第58話 竜は寂しいのです

 夏の中盤となり、暑さのせいであんまり外にも出たく無い今日この頃。魔道具による冷房が効いた学園内はワイワイガヤガヤとしていた。


 そう言えば季節についてなのだが、実を言うと前世日本の季節が変わる原因とは違い、季節が変わるのは真龍って言う奴の存在が原因らしい。


 曰く、夏は炎真龍の魔力が強くなり、冬は氷真龍の魔力が強くなってるのだとか。

 他にも、台風が如き風が吹き荒れる時期は風真龍が。

 梅雨の様に雨が降り続ける時は水真龍が。

 雷鳴が鳴り響く時は雷真龍が。

 土地が豊かになり、作物の育ちが良くなる時は地真龍が。


 それぞれの真龍の魔力が強くなった時に世界の影響を及ぼしているらしい。

 とは言え、実際に確認されてるのは炎真龍と氷真龍だけであり、他の真龍はただの推測とされている。ちょっとした御伽話だと思っても良い。


 とまぁ、これがふと思い出した授業の内容である。別に今学園が賑わいを見せてるのは何ら関係のない話だ。


「レリア王女様。こちらの出店に関してなのですが、少し意見を貰いたく……」

「? えぇ。えっと……分かりました。後で改善点を纏めて送りますね」

「っ! はい! ありがとうございます!」


 プリモディア組の男子生徒がレリアに企画書を渡して去っていくのを見ながら思う。

 ……工芸大会ってこんなに賑わうんだなぁ。



 前世風に言うならば文化祭と同等の代物だ。確かに賑わいを見せるのは当然だろう。

 とは言え、生徒達の熱意があまりにも違い過ぎる。コネ作りにも繋がるとはいえ、まさか王族に助言を貰いにくるほどとは……いや、その行動もレリアに近付くための理由だったりするのだろうか?


「私、参加者側なのに……」


 レリアからめんどくさげな感情を感じる。確かにこの連日、レリアは黙々と魔道具を制作するほどに真剣に取り込んでいる。

 有り体に言うならば、時間が足りない。にも関わらずこうやって新しい仕事が入ってくるのだ。


「まぁ、いいや。こことここが駄目で……もう少し品物を——」


 企画書に色々書き足しているレリアを乗せた俺は魔法技術部に向かって歩く。


 にしても、どこもかしこも賑わいを見せている。貴族達はコネを作るためか、それとも平民に負けたくないからかと力を入れて準備しているし、平民の皆も親の仕事で販売している物を売ろうと計画している。


 多分今の時期に暇だと言ってる奴は、特に大会に興味の無い奴らだろう。


 って事で俺は結構暇だ。レリアの付き添いとは言え、レリアを乗せて移動するくらいで割とすぐに終わる。

 魔道具製作中は特にやる事がなく、もっぱら魔法の練習しかしていない。


 最近中々に使い勝手の良い魔法を作る事は出来たが、それでも結構暇なのだ。

 レリアに構ってほしい感はあるが……流石に今の時期にそんな事をするのは空気が読めなさ過ぎる。

 俺は一応、賢い召喚獣でやらせて貰ってるしな。


 適当にぼーっとしていると、魔法技術部教室からレリアが出てきた。どうやら用事が終わったらしい。


「お待たせ、リファル。次は教室に戻ってくれる? この企画書を返しに行かなくちゃ」


 レリアの言う通りに教室に向かって歩いていく。

 うーむ、本当に忙しそうだ。何か自分1人でやれる暇潰しを見つけないとなぁ。


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 学園から帰宅した現在。


 レリアが魔道具工房に籠り、魔道具制作に取り掛かっている今。

 俺は1匹で庭に出ていた。


 ここは普段レリアやルクリア姉が魔法の練習に使う事もあってか、使用人は近づかない。

 流れ弾に当たって大怪我をする可能性が充分にあるからな。


 そんな人気の無い場所で何をするかと言うと、魔法の練習だ。人型ではない俺が時間潰しにやれる事なんて魔法で遊ぶくらいしかないのだ。


 まずは練習の始めとして、魔技のブレスを放ってみる。属性は比較的攻撃力が少なめな水属性で行う。


 攻撃力が少なめとは言ったが、竜のブレスと言う事もあって普通に地面が少し抉れた。

 結果で言えば中々な攻撃力、と言った感じだが……まだ足りないな。


 次は魔法で魔技を模倣してみる。

 先程放ったブレス同じ見た目の水の奔流が地面にぶつかって、地面を抉っていく。


 ……うん、やっぱり魔技には叶わないか。地面の抉れ具合を見るに、魔技の威力は魔法よりも相当上だ。

 うーん、なんとかしてブレスと同等の威力を出したいんだがなぁ。


 と言うのも、ブレスと言うのは竜にとっては無意識に使える様に組み込まれた奥義みたいな物だ。俺もブレスを放つ時は魔力制御とか考えずに放つ程に意思の介入無しで放てる大技なのだ。


 けれども、ダンジョンの一件でもしもの時にレリアを守るならブレスだけでは火力不足だなと実感した。

 だからこそ、まず手を付けたのが「魔技の模倣」であり、今現在俺の頭を悩ましている課題である。


 ブレスを模倣出来れば、複数のブレスの一斉射によって火力を補えると思っていたのだが……想像以上に難しい。


 特にブレスは無意識に使っていたのだから尚更だ。打とうとすれば勝手に出るし、意識してもイマイチどう言う原理かが分からない。


 だから結構、今は見た目だけしか模倣出来てない。威力はお察しである。

 ……出来れば、レリアがまた狙われる前になんとかしたいんだがなぁ。

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