第60話 工芸大会はさながら祭り
レリアが魔道具制作に力を入れること数日間。とうとうシオン工芸大会の日になった。
レリアは既に魔道具を提出し終わり、俺と共に色々と出店を回っている。
レリアが提出した魔道具は一般的な魔道具であり、安全性も考えて攻撃性が無いのになっている。
その魔道具の効果は、夏にピッタリな冷風を出す手持ち扇風機だ。風の魔石と氷の魔石で涼しく感じれるくらいの冷風を生み出し、その冷風を吹き付けるだけのお手軽な構造となっている。しかも水の魔石によって生み出されるミストの噴射も可能だそう。
お気づきの通り、この魔道具は簡単な構造と思われるが、まさかの氷と風の二つの回路を同じ道具に刻んでいると言う中々に制作が難しい魔道具となっている。
ちなみに水のミストは別の部品に刻んでいる。同じ道具に三つの回路では無く、二つの回路である。
氷と風の魔石があれば小型の冷房くらいなら割と簡単に作れるこの世界ではあるが、そう言う簡単に作れる冷房は別の部品に分けて魔法を刻む為、温度のムラが凄いのだ。
時には非常に寒い風が。
時にはひんやりとすら感じれない風が。
そんな感じの冷房が普及されているのだ。現代日本の科学技術を知っている身からすれば中々に不便だけれども、中世レベルの文化の時と考えると相当オーパーツとも言える。流石は魔道具、ファンタジーだ。
そんな温度調節が雑な冷房が一般的であるが、レリアの作った魔道具は常に一定の温度の冷風を出す性能をしている。
一般の冷房の魔道具は氷を生み出し、その氷に風を当てる事によって冷風を送っているのに対し、レリアの冷房の魔道具は氷と風の魔石の同時使用によって「冷風そのもの」を生み出して送っているのだ。温度にムラが出来る余地が無い構造と言える。
つまり、総まとめして言うならばレリアは凄いって事だ。難しいし暴発の危険がある方法で二つの魔法を刻んでいるのだから。……一年生が作る様な魔道具じゃ無い。
そんな魔道具を作り、提出したレリアは今何をしてるかと言うと──
「ん~っ! リファル! これ美味しいっ!」
リライ公国の平民の方が出している屋台で売ってあった民族料理? ぽい物を食べて幸せそうな顔をしていた。
顔がいつも以上に輝いて見えるからか、美少女度がアップしている。ほら、近くに居た男子生徒が見惚れているしな。
「リファルも食べてみる? ほらっ」
きりたんぽみたいな形状をした食べ物をレリアが俺の口元まで持ってきたのでパクっと食べてみる。
…………
美味いな、これ。味的には団子とかに近いけれど、それ以外は餅に近いというかなんというか。
意外と手軽に腹を満たせそうと言う感想が真っ先に来る食べ物だ。あと美味い。
とまぁ、こんな感じで大会を満喫している。屋台で売ってあるのは何もかもがご飯というわけでは無く、お面やらアクセサリーやらも売っており、もはやレリアの格好はお祭りを満喫している美少女となっている。楽しんでいるようで何よりだ。
「おや? レリア王女じゃないか。偶然だね。その手に持っているのは——チッカダブラだね。気に入った様で何よりだよ」
「神凪さん……偶然ですね。そちらも屋台回りですか?」
「そうだよ、僕もたいかいに参加したからね。今日は大会を楽しもうと思ってね」
偶然前方から神凪さんがやってきた。可愛らしい狐を頭に乗せながらたこ焼きっぽい物を持っていてこちらもしっかりと大会を堪能している様に見える。
あの狐、バトロワの時は案外しぶとかったんだよなぁ。見た目にそぐわない強さを持ってるのだ。あと相当賢いと思われる。
「あぁ、そうだ。見たよ、レリア王女が提出した魔道具をね。
いやぁ、流石はレリア王女だよ……まさか二律魔道具を出してくるとは。完敗だよ」
「いえいえ、神凪さんの提出した魔道具こそ非常に精巧な魔法制御が見てとれましたよ。流石は四属性を操る方ですね」
そんな会話をしている側で俺と狐は屋台で売ってた物貪る。
俺は神凪さんがチッカダブラと言ってた奴を。狐は王国で最近流行りのポテトチップスに似たカルビリイと言うスナック菓子を貪っている。
……あれ、神凪さんの頭に欠片とか落ちないのだろうか?
そんな風に思いながら会話を聞いていると、いつの間にか魔道具談義が始まってた。
狐はなにも気にする事無くカルビリイを貪ってるが、自分はなんとなく居づらい気分となる。人の言葉を聞き取れるから余計にそう思うのだろうか? それとも、レリアが人との会話を早々に切り上げずに話し続けるのに慣れてないからか。
……やっぱり、レリアも俺がずっと側にいなくても良さそうかな。
召喚獣ってのは、常に側に居続けないといけないわけじゃない。遠く居ようともお互いの繋がりが切れる訳じゃないし、魔法も行使できる。
だから学園に召喚獣を連れてこない人も居るし、家族とかに貸し出す事もあったりする。
だから俺はなんとなく、レリアの依存を無くす為と言う建前を持ち出し、レリアから離れた。
……離れて、しまった。
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