第77話 蚊帳の外

 謎の美少女——リア、と呼ばれた存在が俺の目には見えない速度で創ちゃんの後ろに周り、蹴りを放った。


「本当に血の気が多い……私を殺したいって気持ちがよく伝わってくるよ。カルシウムが足りて無いんじゃないかい?」

「……黙って。それと、私は栄養を取る必要は無い」


 明らかにとんでもない威力だと分かる蹴りを涼しい顔で受け止めた創ちゃんは軽口を言い、リアさんは滅茶苦茶真顔で創ちゃんを睨んでいる。


 リアさんは足を掴まれて動けない状態……だと思いきや、軟体動物もびっくりなぐらいに身体をグニャンと動かし、創ちゃんの横顔を掴まれてない足で蹴り付けた。


「イタッ! ……まったく、足ぐせが悪いのはほんと変わらないね。流石に受けっぱなしは良くないだろうし。

 ……リア・エルシオン。覚悟したまえよ」

「……覚悟するのはそっちの方。遺書でも用意しとくべき」

「ほぅ? 私を殺せると思ってるのかい? たかが神龍如きが……随分と思い上がってるね」

「ん……私だって成長してる」

「なら、精々死なないでくれたまえよ? 君の再構築は彼がやってくれるとしても……中々心苦しいのだよ」


「……その彼の居場所も吐いて。私には知る権利がある」

「いや、君にその権利は無いね。大人しく君の管理する世界に引き篭もったらどうだい? この世界の【異分子ちゃん】?」

「…………」


 リアさんの姿が消えた……と思えば創ちゃんの前に移動しており、いつの間にか持っていた刀で創ちゃんに切り掛かった。

 創ちゃんはその刀に対して取り出すは、本。


 本の表紙で刀を受け止め、至近距離に居るリアさんに向かって龍のブレスとも思える程の炎のレーザーの魔法を放った。


「……熱い」

「嫌なら、さっさと帰りたまえよ。最近は君の世界に干渉していないじゃないか」

「でも、貴女がいつ手を出してくるか分からない……排除するべき」

「本当に融通が効かないね、君は……そんなんじゃ夫に愛想を尽かされてしまうんじゃないかい?」

「ん、それは大丈夫。彼は私一筋」


 リアさんは炎のレーザーをその身で受けながらも、創ちゃんを捕まえ、馬乗りになりながら首を絞めている。

 ……けれども、創ちゃんの余裕そうな表情は消えていない。首を絞められているっていうのに。


「……人外め」

「それを龍である君が言うのかい?

 ……そろそろ退いてくれたまえよ。見下されるのは不愉快だ」


 リアさんに向かって創ちゃんがなんらかのエネルギーを放ったのは分かったのだが、それがなんなのかは到底分からなかった。


 俺から見て分かったのは、あまりにもエネルギー量が多すぎるって事ぐらいだ。

 なんせ、先程炎レーザーみたいな魔法を直で当たってなお微動だにしていなかったリアさんが即座にその場から離れる程だ……多分俺が擦ればそのまま消滅しそう。

 死ぬんじゃなく、消滅。復活の余地すら無さそうなのだ。


「……それ、ほんと危険。貴女には無相応の力…………捨てて」

「ふむ、君にそんな事を言われる筋合いは無いね。それに、この能力を与えたのは彼だ……こう言えば君は文句を言えないだろう」

「……ほんと、貴女はめんどくさい」


「本格的な戦いを始める前に……これ以上戦うとなるとリファル君を巻き込んでしまうからね。一旦彼を避難させてもらおうか」

「ん……リファル? あっ、ほんとだ。……久しぶり? いや、初めまして……かな」


 明らかに超常の存在とも言える二人の視線がこちらに向けられ、怯える。

 そりゃそうだ……この二人、確実に俺の事なんて瞬殺出来るのだから、本能で恐怖してもおかしくない。


「ん……さっさとして。早く貴女を殺したい」

「はぁ……エルシオン、君は本当に……もう少し落ち着きたまえよ。夫と居る君はあんなにもデレデレしているって言うのに……そのデレをもう少し私に見せてくれても良いのだよ?」

「黙って。貴女にそんな感情を向けるわけない。それと私達の生活を覗かないで。変態」

「なんとも酷い言われ様だね……悲しくなってくるよ」

「……そんな事を微塵も思ってない癖によく言う…………」


 何やら口論しながらも徐々に俺の身体が淡く光出した。どうやら俺も転移によって家に返されるらしい。

 ……早く転移してくれないだろうか。なんか口論しているリアさんの殺気がどんどんと膨れ上がっているのだ。もはや息苦しい。


「それでは……また今度会おうじゃないか、リファル君。その時はまたゆっくりと話でもするとしよう」

「ん、コイツは私が確実に殺すから。安心して過ごすと良い。……どうせなら、レリアに会いたかったかも」

「君はこの世界じゃ異分子なんだ。下手に長居すべきじゃないだろう」

「……分かってる。でも——」


 そんな会話を聞きながら、俺は転移によって帰宅した。

 場所は、学園都市にある屋敷の庭。魔法練習とかに使ってる場所で、帰ってこれたと実感してしまう。

 ……良かった。俺、生きてる。


「リファル⁉︎ 大丈夫? 何かされてない? もう私、本当に心配で……とにかく中に入って! 獣医の人を呼んでおいたから今すぐ見てもらうよ!」


 俺が転移して帰ってきてすぐにレリアに見つかり、レリアに連れられて屋敷の中に入っていく。


 ……それにしても、リアさんが放った言葉があまりにも謎だ。


『……分かってる。でも、【私達の世界の問題に協力してくれた存在をもう一度見ておきたかった】……』


 ……何の話なんだろうな、これは。なんとなくだけど……レリアも知らなそうだと思うのは俺だけ、なのだろうか。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ……やぁ、読者諸君。


 …………はぁ、また今回も補足が必要そうな感じだと思うのだが……勘弁願いたい所だね。

 まぁ、一度この役割を受けてしまったのだからしっかりとやらせてもらうけれども……


 まず、私が放ったエネルギーについてなのだが……まぁ、アレは深く考えないでくれたまえ。どうせ人間の知恵じゃ理解できない物だからね。


 次にリア・エルシオンが最後に放った言葉だね。

 ……なんとも説明のめんどくさい事を喋ったねぇ、彼女は。


 実は、並行世界……所謂パラレルワールドのレリアちゃんとリファル君がリア・エルシオンの管理する世界に召喚される事件が起こってしまってね……そこでレリアちゃんとリファル君がリア・エルシオンと関わりを持ってしまった、と言うわけだね。


 ……なぁ、冰鴉。この場面、確実に蛇足じゃないかい? 育りゅう世界を覗いた読者じゃないとこの話は理解出来ないと思うのだが。


 まぁ、良いか。私には関係のない事だしな。

 あぁそれと、今後リア・エルシオンは出る事がないと思ってくれたまえ。私を追いかけてまた来るかもしれないが……物語にそう深く関わらないだろうからね。


「ん、やっと見つけた。……今回こそは逃がさない」


 おっと、リアちゃんに見つかってしまったね……このあとがきからも退散させてもらうとしよう。

 それでは、また次の機会に会おう! 読者諸君。


「……居ない。逃げ足の速いストーカー……ん? 

 ……へぇ、アレはこんな所で君達観察者に接触を……」


「……観察者…………此処では読者? とにかく、警告。あの創造神気取りの変態に心を許しちゃダメ。

 ……あと、この世界に乱入したのは忘れて。この世界に私は居たら駄目だから。……居なかった存在として扱ってくれると助かる。


 ……それじゃ、私は◼️◼️◼️◼️を追うから。バイバイ」

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