第72話 たかが物理と水属性の相手じゃ……ねぇ
リファルside
サファイアウルフ——コイツは鮮やかな青色の毛を生やしたウルフで、中々に強力な水属性の魔技を操る魔物だ。
水への耐性が異様に高く、そして毛皮も柔らかい見た目に反して非常に硬質だったりする。
おそらく俺は噛み付けたとしても噛みちぎることは出来ないと思う。まだまだ顎が弱いって事かな。
「サイファイアウルフか……流石に僕じゃ敵わないかもしれないね。リファル君、なんとか出来そうかい?」
正直1、2匹程度ならかなり楽だとは思うけれど、サイファイアウルフの数は4匹。
俺1匹とサポートの神凪さんだと相手するのはちょっと厳しいかもしれない。
此処にレリアがいれば結界で分断して各個撃破とか出来たんだろうけど……それはたらればの話か。
コイツらが使う魔技は基本的に水属性。俺も水属性を使える以上、別の属性も扱える俺の方が有利と言って問題無い。
稀に地属性も使うらしいのだが、その時はその時だ。
それに、関連性があるかは分からないが……一度死んでレリアの中で眠ってから妙に体の調子が良いのだ。と言うよりも、何か別の要素でも追加されたかの様な、そんな感じ。原因は全く分からないけどね。
だから……きっとサファイアウルフ4匹相手であっても戦えるはず。
全身を稲妻属性で染め上げ、前へと踏み出す。4匹のウルフは俺が竜な事も相まって結構警戒している。ウルフにとっては竜は格上の相手……それは現在子竜であってもだ。
竜……いや、龍と言うのは破壊の象徴であり、神に最も近いとされる存在なのだ。故に生まれたてであってもそこら辺の魔物よりは断然強い。
そう、俺は竜だ。人間じゃ無い……龍の本分は【戦う事】だろう? それも、強敵を倒してこそだ!
何かがカチリ、と嵌った気がしたが、気にするに値しないと割り切る。
ユニーク属性の性能に物を言わせた速度で1匹のウルフの元まで近づき、首元に噛み付いてそのまま走り去る。
目指すは割とすぐ近くにある湖。到着したらすぐさま加えたウルフ諸共湖へと飛び込み、全身から雷属性の魔力を放電する。
勿論加えていたウルフは感電し、身体を痙攣させている。
……が、まだ仕留めれていない。変わったまま稲妻ブレスを吐き、至近距離のブレスによって1匹目のウルフを消し炭に変える。
ウルフの厄介な所は、そのスピードと回避性能と連携だ。
スピードと回避性能は水中と感電で奪い、連携は噛み付いたまま走り去る事で孤立させた。
て事で問題はここからだ。チラリと後方を見れば、厳つい怒り顔をしたウルフ三匹が追いかけてきており、一切の躊躇なく湖の中へと入ってきていた。
陸上ほど自由は効かないはずの水中をスイスイと泳ぐサファイアウルフ達を見ながら、全身を水属性に染め上げる。
実は水属性の属性身体強化には、水中での動きやすさにバフが掛かるのだ。
まぁ、この世界の人達ってあんまり泳がないからそこまで知られてない事実だけれども。
と、そんな事を思ってたのも束の間、1匹のウルフが俺に向かって爪撃を繰り出してきた。それを身体で受け止め、思いっきりウルフに向かって体当たりして弾き飛ばす。
水中だから爪撃もタックルもそこまで大きな火力にはならない。
そう、水中での主戦力は……属性だ。
水が流れる様に自然に、滑らかに泳いで先程弾き飛ばしたウルフの元まで行き、その身体を足で掴む。
爪を食い込ませ、逃がさない姿勢を取ってから氷属性の魔力をウルフに向けて放出する。
至近距離で氷の魔力を受けたウルフは周囲の水諸共凍り付き始めた所で、別のウルフの邪魔が入った。
1匹は仲間のウルフを助ける様に凍りかけてたウルフを連れ去り、もう1匹は俺への牽制とばかりに尻尾に噛み付いてきた。
そう、これが厄介なのだ。
あまりにも集団で狩る事に慣れている動き。しかも強い奴らであればある程、この連携も磨きが増すのだ。
尻尾をブンブンと振ってウルフを引き剥がし、噛み付いてたウルフに向かって雷ブレスを放つが、咄嗟に泳いで回避されて当たらない。
うーん、稲妻属性の方が良かったか?
当たれば感電も〜、と思ってたが、感電したところどうするってのが現状だ。
さっさと稲妻属性を使って数を減らした方が良かっただろう。
そんな反省をしてると、唐突に激流が生まれてウルフ共々床に叩きつけられた。いや、叩きつけられたって言うより押しつけられているって感じか。
『キャゥンッ! クゥン……』
水中でも妙にはっきり聞こえる鳴き声に目を向けると、そこには身体が岩石で拘束されたウルフ二匹が居た。
運良く拘束を避けてたらしいウルフは味方のウルフを救い出そうと頑張っているが、焼け石に水と言った感じだ。
こんな事出来るのは現状1人しかないはず……そう思って視点を上に向ければ、神凪さんが水上で魔法を使っているのが見えた。
それといつの間にか激流も消えている。トドメは俺に任せたと言った感じだろうか?
ならばその意向に甘えてっと……
ふわりと泳いで拘束されていないウルフの背後を取り、稲妻属性で強化した牙と顎でウルフの首を噛み、骨ごと噛み潰す。
メキャッ、と人間であればなんとも不快な感覚に襲われながらも、そのまま噛みちぎって唯一自由だったウルフを絶命させる。
拘束されたウルフ達もしっかりと噛み殺した所で、ウルフ達の拘束が力無く崩れていった。……強いな、このユニーク属性。
「流石だね、リファル君。休憩は必要? 必要なら周りを岩で囲むけど……」
首を横に振って要らないと意思表示をし、荷車モドキへと近づく。
正直ここに棲息する魔物達を相手するのは疲れるのだ。さっさと上層に行って少しでも弱い魔物を相手にしたい気分なのだ。
俺1人なら別に此処に居ても良いんだが……寝ている生徒とかも居るからね。さっさと脱出したい所だ。
「……分かったよ。僕はちょっと荷車に失礼させてもらうから、牽引よろしくね」
疲れた顔をしている神凪さんが荷車モドキに乗った所を確認してから、俺は牽引を開始する。
……扱い慣れてないユニーク属性を酷使してるんだから、疲れも溜まってるんだろう。
出来ればこれ以上神凪さんに戦わせたくないんだけどね……なんとかならないもんだか。
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