第68話 床を剥ぎ取ってぶん投げろ!

 神凪・リライside



 どう、しようか。


 リファル君とヘリオス、と呼ばれた男が戦ってる中で思考する。

 状況は完全に平行線。リファル君を氷から解放する前に比べれば状況は良くなったけれども、やはり例の魔道具のせいで全力を出せてないからか、打開とまでは行かなかった。


 僕はそっと召喚獣が入れられているケージに身を隠し、指先に火種を魔法で灯して拘束していたロープを焼き切った。


 これで両手と両足は自由。とは言えあんまり近接戦の心得がない僕があの戦いに介入したとしてもすぐに倒されてしまうだけ……つまり状況が悪化する。


 今自由に動けるのは僕くらいなのだ。状況を好転させるには自分が動かないといけない。

 とは言え、どうしたものか……


 僕は戦力として戦えるようにするにはあの魔道具を壊さないとだけど、その魔道具は敵の集団がしっかりと守っている。


 他に囚われた召喚獣や生徒達の手を借りようにも、生徒達は気絶してるし、召喚獣はしっかりと施錠されているケージから出せそうにない。


 打ち手なし、といった状態。もし外に待機してる敵がいた場合、この騒ぎを聞きつけて応援に来る可能性もある。そうなるとこちらが一気に不利となってしまう。


 せめて、自分が魔法を使えれば……


 そう思いながらも各種四属性を使えど、出せるのは火種と飲み水、そよ風に土塊だけ。土塊や飲み水はまぁ、工夫すれば使えるかもしれないけれども、それは魔法以外での戦い方があればの話。僕には厳しい。


 そう思いながらも魔力を切った事で地面に落ちた土を操作して浮かせる。

 僕が四属性使えるからか、それともアルンの魔力が特殊だからか分からないが出来る技術……それがこの一度魔力を切った魔法を再操作できる事だ。


 ただ、これが出来たところでそもそも元となった魔法が弱いし、物量を生み出せるわけじゃない。だからこそこの技術も使用出来ない。


 土を魔法で弄りながらリファル君とヘリオスの戦闘を見続ける。

 リファル君は勝つ為のキッカケ不足。ヘリオスは耐え続けながらもリファル君の口の中を攻撃し続けている。


 不利なのは恐らくリファル君。これ以上やり続けて増援が来れば負けるのは確定。


『ドガッ!!』

「……えっ?」

「あ?」「は?」


 僕の隣で、唐突に浮かんだこの部屋の床。石レンガで出来ているこの部屋の床の一部がごっそりと浮いている。


 なんで……? と思ったけれども、よくよく感じれば浮かんだ床には僕の魔力が通っていた。しかも、動かせる。


「いつの間に起きてやがった! おいお前ら、アイツを抑えろ!」

「はいっ!」


 起きている事をバレた僕に向かって敵が向かってくる。

 即座に頭を回し、出した解決策は浮かした岩の一部をぶん投げる事だった。


「せぇのっ!」

「おいまさか……! 退避しろ!」


 浮かんだ床の一部は、大きさで言えば大男三人分は確実にある大きさだ。そんな物を投擲すれば流石に大騒ぎになる。


 そして狙うは敵の集団ではなく——


「壊れろぉぉぉおお!」


 もはや大岩と言っても遜色ない床の一部を例の魔道具に向けてぶん投げる。

 繋がっていた魔力が断ち切られ、もはやただの岩塊となった床の一部が敵の集団を吹き飛ばし、そして魔道具も粉々に破壊した。


 ……うん、回路も魔石も壊れてる。もはや修理すら出来ない状態だ。


「ッチ! おい、撤退だ! さっさと引き上げるぞ!」

「やらせると思う?」

「クソガキがぁ……!」


 恨めがましくこちらを見てくるヘリオスに向かってリファル君がブレスを放った。

 雷属性にしては素早く、それでいて高火力。

 そのブレスはヘリオスの胴体を吹き飛ばし、そのまま敵集団も吹き飛ばし、この部屋の入り口すらも貫いた。


『グラグラグラグラ……』


 リファル君のブレスの威力が高すぎたのか、天井が若干崩れ始めた。

 その天井に向かって僕は魔力を通し、操作して支える。


 知覚して初めて分かったのだが、これは僕のユニーク属性だ。

 これをユニーク属性と分かってから脳内に浮かんだ知識によると、このユニーク属性の名前は【森羅万象】。


 まさかこんな状態で自分のユニーク属性を知るとは……

 多分だが、魔力の乱れによって操作が狂い、地面に魔力が通ってしまったのだろう。


「でも、そうか……これが僕のユニーク属性っ! やったぁ!」


 嬉しさにあまりに飛び跳ねてしまう。こうなるのもしょうがない、だってユニーク属性なのだ……切り札になる強力な属性を発現出来て嬉しくないわけがない。


「にしてもこれは……中々強力だね。しかも僕の属性と相性が良さそうだっ!」


 ユニーク属性である【森羅万象】の性質は「自然・掌握/操作」。自然のある物や魔法を操る事の出来る素晴らしいユニーク属性。


 正直、今まで四属性なんて持て余していたけれどもこのユニーク属性を扱えれば四属性も輝くだろう。


「さてと、喜ぶのはここまでにして生徒達を運ばないとね。あぁリファル君、彼らを一ヶ所に集めるのを手伝ってくれるかい?」


 僕が喜んでいる間、何やら生暖かい視線をこちらに送ってきてた様な気がしないでもないリファル君に協力を頼む。


 一ヶ所に集めればあとは僕が地面を操作して動かせば良いからね。

 本当、汎用性が高いユニーク属性だなぁ!


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 属性【森羅万象】


 ユニーク属性の一つ。

 神凪・リライの持つユニーク属性であり、【自然・掌握/操作】の性質を持つ属性。


 周りの自然物+自身の使える属性の魔法を掌握し操れるという性能をしており、極めれば一騎当千の強者になる。


 ちなみに『自然物』の判定は、「魔法で生成された物、もしくは生成に魔法が関わっている物や動物以外」となる。


 なお、森羅万象の属性を操るには「座標の計算」と「想像力」が非常に重要となる。

 もし座標の計算を間違えれば、自身が立つ地面を陥没させてしまうかもしれない……操作ミスには、ご注意を。

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