第67話 攻守兼備:ヘリオス

 最初に首を噛み千切った男レベルの敵共を三人ほど殺した所で残った敵達が俺の事を恐れ始めた。人の召喚獣との繋がりを嬉々として切る癖に自分達が害される覚悟は無かったらしい。正に子悪党程度の覚悟しかない。


「……ッチ、使えねぇ奴らめ。もういい! お前らは魔道具守っとけ!

 こいつの相手は俺がやる」

「へ、ヘリオスさ──」

「ここで名前を呼ぶんじゃねぇ、クソが。大人しくしやがれ」

「すいません……」

「ったく、なんでこんな下っ端の世話をしなきゃなんねぇんだよ……」


 敵集団の纏め役——ヘリオス、と呼ばれた男が下っ端達を下がらせながら俺の前へと出てきた。


 そんなヘリオスは右手にランタン・シールドを装備し、左手に片手剣を持っている。なんともまぁ攻撃的な装備だと言える。


 ヘリオスは人間だし、見た感じだとこの環境で魔力を扱える様には見えない。ならばこの強気は一体何処から来るのだろうか?


「お前さんは良いよなぁ、竜種に生まれて召喚獣として勝ち組でよォ。それに、お前さんの目を見てれば分かる。この状況でどうせ『所詮は人間』って思ってんだろ? ハッ、人間に従ってる分際で頭がたけぇんだよ。


 ……まぁ、どうせ伝わんねぇか。人間の言葉なんざ理解してねぇだろうしな。喋るだけ無駄か」


 なんとも挑発的な言葉を喋りながらヘリオスはランタン・シールドと剣を構える。

 構えた姿勢は、粗暴そうな雰囲気とは違って安定重視。常に守りの姿勢を維持しながら、こちらの隙を狙おうとしている。


 恐らく俺が攻撃してもランタン・シールドで防ぎ、カウンターへと持っていくつもりなのだろう。となると俺はあの防御を崩して攻撃しないといけない訳なんだが……


 まぁ、なんとかなるだろう。

 現在の魔力が使えないこの状況で物を言うのは、素の身体能力と技術だ。

 それに加えて俺はいつもより扱えないとは言え、魔力も扱えるのだ。この状況ならゴリ押しで勝てる気がしなくもないのだ。


 そんな訳でヘリオスとの距離を一気に詰め、噛み付く。

「ガギィッ!」と言う音と共にシールドに防がれるが、そのままシールドを砕く為に顎の力を入れようとした瞬間、口の中を狙った刺突を繰り出された。


「やっぱ竜種とは言え獣、か。口内を攻撃されるなんざ初めてだろ? とくと味わいやがれ!」


 流石に口内に受けた攻撃は痛く、若干のけぞってしまった。

 のけぞった隙をヘリオスは見逃さず、俺の首を狙って剣を振るって来た。


『ガァンッ!』

「チッ、流石に硬ぇな……これだから鱗持ちは嫌いなんだよ」


 首の鱗に弾かれ、ヘリオスの攻撃は失敗。俺も一旦距離を取って口内を治癒魔法で治しておく。ついでにもう一度ヘリオスを観察する。


 ヘリオスは常に防御姿勢。先程俺が距離を取る時に追撃が来なかった所を見るに、焦って攻勢に出る事もなさそうだ。


 ランタン・シールドの盾部分はあくまで片手で扱えるサイズであれど、あの反撃タイプを軸にしていそうなヘリオスが使えば厄介な事はよく分かった。


 となれば盾の破壊か、防御の隙を突かないといけないわけで……


 ……稲妻属性を全力で使いたい。装備破壊なんて稲妻属性の得意な事なのに、よりにもよって大体普段のの3割程度でしか稲妻属性を扱えないのは辛過ぎる。


 基本属性で立ち回るしかないのはしょうがないのだが、ヘリオスの防御はなんとも硬そうで崩すのがむずそうと言うのが本音。


 そう思いながら接近し、次は身体を回転させて尻尾を使った攻撃をする。

 勿論盾で防がれるのは想定済み。尻尾攻撃の勢いをそのままに回転し、次は爪撃を繰り出す。


 尻尾攻撃の反動で盾は使えないはず、と見込んでの爪撃なのだが……ヘリオスの剣によって見事にいなされた。


 ならばと思い、もう片方の前脚で爪撃を繰り出すも身体を捻って避けられた。

 だがこの距離ならばと噛みつきにいくが、反動から解放された盾によって防がれ、ランタン・シールドに付いている剣によって口内を刺される。


「ふぅ……ヒヤヒヤさせてくれるねぇ、竜種様はよォ。だが、この戦いは俺は有利だ。分かってるだろ? 俺の攻撃は通っているが、お前さんの攻撃は通っていない。このまま戦えば俺が勝つのは確実って事だ」


 再度防御の構えを取るヘリオスからそんな言葉が飛んできた。

 ……まぁ、なんとなく分かってる。防御を徹底しながらも口内を攻撃してくるその技量は流石とも言える。


 ほんの少しだけしか戦っていないとは言え、厄介さはしっかりと伝わってくるのだ。


 だが、長期戦と言うならば俺だって負けてない。召喚獣特有の底無しとも言える持久力に、治癒魔法による回復。ヘリオスの攻撃は小さなダメージを与え続けて倒すタイプだ。常に治癒が出来る俺はそう言う攻撃をあまり気にしなくて良いのだ。


 気をつけるのは、脳天を貫かれると言った一撃必殺系。回復の隙無く意識を落とされれば流石に負けが確定してしまうのだ。


「こいよ。また口ん中にこの剣を刺してやるからよぉ!」


 魔道具は壊せそうに無いし、ヘリオスを倒すのは時間が掛かる。神凪さんはまだ様子見をしている……


 ……どうやって勝とうかねぇ。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


【ランタン・シールド】


 武器と盾が一体となった形状をしている特異な武具。

 盾のところにガントレットが付属しており、そこに手を通して盾と武器を使い分けるのだとか。盾の形状はバックラー、ガントレットには鋸歯状のスパイクが生えてるとか。ついでにガントレットと並行に剣身が取り付けられてる。

 盾部分にランタンを仕込み、目眩しとして使用された例もあるらしい。


 今作にてヘリオスが使用しているランタン・シールドは剣と盾が一体となっている物。ランタンは入っていない。


 ちなみに現実に実在する武具。Googleで調べたら出て来ます。

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