第71話 ウルフ戦

 レリア・プリモディアside


「森にウルフが多かったのってこのダンジョンのせいだよね、明らかに……」


 ダンジョン一階層……環境は湿った洞窟だった。


 ジメジメしているのは勿論のこと、地面も湿気によって少しぬかるんでいた。

 洞窟という事もあって薄暗く、湿度の高さも相まって非常に陰鬱な感覚になってくる。


 そんな空間で出くわした魔物が三匹。

 ダンジョンの外にいたウルフ達よりも若干青みが掛かっているウルフ型魔物。いかにも「僕、水に強いです」とでも言わんばかりの姿をしているこの魔物は、【ティア・ウルフ】……ウルフの派生種だ。


 強さは大体そこら辺に居るウルフとそんなに変わらないくらい。

 強いていうなら水属性への耐性が少し高いくらいだろうか? まぁ、それは私や水月風狐には関係無い話かな。


「うーん……さっさと終わらせようかな。リファルが心配だし」


 リファルが近くにいる感じがして少し心の余裕ができた。だから此処に来るまでに温存していた魔道具の数々を放出しながら戦ってさっさとリファルと合流しよう。


 まずはこれ……長釘五寸釘型の魔道具であり、二部魔道具である投擲武器だ。名前はつけてない。……適当に感電釘でいいんじゃないかな。


「——ほいっと」


 ポイっと投げた釘が空中に浮かび、先端を各ウルフに向いたと思えば、唐突に加速して身体に突き刺さった。


 刺さった痛みによって悶えてたウルフは、急に身体を痙攣させたかと思えばバタリと倒れ、動かなくなってしまった。


 ……これが感電釘の効果だ。

 すごく単純な作りをしており、風の魔石で釘が刺さるまで飛ぶ方向を操り、刺さった所で一気に雷の魔石による放電を起こすという物。


 使う魔石も、元となる道具もかなり安価で手に入れられるし、二部魔道具という事もあって制作にもそこまで手が掛からないなんともコストの掛からない攻撃用魔道具で、ウルフやゴブリンと言った相手には絶大な効果を見せるはず。


 勿論人間相手にも有効だと思って今回はワンケース分ほど持ってきている。


「んー、まぁまぁ……かな? 少なくとも充分効果は出てるかな」


 もう少し改良すると言うのならば、ちょっとだけ貫通力が欲しい所。


 感電釘の弱い所は、釘が刺さらない様な生物や装備相手には全くの魅力という事だ。

 コスト重視の魔道具故に簡単な回路しか付けてないのも相まって、飛んでいく先は予想しやすい。だから盾とかで防がれたらそれで終わりなのだ。

 牽制には充分な性能であるけれどもね。


「もう少し試したい所でもあるけど……まずはリファルに会うことの方が先決かな。魔道具なんかただの手段なんだし」


 ティア・ウルフの死体に釣られる様に更にウルフが顔を出してきた。

 ……ちょっと多い。数は七匹ほどで、一部別種のウルフが居るけれども大半はティア・ウルフだった。


「感電釘、そこまで数ある訳じゃ無いんだけどなぁ」


 1ケース分持ってきたとは言え、この頻度で使いまくったらすぐに在庫切れしてしまうだろう。


「それじゃあ、次はこれかな。——えいっ」


 取り出して投げたのは円盤型の魔道具。

 投げてすぐに回転をし始め、そしてウルフの首元まで飛んでいき——首を切り飛ばした。


 すぐさま円盤型魔道具を操作して横に居るウルフにも攻撃しようとするが、避けられてしまった。


「攻撃力は良いけど、スピードがなぁ……でも宙に浮かせるのって大変だし」


 この円盤型魔導具、いまだに未完成品なのだ。

 なにせ、空中に浮かせて、回転させながら操作しないといけなく、正直回路だけでやるのは非常に難しい。


「中に水魔法でも入れて操作してみる? ……有りかも」


 ふと思いついた魔法と魔道具の並行使用。全然アリかもしれない。


 一度円盤型魔道具を手元に戻して、内部に魔法で水を生み出す。

 途中でウルフが邪魔してきたけれども、結界で凌いである間に使用感を試してみる。


「こっちの方が自由度高いね。これは主戦力かもっ!」


 結界に阻まれてこちらに来れていないウルフを円盤型魔道具で切断していく。

 切れ味は非常に良好。円盤を避けようとしたウルフの足に当たった事で足すらも切断しているのだ……多分魔物の骨も容易く断ち切っている。


「取り扱いには要注意……人の身体だとすぐに切り殺しちゃいそうかも」


 ヴォン、ヴォンと鳴っている円盤の操作を止め、回路を停止させて仕舞う。

 この円盤の良いところは使い切りじゃない所。ちゃんと回収さえすれば再使用も出来るのだ。


「けどまぁ、帰ったら改良しないとなぁ」


 思いつきでやった水魔法での操作のせいで、内部に水が溜まってるのだ。ちゃんと排水機構をつけないと再使用は出来ないはず。


『クォンッ』

「ん? あぁ、早く進めってことね。分かったからちょっと待って」


 私は床に板状の魔道具を設置する。

 その上に乗り、一応結界魔法で板と自分の足を固定した所で魔道具を起動させる。


 フワッと板ごと体が浮き、そして移動を開始する。


 風の魔石で浮き、火の魔石で推進力を得る移動用魔道具こと、フレイムボード。森では木が邪魔で使いづらかったけど、ダンジョン内なら多分活用できるはず。

 ……うん、これなら床のぬかるみも気にしなくて良いから移動が楽かもっ!


 よし、このまま突っ走っちゃおうか。待っててねリファル! 

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