第69話 脱出
リファルside
「ふぅ、とりあえずなんとかなったね……これからどうしようかな」
何やら常に魔力を使っている神凪さんが生徒と召喚獣を一ヶ所に集め終えてから、そう言葉を溢した。
多分、今神凪さんはここの天井だとかを支えているのだろう……だってあのヘリオスとかいう奴の攻撃があまりにも鬱陶しすぎて魔力が元に戻った瞬間に稲妻ブレスを放ってしまったのだ。倒壊してもおかしく無い……というか現に部屋が潰れ始めてた。
ブレスを撃った後に気付いて非常に肝が冷えたけれども、いまこうして生き埋めにならずに済んでいる。ほんと、この場に神凪さんが居てくれて助かった。
にしても、ユニーク属性だと神凪さんは喜んでいたが……ユニーク属性にしても中々強力じゃないだろうか?
建物……それに地下の崩壊を止めれるのはユニーク属性でもあまりにも強力だと思う。
破壊に特化した俺のユニークでも、局所的防御に特化したレリアのユニークでもコレをするのは相当難しいと思える。
「え? あっ、やばっ!」
神凪さんが焦った様に視線を向けた先を見てみると、そこには1人の女子生徒が寝ている真上の天井だった。
そしてその天井の一部が丁度崩れ始め、今にも女子生徒に降り掛かろうと——⁉︎
それを見た瞬間に稲妻属性の身体強化を発動させ、女子生徒の側まで走り寄り、落ちてくる岩塊を待ち受ける。
そして堕ちてきた岩塊を野球のバッターのように尻尾で弾き飛ばすっ!
『ドゴォッ!!!』
中々大きい打撃音と共に岩塊が吹き飛んでいき、そのまま壁に激突してめり込む。
うん、魔力の乱れが無くなった事でいつも通りに稲妻属性が使えてありがたい。ユニーク属性を普段使いする様になると基本属性だと物足りなくなるのは困りものだ……贅沢な悩みだとは思うが。
「あー……やっぱりまだうまく制御出来てないねこれ……これは早めに脱出しないといけないかもね。リファル君、ちょっと手伝ってくれると助かるかも」
神凪さんの扱う魔力が若干不安定なのが感じ取れる。やはりユニーク属性を知覚したばかりだから扱い切れてない感じなのだろう。むしろ初めてユニーク属性を使ってここまでの事を出来ているのが凄いのだが。
俺なんて最初に治癒属性使った時は過剰治癒してしまったしね。激痛で身体が悲鳴を上げてたのが懐かしい。
「急ごう、リファル君。ちょっとあんまり長くは持たなそうでね」
その言葉を皮切りにどんどんと天井が端から崩れ始めた。天井にはヒビが入り始めながら土がパラパラと降り始め、壁は一部崩れている。
……ちょっと本当にやり過ぎたかもしれない。
「急いでっ! あとすまないんだけど生徒達を輸送してくれるかい?」
神凪さんはどうも余裕がないらしく、魔法の維持に精一杯らしい。ただ、全力で魔法を制御してるにも関わらず、この部屋の崩壊は止まらない。もはや端の方では天井が完全に落ちている。
さて、生徒の輸送を任されたがどうしようか……魔法で移動させるにしても氷魔法しか選択肢が無いのだが、この集めた生徒達の中には勿論氷属性への耐性が無い人も居る。
ただ身体が冷えるだけならば問題無いのだが、何が起こるか分からない以上は部屋にこの場で試せない。
特に召喚獣との繋がりが切れた者達が怖い。もしかしたら魔力の影響を受けやすくなってたりした場合、凍死させる可能性だってあり得るのだ……下手なことは出来ない。
「あっ、リファル君……ごめんね、このままだとどうしようもできないか。ちょっと待ってね……」
急に生徒達の周りの床が盛り上がったかと思えば、どんどんと形を変えて簡易的な土の箱となった。
岩石が使用されてるから下手な事では壊れず、それでいて寝ている生徒達にも影響を与えにくい……なるほど、素晴らしいアシストだ。
「あはは……ちょっとこれ以上は限界かなぁ。出来れば荷車っぽくしたかったんだけど、これで我慢してくれると嬉しいかな」
いや、これだけでも充分ありがたい。
神凪さんによって作られた岩石の箱に氷魔法で車輪を作って取り付ける。そして出来た荷車モドキの前方に俺が荷車モドキを引けるように
「……本当にリファル君は賢いんだね、流石だ。君が此処に居てくれて本当に助かるよ」
いつの間にか神凪さんが荷車モドキに乗っていた。ただ、やっぱり様子を見るに全く余裕がない感じだ……
……急いで脱出するべきか。
荷車モドキの前で
属性身体強化は使わず、出来るだけ荷車モドキに負担を掛けないように牽引してこの部屋の出口——稲妻ブレスで出来た大穴を通って外に出る……と同時にあの部屋が完全に倒壊し、潰れた。神凪さんが魔法の維持を止めたようだ。
もしあの敵集団に気絶して生き残ってる奴が居たとしても潰されて原型を留めないだろう。
「ふぅ、やっと外——て訳じゃ無さそうだね」
あの部屋はどうやらダンジョンの中に作られていたらしい。
と言うのも、日光はあれども太陽は無く、滝や川、湖と言った水関連の環境が揃っている。
そして目の前には四匹のウルフ……しかも上位種に近しいと言われているサファイアウルフが居るのだから。
「僕も出来うる限りの援護はするけど、さっきので疲れていてね……出来れば期待しないでくれると助かるよ」
荷車モドキから降りてきた神凪さんは周囲の地面を盛り上げて荷車モドキを隠した。
……こんなの見せられたら普通、期待してしまうと思うんだけどなぁ。
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