれからティム君のお父さんと出かけるから、マンドラゴラを見付けても、度胸試しはするなよ」

 そうだった。今日お父さんはティムのお父さんと魔物討伐に行くんだった。

 ティムのお父さんにぺこりと頭を下げる。

「また『宝物』持ってくるから、あんまり母さんに心配かけるなよ」

「うん! 今日こそドラゴンの鱗持ってきてね!」

 見えないように宝物を背中に隠し、二人にばいばいする。

 お父さんはいつも魔物討伐に行ったら、何か宝物を持って来てくれる。

 ハーピーの羽根にアルラウネの花びらに、街の周りに無いものを持ってきてくれる。

 でも、一番の宝物はまだ持ってきてくれない。

 ぎゅっとポケットの中の宝物を握りしめ、秘密基地に急ぐ。


 街外れの渓谷の中腹にある、トレントの枯木。

 ちょっとずつ集めたトレントの枝を組んで作った、ボクだけの秘密基地。

 見付からないように葉っぱとか石で隠して作った、ボクだけの秘密基地。

 石を退かし、トレントの枝で作った入り口を開ける。

 中はボクの部屋の半分ほども広くないけど、ボクは十分満足している。

 部屋の隅の二つの望遠鏡の隣が、宝物の隠し場所。

 袋を逆さまにし、持ってきた宝物達を全部出す。

 もうそろそろ低い天井に届きそうなほど、宝物でいっぱいだ。

 おっと忘れていた。

 ポケットから牙を取り出し、一番上にそっと置く。

「いてっ!」

 牙に引っかけて指を切っちゃった。

 何の牙か分からないけど、触っただけで指が切れるなんて、これは凄い魔物の牙なのかも知れない。

 痛いけど興奮の方が強くて嬉しくて、危ないって分かっていても何度も触っちゃう。

 街の方からお昼の鐘の音が聞こえてきた。

「ヤバい! またお母さんに怒られる!」


 ※


「今日中に全部片付けなさい」

 庭掃除とお使い、勉強に畑の水やりにスライム小屋の水交換。

 午後からずっと家の手伝いをして、晩ご飯の後、やっと終わったと思ったのに、また箒と袋を渡された。

「困ってないし、ボクの部屋なんだから別に良いじゃん。いつもいつもうるさいなぁもう」

 箒でちょいちょいとゴミを集めて、角に寄せる。

 大きなゴミも拾って袋に入れるけど、宝物って訳じゃないけど、どれもこれも本当は捨てたくない。

 でも、何か捨てた、片付けたって見せないと、ずっと寝かせて貰えそうにない。

 渋々崩れた本と標本を積み直していると、窓がコツコツ鳴った。

 窓を開けると、ランタンを持ったティムが汗だくで転がり込んできた。

「おい! 渓谷にドラゴンが出たって!」

「ドラゴンが!? 見に行こう!」

 こんな街の近くにドラゴンが出るなんて!

 急いでランタンを手に取り、ティムの背中を押す。

 ティムが準備した、屋根の上から垂れ下がったロープを掴み、下に降りる。

 朝と同じように、壊れた柵をくぐって隣のうちの庭へ。

 隣のうちの花壇をぐるっと回って、裏道に出る。

 二軒分裏道を走って角を曲がって、雑貨屋さんの屋根に登って、屋根から屋根に走って、ティムの家の屋根から通りに飛び降りる。

「どんなドラゴンだろう。どこから来たのかな。逃げてきたのか狩りに来たのか、どう思う?」

「暗くてよく見えないけど、なんか見たこと無いドラゴンだって、エクサの父ちゃんが言ってた」

 二人でランタンを手に走る。

 街のあちこちに灯りが付いて、大人達は武器を手に渓谷の方へ走っていく。

 警備のおじさん達が、家を一軒一軒まわって避難しろって言っている隣を走り抜け、渓谷の入り口を横に反れる。

「おーい!」

 大人達とは逆に、渓谷を下に下にと進むと、崖のくぼみにエクサが居た。

「ドラゴン見た?」

「ううん。父ちゃんの話だと、もっと奥で飛び回ってるって。けど、ここもいつ危なくなるか分からないよ」

 ランタンを消して隠れていたエクサは、空をキョロキョロと見回すと、また崖のくぼみに隠れてしまった。

「どうする? 襲われたり、戦いに巻き込まれるかも。今日は父さん達が魔物討伐で街に居ないから、戦える人が少ないんだ」

 さっきまで興奮していたティムも、エクサの話ですっかり弱腰になってしまった。

「……ボクは見たい。二人とも帰ってて良いよ! お母さんに会ったら、先に避難したって言っておいて!」

 どうしても、ドラゴンが見たい。

 二人にそれだけ言って、とりあえず秘密基地を目指し走り出す。

 ちょっと回り道しちゃったけど、秘密基地まではあと少し。

 あの大岩を越えた先が秘密基地だ。

 火の付いてないランタンを抱え、うっすらとしか見えない足場を早足で歩く。

 何かに躓き、大岩にしがみつく。

 危なかったと、大岩から顔を離す、見えた光景に思わずランタンを落っことしてしまった。

 ボクの秘密基地があった場所は、何かが暴れたみたいに崩れ、潰れてしまっていた。

 何が暴れたのか。見上げると、真っ黒な夜の空を、変な鳴き声を上げ飛び回るドラゴンが見えた。

 ガチャガチャぎしぎし、カーンカーン。

 鳴き声も変だけど、羽ばたく音もギシギシごんごんとなんか変だ。

 ようく見ようと大岩の脇に座り込み、目をこらす。

 渓谷の上では、大人達が松明を振り回したり、大きな音を立てたりドラゴンを追い払おうと騒いでいる。

 松明やランタンの灯りに照らされて、渓谷にドラゴンの影がチラチラうつる。

 まん丸で飛び出した不格好な目。翼はなんだか骨張った葉っぱみたい。

 もっとよく見たい。

 渓谷にぐいっと体を乗り出し、ランタンを灯し振り回す。

「あ!」

「下に子どもが居るぞー!」

 ボクが声を出すのと同時に、渓谷の上から声がした。

 しまった! ランタンをつけたから、大人に見付かっちゃったんだ!

 大人達が何処だ何処だと騒ぎながら、渓谷の端に集まってくる影が見える。

 逃げなきゃ!

 ボクはまた、大岩をぐるりとまわり、今度はランタンをつけず、街に向けて走り出した。

 ちょっと見えたあのドラゴンは――

 

 ※


 みんなで渓谷とは反対側の、領主さまの砦に避難して、一晩をすごした。

 ドラゴンが出たって知らせは、夜のうちに他の街に住む領主さまの所へ送ったらしく、すぐにでも騎士さま達が来てくれるだろうって。

 ボクはお母さんに怒られた。

 お母さんは大泣きしてボクの頭を叩いて抱き締めて、朝までずっと泣きながらボクを抱き締めたまま離さなかった。

 隣の家のおばちゃんにも、裏の家のおじさんにも怒られた。

 渓谷には行ってないって嘘をついたけど、みんな分かっているみたい。

「ドラゴンが出たとあっちゃ、街一番のドラゴン少年がやることは一つだわなぁ」

「ちょっと、変なこと言わないで下さい! ……砦の塀の中でなら、ティム君達と遊んでも良いわ。絶対に外には出ないで。絶対によ」

 うらの家のおじさんもお母さんに怒られていた。

 またお母さんが怒り出す前に、ティムとエクサと合流して、砦の上まで駆け上がる。

 普段使われないこの砦も、ボクたちの遊び場所。どこに何があるかなんて誰よりも知っている。

 上へ上へ、レンガを外して隠し階段に飛び移り、更に上へ上へ。

 砦の一番上に出ると、皆一斉に街の方へ身を乗り出す。

 大人達は砦の外の高台から街を見て、動かなくなっていた。

「うわっ、ひっでー……ゴミ山じゃん」

 ティムの言葉に、エクサも無言で頷いた。

 違う。ゴミ山なんかじゃ無い。宝物の山だ。

「やっぱり! あのドラゴンはボクの宝物だったんだ! ボクの宝物がドラゴンになったんだ!」

 大人達と同じように動かなくなった二人の隣で、ボクは全力で飛び跳ねる。

 街に溢れかえる宝物――鱗や角や蔦などの魔物の一部。それを見てボクは確信した。

 ドラゴンの宝物が欲しくて欲しくて、ずっと欲しかったけど、なかなか手に入るものじゃ無い。

 お父さんも討伐の度に探してくると言っているけど、鱗どころか糞すら見付からないって言っていた。

 そんなボクの願いを、神様がきっと叶えてくれたんだ。

 はしゃぐボクの隣で、二人が冷たい目でボクを見ている。

「どーするの? あれ」

「どーするって?」

 エクサが何を言いたいのか分からない。

「あんなゴミ山が家なんて嫌だよ。臭いし汚いし、あんなの、魔物のお墓だよ」

「そーだよ。お前のドラゴンがやったんなら、早く片付けろよ。と言うか、ドラゴンは今どこにいるの?」

 ティムとエクサは文句だけ言うと、ボクを無視して降りていってしまった。

 街中宝物で溢れかえっているのに、なんで二人とも喜ばないんだろう。

 なんだか気まずくて、少し時間を置いてからボクも降りる。

 砦のまわりでは、大人達が集まり話し合っていた。

「引き続き交代でドラゴンの監視と、ドラゴンが大人しい今のうちに瓦礫の除去をしたいが、いつまた暴れ出すか分からない。まだ続くようなら、騎士さま達を待たずに街を捨てた方が良いかも知れない。街道の魔物退治で、戦える男達が出払っている時に……。なんなんだあの、がらくたみたいなドラゴンは」

 街を捨てるだって!?

 たまたま聞こえて来た言葉に顔を上げると、大人達の中に混じっていたティムとエクサがチラリとこっちを見てきた。

 ボクのドラゴンのせいで街が無くなっちゃう。

 ボクのドラゴンが討伐されちゃう。ボクの宝物なのに!

 宝物も大事だけど、街に住めなくなるのも嫌だ。

 騎士さま達が来る前に、ボクがドラゴンを止めなきゃ、街もドラゴンもなくなっちゃう!

 急いで門に向かって駆け出すと、ぐいっと腕を引っ張られた。

 びっくりして尻餅をつけば、エクサがボクの顔をのぞき込んでいた。

「ちゃんと考えてから!」

 ボカッとボクの頭を引っぱたいて、エクサはくるりと振り返る。

「おばさーん! かくれんぼしても良いでしょー?」

 お母さんに確認をとるエクサの向こうで、同じく頭をさすりながら座り込むティムの姿があった。

 ティムもボクと同じように、エクサに引っぱたかれたみたい。

 エクサはボクたちの腕を引っ張り起こすと、そのまま砦の裏に走り込む。

「あのがらくたドラゴンを止めるには、どうしたら良い? と言うか、なんでがらくたがいきなりドラゴンになって動き出したの?」

「がらくたじゃない! 宝物!」

「どっちでも良いよ」

 あんまり言うとまた引っぱたかれそうだから、がらくたってことにしておこう。

「何もしてない。昨日もいつもみたいに秘密基地に宝物を隠しに行っただけ。ホントだよ。宝物でちょっと指を切ったくらい。それくらいだよ」

 二人に切った指を見せながら、何故だかボクじゃ無いって必死になる。

 ボクの宝物でボクのがらくたドラゴンだけど、ボクがやったんじゃない。

 でも、それを言ったらきっと卑怯だって言われちゃう。だって、ボクが街をめちゃくちゃにしちゃったみたいで、怖いんだ。

 でも、二人とも真剣な顔で考え込んでいて、ボクのことなんて気にしていないみたいだ。

「宝物ってあれだろ? 昔少し見せてくれた、珍しい魔物の素材。色んな魔物の素材がいっぱい集まった所に、血。うーん、魔物の力が残ってて、ドラゴンの形になっちゃったとかかな……?」

「どうなんだろ。じゃあ、力が無くなったら、元のがらくたに戻るのかな? でも、段々力がついて行くだけかもしれない」

 魔物の魔力が残っていて、ボクの血で一つになって暴れ始めた。

 ボクのせいじゃないのに、ボクのせいだ。

 どうやったらがらくたドラゴンを止められるんだろう。

 三人でうんうん意見を出し合い悩んでいたけど、ふと、思い出したことを言ってみた。

「と言うか、なんで二人が考えてるの?」

 えっ? と、揃えて言ってから、二人は動かなくなっちゃった。

「心配してくれてたの?」

「そりゃそうでしょ! 一人で渓谷の奥に行っちゃった時はどうしようかと思ったよ!」

 ずっと我慢していたみたいで、二人はどれだけ心配したか、一人で行かせて後悔したか、勇気が無い自分が悔しかったか、そして、どれ程ドラゴンが好きかを、代わる代わるまくし立てて来た。

「もう一人でなんか行かせない」

「そうだそうだ! ボクたち三人でドラゴンを倒すんだ!」


 ※


 作戦はこうだ。

 掃除する。以上。

「手入れもしないでガラクタを積み上げていたのが悪いなら、綺麗に掃除すれば良いんだよ。魔物の素材、聖水で拭いたりしてないんだろ? じゃあみんなで拭き掃除だ」

 ドラゴンを水拭きする。

 他に何も方法が思い付かなかったから、ティムのその言葉を信じることになった。 

 聖水とモップは砦に大量にある。あとはそれを持って、ドラゴンの所に行けばいい。

 ドラゴンは今どこにいるんだろう。

 大人達なら知っているかもしれない。噂好きの大人達のそばにいれば、ドラゴンの情報なんてすぐに手に入る。

 砦の裏に聖水とモップを隠し、一度大人達と合流する。

 みんな相変わらず砦の前で、立ったまま話をしていた。

「あのドラゴン、炎じゃなくてガラクタを吐き出しやがる。街も渓谷もガラクタだらけだ」

「襲っては来ないみたいだけど、気味が悪いわね……」

「なんでも渓谷から出て、今は街の中にいるらしいじゃ無いか。新しく出来た、サンドイッチ屋の辺りだってな」

 新しくできたサンドイッチ屋! ボクの家の隣だ!

 いても立ってもいられず二人の腕を引き、砦の裏まで走る。

 二人も目を輝かせて、大急ぎで聖水とモップを担ぐ。

 砦はボクたちの遊び場だ。大人たちの知らない道だって、ボクたちは知っている。

 砦の裏から山沿いに進み、崖の上の大人たちに見付からないように、滝の裏の道を通る。

 この道も、ボクたちが作ったものだ。

 街のそばまで来て、一回休憩。街に入る時が、一番見付かりやすい。

 崖の上の大人たちを木の陰から確認し、タイミングをはかる。

 少しよそ見をした隙に、ボクたちは秘密の抜け穴から街の中へと滑り込んだ。

「うーわ、ひでぇ……」

 街の惨状を目の当たりにしたエクサが、ぽつりと呟いた。

 街中宝物だらけ! って喜びそうになるのを、必死で耐えた。

 まん丸な石に、蛇の抜け殻。大きなマンドラゴラの葉っぱに、百目鬼のまつげ。メデューサの鱗に、イエティの毛。

 どこを見ても、ボクの宝物と同じものばかりだ。

 がらくたドラゴンは、本当にボクの宝物なんだ。

 パン屋さんの看板に引っかかったイエティの毛束。壁に突き刺さったメデューサの鱗に、窓枠からふさふさと生える百目鬼のまつげ。

 街中がめちゃくちゃだ。 

 三人ともしばらく街の入り口にぼぅっと立っていたけど、崖の上からする大人たちの話し声に、はっと走り出す。

 マンドラゴラの葉っぱを踏み越え、階段に転がるまん丸な石に転び、見たこと無い程大きな蛇の抜け殻の中を進む。

 なにかの骨が地面から生えたみたいに通路を埋め尽くしていて、なかなか進めなかった。

 でも、がらくたの影に隠れられたから、大人たちには見付からなかった。

 家のそばまで来ると、がらくたドラゴンの姿が見えた。

 ボクの部屋のすぐ上の屋根の上で、尻尾をだらんと垂らして丸まっていた。

「どうしよう。見付からないように部屋の中から行くか、一気に屋根を攻めるか」

「外からは危ないよ。まだ部屋の中のが良い」

 うんっと頷き、三人で二階へと駆け上がる。

 一階にはがらくたは無かったけど、ボクの部屋は割れちゃった窓から少し入ってきていた。

 モップに聖水を染み込ませ、呼吸を整える。

 一、二の、三っと数え、窓から飛び出す。

 がらくたドラゴンの尻尾を掴み、エクサが屋根に駆け上がる。

 続いてティムと二人で尻尾を掴んだけど、驚いたがらくたドラゴンが尻尾を跳ね上げ、ボクとティムは思い切り屋根の上にとばされた。

 間近で見たがらくたドラゴンは、がらくただった。

 飛び出た目は双眼鏡。翼はマンドラゴラの葉で、尻尾はねじれた木。いろんな骨のつぎはぎだらけの骨の体に、所々毛や鱗がくっついている。そして、ボクが指を切ったとっておきの宝物の牙は、ちょこんと一本だけの前歯に収まっていた。

 ぼうっと見上げるボクの横で、エクサとティムは叫びながらモップを振り回していた。

「嫌だー! こっち来るなよー!」

「見て尻尾拭けた!」

 迫り来る翼にモップを叩きつけ交わすティムの向こうで、エクサが大声を上げた。

 尻尾の先だけつるりと清められている。モップが少しぶつかったくらいで、あんなに綺麗になるのかってほど、そこだけ色がはっきりと違った。

 そして、すぐに尻尾の先は元の大きさの木になり、ぽろりとドラゴンの体から落っこちた。

 それを見て、ボクたちは興奮し、必死にモップを振り回した。

 翼、指、左肩に目。

 モップがぶつかる度に、ドラゴンの体はボロボロと崩れていく。

「ぼろっぼろだね。クッキー食べたくなってきた」

「真面目にやれよ!」

 うっかり言ったら、思いっきりエクサに怒られた。

 あと少しあと少しあと少し!

 三人で叫びながらひたすらにモップを振り回していたら、崖の上で大人たちが騒ぐ声が聞こえてきた。

「ヤバい! 見付かった!」

「ヤバいヤバい早く早く! ティムそっち早く!」

「分かってるよー!」

 ドラゴンよりもお母さんのが怖い!

 もうボロボロで、体も半分くらいの大きさになっちゃったがらくたドラゴン。

 三人で必死に追いかけ回しモップを振り回し、あと一息!

 でも、がらくたドラゴンは逃げようと、バサバサと残り少ない翼を動かし、屋根から飛び降りた。

「やー!」

 ボクは、思い切ってがらくたドラゴンに向かって飛び込んだ。

 モップががらくたドラゴンの首をかすめ、一本しか無い前歯にぶつかった。

 がらくたドラゴンが体をひねり、ボクと一緒に窓から部屋の中に飛び込んだ。

 ボクはそのまま部屋の奥のベッドの所まで転がり、思い切り壁にぶつかった。

 その拍子に、重ねてあった本とか宝物が棚から崩れ落ちた。

 もう! 誰だよこんなに散らかしたの! 絶対片付ける!

 イライラしながらがらくたドラゴンを見ると、がらくたドラゴンは窓のそばでぶるぶると震えていた。

 なにかと思ってみていたら、一本しかない前歯がぽろりと落ちた。

 その途端に、体中がボロボロと崩れ、手のひらくらいの骨と葉っぱのドラゴンになってしまった。

 どことなく落ち込んで見えるがらくたドラゴンは、もう暴れる気は無いのか、尻尾を丸めボクを見上げてきた。

「ヤバいよ! 大人たち来ちゃった!」

「怪我は!? ドラゴンは!? いいや逃げろ逃げろ!」

 窓からティムとエクサが代わる代わる顔を覗かせたと思ったら、そのまま大騒ぎしながら逃げて行っちゃった。

「何で置いてくのさ! 一人にしないって言ったじゃん!」

 ボクも慌てて二人の後を追って、家から逃げ出した。

 ――小さくなったがらくたドラゴンを服に隠して。


 街中のがらくた掃除は大変だった。

 集めるのはそこまで大変じゃ無かったけど、全部聖水で洗って他の街に売りに行ったり加工したりするのが大変だった。

 騎士さま達と帰って来たお父さんたちも一緒に作業したけど、聖水が足りなくなったりで、結局一ヶ月くらいかかった。

 ボクたち三人は酷く怒られた。

 片付けをしていた一ヶ月ずっとグチグチ怒られ続けた。

 思い出すのも嫌だ。

 それからボクは、部屋をちゃんと片付けるようになった。

 宝物集めは変わらないけど、部屋の入り口に聖水を置いて、ちゃんと拭いて綺麗に飾ることにした。

 そこだけは、がらくたドラゴン様々だって、みんなが笑って言うのが本当に気に入らないけど。

 騎士さま達は、がらくたドラゴンが何処に行ったか、新種のドラゴンなのか何なのか調査するって、しばらく街にいるらしい。

 がらくたドラゴンはもう二度と見付からないと思う。

 がらくたドラゴンが、今どこでどうしているかは、ボクとがらくたドラゴンだけの秘密だ。

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