第73話 悲しきウルフボス
あの後、特に戦闘は起きず……と言うか魔物がいたら先制で神凪さんが魔物の足元に大穴を開けた事で戦闘にならず、階層も順調に上がっていくことができた。
何階層かは分からないが、ある程度登った所のボスであるクラブ・ウルフを丁度倒し終えた。
クラブ・ウルフ——それは毛皮の代わりに硬い甲殻に包まれた所謂「蟹狼」であり、その硬さに物を言わせた物理攻撃と口から吐く泡のブレスが厄介な魔物だ。
倒し方が簡単。泡ブレスを吐き終えた所にデカい氷の柱を突っ込み、口を閉じて無くした所で氷諸共破壊する様に稲妻ブレスを吐いて内側から吹き飛ばした。
確かに強くはあったけども……俺の外殻鱗に傷が付く程度であんまりダメージを受ける事も無かった。
「すまない、リファル君……流石に休憩にしないかい?」
神凪さんの顔にはかなり濃い疲労が浮かんでいる。……ちょっと無茶させすぎただろうか?
まぁ、此処に出て来るクラブ・ウルフもそこまで強くないし、俺1人でサクッと倒せると思えば丁度良いだろう。
ボス部屋に普通の魔物は基本的に入り込んで来ないからね。
あの時のブラッドワイバーンは本当になんだったんだろうか……異常も異常だったのは間違い無い。
「にしても……あと何階層あるんだろうね。気が遠くなるよ。はやく、家に帰りたいや……」
気が遠くなる様な……暗い声で呟き始めた。
まぁ、そりゃあそうか。公国の王子……女? だとしても、まだまだ子供な事には変わりない。
それに、側にいるのが自分の召喚獣でも無いし、親しい間柄の人というわけでも無い。
他人の、それも言葉が通じてるかも分からない召喚獣なのだ。
荷車に乗せられた人達も起きる気配はない。起きなさ過ぎて怖いくらいだし、この人達を守りながら戦うのも精神が削れると言うもの。
そんな中、この神凪さんは生き延び、生徒達を捨てる事なぞ考えていない。なんとも心が強いと言うかなんと言うか……いつか責任とかで潰れないか心配だ。
「ねぇ、リファル君。君は何故一匹で脱出しないの? 正直、僕達人間が足を引っ張っているのは充分に理解してるさ。
君1匹だけでダンジョンを抜けてレリア王女の所まで行くのなんて容易いだろうに……」
それはまぁ確かに……なんでなんだろうな?
レリアの風評の為、と言う建前はあれども俺は召喚獣。あの牢屋から抜け出せた時点で主人の元へと駆けるのは何も間違ってはいない。
にも関わらず、俺はこの人達を助けようとしている。
……俺ってそこまで他人を気にして助けようとする性格だったっけなぁ。
「……あはは、召喚獣相手に何言ってるんだろうね、僕。
……やっぱ疲れてるのかも——っ! 敵⁉︎」
何やら生命の気配をこのボス部屋の入り口付近から感じる。
まさかブラッドワイバーンみたいにボス部屋に入り込んでくる厄介な魔物か……?
いつでも動ける様に魔法を準備し、身体を稲妻属性で染め上げる。さぁ、一体何が来る……?
ボス部屋の入り口——上層に繋がる階段を見続ける事数秒後……現れたのは狐だった。
えっ、狐? このウルフだらけのダンジョンに狐?
「えっ、アルン⁉︎」
『コン? キュゥ〜〜〜!』
「どうして此処に——」
「リファル〜〜〜〜〜!!!」
「レリア王女も⁉︎」
驚いてる神凪さんをガン無視しながらレリアは板状の魔道具でスピードを出しながら俺に抱きついて来た。
かなりのスピードだった為か、ほぼほぼタックルみたいな動きとなり、受け止めた俺は踏ん張ったはずなのに数メートル程後ろへと下がった。
一応咄嗟の判断で俺とレリアに治癒魔法を掛けたから大丈夫だと思うけど……怪我してないよな?
「会いたかったよぉ、リファル……もう絶対離さないから。リファルも私から離れたら駄目だよ? これは命令だから!
あぁリファル~~──うん? もー、邪魔しないで!」
レリアが俺を抱きしめていると、地面からクラブ・ウルフが湧き出してきた。
まぁ、一度倒してからある程度時間が経ったからリポップしたのだろう。相変わらずどういう原理か分からない現象だ。
そんなゾンビが如き登場の仕方をしたクラブ・ウルフは全身を結界で拘束され、大きく開かれた口に球状の魔道具をレリアの手によって放り込まれ……
…………爆散した。
なんとも出落ち感が凄いウルフな事だ。体内で魔道具が爆発したためか、身体がバラバラになるほどに爆散し、残ったのは散らばった肉片と殻の欠片だけ……うん、ちょっと同情するわ。うちのレリアがすまんかった。
「リファル~」
「……お取込み中の所済まないんだけど、出来ればダンジョンから早く出ないかい? あまり危険な所に長居したくないんだ」
「……なんですか、神凪さん。私とリファルの邪魔をする気ですか。そうなのでしたら容赦しませんよ」
「あ、いや……ただここでいちゃつくよりも家の方やられたほうが存分にいちゃつけるんじゃないかなぁって思ってね」
「いちゃつく……それもそっか。分かりました、さっさと移動しましょうか」
俺を撫でてた手をレリアは非常に惜しそうにしながらも離し、帰る準備をし始めた。
準備と言っても、魔道具の残りの確認っぽいけれども。
「うん……よし、これなら大丈夫そう。それじゃあ、行きましょうか」
「そうだね。僕達も充分に休めた事だし行こうか──」
『まぁまぁ、待ちたまえよ君達。少し私の話でも聞いてくれないかい?』
「……誰?」
唐突に、空間に響き渡るような声がし始めた。
まるで語り口調のような、すこし説明調っぽい喋り方がこだまする。
『おっと、この状態だと認識出来ないんだったね……これは不注意だった』
「──これで見えるだろう? 初めまして、私は──」
「アイスブラストッ!」
突如として何もない空間に現れた桃色髪の美少女。その美少女が自己紹介する前にレリアが氷魔法を謎の美少女に向けてぶっ放した。
…………レリアさん?
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