第65話 魔道具は有効活用するべし

 神凪・リライside


(困ったな……打つ手が無いや)


 現在、僕は地下牢っぽい所に居る。いわゆる誘拐って奴だと思う。


 実行犯は恐らく【獣解放同盟】……あの組織は希少な召喚獣をこぞって解放したがるというか、縁を切りたがる。僕も狙われたことがあるのだ。


 こういう時は冷静になって状況判断すべし……慌てたって獣解放同盟の奴らにバレておしまいだ。

 まず、周囲の状況……これは簡潔に言うならば最悪の一言になる。


 相手は集団だし、纏め役をしてる男はただ物じゃない。召喚獣無しの戦いであっても勝てる気がしない。

 それに対してこちら側に味方してくれそうな生徒達や召喚獣のほとんどが気絶してる。


 そして何より────魔法が上手く使えない。

 原因は恐らくこの部屋の中央に置いてあるクリスタルとも呼べそうな綺麗な石。あれが魔力を乱す魔道具で、召喚獣から召喚主への魔力の受け渡しや行使、制御をしづらくしている。一応ある程度繋がりが強ければ魔力の受け渡しは出来るけれども。


 あの魔道具の厄介な所は、どうも召喚獣も魔技を満足に扱えない状態にしているって言う所だ。もし僕の召喚獣である水月風狐のアルンが此処に来たとしても満足に戦えない可能性がある。


「本当に……どうしたものかなぁ」


 獣解放同盟に気付かれないように薄らと目を開ける。

 そして視界に入るは竜が封印された氷の塊。レリア王女の召喚獣であり、バトルロワイヤルイベントではこの竜一匹に僕とアルンは敗北した。

 あれから僕も結構強くなったとは思うけれども……それでもこの竜には勝てる気がしない。


 そんな竜と目が合う。ギロリと睨まれるかのような鋭い眼光を向けられて少し背中がヒヤッとして目を離してしまう。


 ……多分、この状況を打開するキーはレリア王女の召喚獣であるリファル君だと思う。

 噂ではリファル君は相当賢いらしく、人の言葉を理解している節があるとも聞く。もしこの事が本当ならば凄く心強い。


 他人の召喚獣と一緒に行動する時の一番の壁は言語だ。意思疎通が出来なかったら協力も出来ないし、相談も出来ない。

 予想だにしていない行動をしてピンチになる可能性もあるのだから言葉が伝わらないと非常に困る。


 でも、伝わるのならば話は別。召喚獣……しかも竜種ともなれば戦力として大いに期待が出来る。


 だからこそなんとかして手を借りたい訳だが……


「どう、しようかなぁ」


 手を借りたい存在は現在氷の中。魔法が扱えない状態でこの氷を突破するのはかなり厳しい。

 一応僕とアルンの縁はかなり深く、ある程度は魔力の受け渡しが出来ているけれども……例の魔力を乱す魔道具のせいで魔力制御が凄く難しい。多分魔法として出せるのは火種や飲み水、そよ風と握り拳程度の土ぐらいだろう。


 そんな魔法で氷を破壊する事は無理だ。

 地道に火種で溶かしたとしても獣解放同盟の奴らに見つかっておしまいなのだ。やるなら一気に破壊するしかない。


「でも、そんな事どうすれば……ん?」


 ふと目に入った一つの魔道具。


 氷の中にあって、「機能が生きている」魔道具だ。

 あれは確か、レリア王女が作品として大会に出していた二律二部魔道具のはず。なぜこの魔力が乱れた状況で暴発してないのかが凄く不思議だ。

 魔物化していたとしても、いずれは暴発して爆発するはずなのに、一切の不調なく存在しているのだ、彼女の魔道具は。


 よく見ればリファル君が付けている魔道具も暴発していない。何か特殊な技法でも使われてるのだろうか? 流石は一年生で二律魔道具を作った天才王女だ……僕なんかより圧倒的に先に進んでいる。


 ちょっと劣等感を感じたけれども、あの魔道具はかなり使えそうだ。

 二律魔道具──しかも使用されてる属性は風と氷。氷は別にどうでもいいが、風属性と二律魔道具って言う所が重要なのだ。


 あの魔道具を遠隔で弄って暴発させることさえできれば、風属性の爆発が起こるのだ。

 威力は火属性に劣るけれども、風ならば二次被害が少ない。他の生徒の居るこの空間で火属性の爆発なんて起こせばどんな被害が出るか分かった物じゃない。


 その点、風属性の爆発ならば起こるのは強めの衝撃波と暴風。氷を壊すためならこれだけで充分だ。

 二律魔道具って言う点も素晴らしい。非常に繊細な操作技術によって実現出来ている二律以上の魔道具はほんの少しでも弄れば互いの魔力の均衡が崩れて暴発を起こす。

 つまり容易に暴発を起こせるって事だ。


 まぁ、この方法での不安点も勿論ある。それが【リファル君が爆発に耐えれるか】だ。

 確かリファル君の属性は水と氷と雷、そしてSユニーク属性が一つ? らしい。

 ……風属性を操らないのだから、勿論風属性への耐性が無い。もしこれでリファル君が再起不能になったり、死んでしまった場合はレリア王女がどうなるか分からないし、僕にどんな罪が課せられるか分からない。


 ……でも、これしか道が無いのならばやるしかない。

 最悪、氷の破壊で気を引いているうちに魔力を乱す魔道具を破壊出来れば良い。そうすれば魔法を使えるようになって善戦くらいは出来るようになるはず。



 僕は意識を集中して遠隔操作でレリア王女の魔道具に干渉する。

 本当に、一年生で作れるとは思えないほどの魔道具だ。魔力操作が非常に上手く、そして他からの干渉を受けて魔力が乱れないように細工されてる。これが暴発しなかった原因だろうか?


 魔物化した痕跡があるけど、これは回路の故障っぽい。むしろそれ以外の重要な部分が一切の傷を負ってないから魔道具として扱える。


 レリア王女の細工を無理やり突破し、風属性の魔力の比率を一気に上げる。これで暴発が起きるはず……!


 僕は荒れ狂い始めった風属性の魔力を感じながら身構える。

 爆発が──来る!

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