マッサージ師の姦計にハマるエルフは、性癖に抗う事ができない

第22話 盗撮した元教師は淫らなエルフの夢を見るのか

 私は寒さを跳ねのけ、勉強のためにマッサージ店へ向かう。


 上山の教え方は、私のレベルに合わせた指導をしてくれて、長年の教師の経験を活かしているのだろう。


 大学に通って1年も経ってない私の経験を見抜き、専門用語を使わずに教えてくれた。


「座学もいいが、スポーツ療法士は経験も必要だ」と見習いと言う名目で客の施術を見て、勉強させてもらっている。


 しかし今は、患者を相手にできないから見学中心になっていた。


 夜になると客が途絶え、閉店準備をした後に、私の体調を見てくれている。


 首筋と肩を押さえて筋肉のコリ具合を見ていた。


「前に比べてコリは取れているが、まだまだ硬いな」と机に座っているときの姿勢の悪さを指摘される。


 コリのほぐし方を教わっても、同じ姿勢を続けているから、すぐに筋肉が固まってしまう。


「そう言っても、パソコンの位置を変えるとか、椅子を変えるのは難しいのよ。お金もないし」


「柊の会社上手くいって……あぁ余計な話か」


 彼はお金がないと言ったことに少し驚いた様子を見せる。


 お父さんは口に出さないけど、経営が良くないことは知っていた。


 机や椅子を変えなくても、パソコンを使う場所を変えるだけで、筋肉の負担が少なくなると教えてくれる。台所で立ちながらパソコンを使うのも良いと教えてくれた。


 彼の店に通うのも今回が4回目。以前に比べて不信感は少ない。


 信頼感が出来てきたからこそ、聞かなければならないことがある。


「聞きにくいことなんだけど、これからも続けるには聞かないといけないから」


 私が今でも拭えない不信感は、夏休みの盗撮ともう1つあった。


 高校2年の春に、指導と言いながら、私の体に触れたことがある。


 肩を抱かれ、腕を掴まれて胸を触れようとした。そんな気はなかったと言っているけど、間違って触れた程度ではなかった。


 このことは、新を含めて家族にも言ってない。


 その時は証拠も出せないから諦めたけど。


「あぁ、柊には話さないといけないな」


 上山は、病気だったと話す。


 女性への性的欲求が抑えられない時があり、日々妄想をしていた。


 ただ、自分の意志で妄想と性癖は制御できるものと思っていたらしい。


「でも違った……」


 そこまで言った彼は、声のトーンが下がる。


 初めは覗く程度だったらしい。一度成功したら、もっと見てみたい、見るだけじゃなく取っておきたいっていた。自分は普通だ、絶対にバレないと思ってたんだ」


 日々大きくなる欲求。


 身近にいる女生徒への性欲。


「歯止めがきかなくなっていた。自分は普通だ、絶対にバレないと思ってたんだ」


「続けていたらバレるに決まってるじゃない」


 彼の盗撮は、犯行に慣れていて初犯とは考えにくかった。


「まさか柊と橋田がいるとは思わなかった。反省した俺は、見つかってすぐに校長の家に行ったよ」


 盗撮は3回行い、盗撮のデータは家に保管してあって、全て校長に渡した。


 校長に、警察に行くと話したら、反省してるなら退職してケジメをつけようと言われてその場で辞めた。


「だから校長先生は警察沙汰にしなかったのね」


「柊が止めなかったら、もっとエスカレートしてただろう。嫌な思いをさせて本当に申し訳なかった」といって深く頭を下げる。


「まぁ過ぎたことだし、反省してるなら私も気にしない」


「本当にありがとう」と、また頭を下げる。


 娘ほどに年の離れた相手に何度も頭を下げられるなら、本当に後悔してるのだろう。


 そしてもう1つ、アドバイスを貰いたいことがあった。


 このことは他に相談できる人がいないし、それに私と新の人生に関わること。でも自分達のこととは言えない。


「友達から……相談されてるんだけど、男の人は、何で寝取られることが好きなの?」


 私から寝取られという言葉を聞いて驚いていた。


「寝取られか……」と言って、苦しそうな表情で目を逸らす。


 上山は少し考えたあとに続ける。


 彼氏が寝取られ性癖を持っていたら、彼女は本当に苦労する。普通の感覚なら別れるだろう。


 大抵の男は独占欲の方が強いんだ。自分のモノに手を出される事を嫌がる。


「女性をモノ扱いしないで欲しい」と怒り気味に話した。


 彼は私を気にせず話を続ける。


「独占欲が強いと、彼女は自分のモノだと考える男もいるんだよ」


 新はモノのように扱う態度は1度もない。


「ただし……」


 と低い声で続けた。


「男は横にいる彼女の裏側を見たくなるんだ。近くに寄り添っていると、反対側が見えない。俺の好きな彼女の、見えないところはどうなってるんだ? ってな」


「好きだったら全部見せてるんじゃないの?」


「好きってことは、自分に心を開いた姿”しか”見せていないよ。柊は俺と橋田に対する態度は違うだろ?」


 確かに新に見せる顔と、友達に見せる顔は違っている。家族もまた違う顔で接している。意識的に変えているわけではなく、自然に変わってしまう。


「心理学でペルソナって言うんだ」


 聞いたことがある。ユングだったかフロイトだったか忘れたけど。


「ペルソナって仮面ってことでしょ?」


「よく知っているな。やっぱり優秀な生徒だ」と言ったあとに続ける。


「ここで性癖に齟齬が生まれる」


「齟齬?」


「彼氏が寝取られ好きで、誰かに抱かせたいとしても、彼女は他人に抱かれたいなんで思わない。彼氏と彼女の想いが合わなくなるんだ。はじめは我慢しても、限界がくる」と頬を掻きながら話していた。


 彼は好きだから、自分に見せないペルソナを見たがる。


 でも彼女は他人に見せるペルソナなんて彼に晒したくない。


「それで別れてしまう……か」


「そうだ。でも、彼女に同じような性癖があったら?」


 大好きな彼女が、他人に抱かれてほしい。


 大好きな彼氏がいるのに、他人に抱かれたい。


「なるほどね……」


 私は初めて寝取られの性癖を聞いたとき、全く信じられず不信感を抱いた。


 でも、新の愛する気持ちを理解したから、疑似の寝取られを受け入れている。


 私は、彼に見せないペルソナを、見られたいのかな。


 それに私は、言葉で責められることが好きなペルソナを持っている……


 この性癖が合わされば、私は”恥ずかしい姿を他人に見せたい”ってことになる。


 いえ、それは無いわ。私は新にしか見られたくない……はず。


「元教え子には言いにくい話なんだか……」


 倦怠期の夫婦は結婚生活が長くなると、セックスレスにる事も多い。


 家族に性欲を抱かないように、夫婦間も性欲が無くなる。


 毎日顔を合わせ、同じ生活を続けると、全て知っているような気になるんだ。


 しかし、スワッピングは違う。自分に見せない姿を他人の前では見せるからだ。


 しかも目の前で。


 10年以上も隣にいるのに、自分の知らない顔がある、驚きと興奮。


「確かにその話は聞きにくいわね」と苦笑しながら聞いた。


「世の中には巨乳好きも居るし、熟女好きもいる。女装した男を好きな奴もいる。誰だって多かれ少なかれ、大小の性癖は持ってるんだ」


 誰もが性癖はもっている……


 私も人には言えない性癖を持っているのね。


「友達の彼氏? が、何かしらの性癖を持ってても不思議じゃないってことだ。重要なことは、彼女がその性癖と一生付き合えるか……だな」


 上山の顔が少し暗く、伏し目がちで話している。


「一生……」


 私は新の性癖を一生受け入れることはできるのだろうか。


「寝取られ性癖を確認する方法は、嘘でいいから寝取られた報告をすることだ。ただし嘘とは言わずに」


「嘘の報告ね……」


 疑似寝取られプレイは何度も経験している。全て架空の話だけど、新は喜んで寝取らせているし、私も受け入れていた。


 でもそれは、”寝取られをする”とお互い認識して行っている。


「その友達にマッサージ師に胸とか内股を丁寧に触られたって言ってみるんだ。それが、整体の気持ちよさではなく、女性として感じた。ってな」


 彼にマッサージを受けたことは話した。しかし、普通のマッサージを受けた話だけ。


 それを”気持ち良くて感じた”なんて言えるのかな。新の不安が大きくなってまた泣くかもしれない。


「もう1回マッサージを受けていいか聞いて、ダメと言って止めて、怒るか泣くかして、勃起してなければ性癖は無い。もしくはそこが限界」


 限界ね……


「でも泣いて辛そうでも、勃起してたら、相当デカい性癖を持っている」


 初めてした時は、泣いていたけど、立っていたことを思い出す。今は泣くことは無くなったけど苦しそう。


「俺も妻と別れてなければ、盗撮なんかしなかったのかもしれない……」


 誰もが性癖を持っているなら、上山も持っているのよね。


「何かあったの?」


「まぁ俺も、似たような性癖を持ってるんだよ。じゃなきゃ盗撮なんてしないよ。本当にすまな……」


 何度も謝ってくるから静止する。


「止めて。今はしてないんでしょ? 反省してるならいいじゃない」


 本当に反省しているなら、上山”先生”って呼んでもいいのかな。


 教えてもらっている立場なのに呼び捨てにするのも気が引けるし。


「柊に確認したいんだか、橋田を本気で好きなんだろ?」と私の目を見つめて言った。


「ええ、ずっと好きでいられる自信はあるし、結婚したいとも思ってる」と真剣にに答えた。


「橋田はどうなんだ?」


「彼も私を本気で愛してくれている。自意識過剰かもしれないけど」


 新の行動を見ていると、私を愛し続けてくれると信じられる。


「それは良かった」


 上山は微笑みながら答えた。


「ふふwありがとう、上山先生」と言って微笑み返す。


 笑顔で”先生”と呼べる。


 人は誰だってミスを犯すことはある。それを反省していれば信頼できるようになるもの。


 ◇


 来週も金曜日に来ることを伝えて店を出る。


 話を聞いて良かった。


 マッサージの勉強と相談をしていたら、22時を回っていた。


 真冬の夜は、コートを着ても肌に刺さる寒さを感じる。


 私は新が求める疑似の寝取られなら受け入れたい。彼の前なら恥ずかしい言葉や行為も快楽になる。


 でも他人の前では無理だと思う。


 彼に会いたい。冷たい肌を温めてもらいたい。


 携帯を取り出し、[橋田新]を選ぶ。


 プルル……


 ピッ! 


 2コールで電話に出る。勉強中でも、携帯を近くに置いていたのだろう。


「新、今大丈夫?」


「もちろん大丈夫だよ。どうしたの?」


 人肌の寂しさを見せないように元気に話す。


「明日だけど、デートの前に新の部屋に行っていい?」


「もちろんいいよw何時ころ来る?」


 少し嬉しそうな声で答えた。


 私の提案を受け入れてくれる。彼は私と会えることが最高の喜びで、私も同じ気持ち。


「そうね、9時過ぎには着くように出るね」


 本当はいますぐ会いたいの。でも勉強の邪魔になるから。


「はーい、寒いから温かい格好で来てね」


「うん、ありがとう。じゃあまた、明日ね」


 ピッ! 


 今から行きたいな……


 今すぐ抱き着いて私に触れて欲しい。


 いつものように、羞恥的な言葉で私を責めて、たくさん抱きしめてほしい。


 彼の事を考えるだけで幸せな気持ちになれる。

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