第45話 食料採取

 俺は一匹で洞穴の外に出る。

 勿論動き方は安全第一、出来るだけ無理しないようにするつもりだ。もし怪我でも負ってしまえばレリアにどう思われるか……もしかしたら今後単独行動をしづらくなるかもしれない。


 ──あった、これだな。


 洞穴を出て少し歩いたところにある木。そこに実った瑞々しい果物……あれが今回集める物だ。

 果物が成っている枝に狙いを定め、氷刃を放って枝を切断。落ちてくる果物を水で受け止め、氷で出来た籠に入れて持ち運ぶ。


 やはり水と氷は便利だ。特に氷、固体を操れるって言うのは非常に楽なのだ。火属性の魔力じゃなかったことに感謝したい。


 試しに採取した果物を食べてみる……うーん、美味しいと言えば美味しいが……硬い。

 ダンジョン産の果物は味だけで言えば最高級にも劣らないだろう。瑞々しく、それでいて味が薄いという事もなく、確かな甘みとほのかな酸味が見事にマッチしていていくらでも食べれそうだ。


 ……けれども硬い。魔力をしっかり含んでいるせいで果物が疑似的な身体強化をしていてかなり硬い。果物が美味しい理由も魔力由来だから文句は言えないのだが……せめてもう少し柔らかくあって欲しかった。

 前世の小説で石みたいなジャガイモなんて表現があった覚えがある。食感は多分それに近い。……マジで硬ぇ、身体強化とか無かったら歯が折れそう。


 まぁ、毒が無いことを確認できたから大丈夫か。硬さに関してはレリアが獣化すれば多分食えるだろう。そう思って見かけた果物を採取していく。


 採取した果物はしっかりと毒見をしていく。氷で一切れ分だけ切り取り、それを食べていくのだ。多分、果物は含んでいる魔力が全部違う。もしかしたら毒となる魔力を含んでる可能性があるのだ……


 というか一個毒があった。体が痺れたから多分麻痺毒だ。即座に治癒で治したから問題ないが……下手したら心臓まで麻痺するタイプかもしれない事に恐怖を感じる。やはり毒見は大事だ。


 そうしてある程度採取が終わった所で次の標的を見据える。


 ──フォレストハイウルフ。

 ウルフの上位種であり、森に適応して保護色である緑色の体色をしたウルフだ。


 目的はあやつの肉。なにもレリアに食べさせるつもりはない……これはレーナ皇女と俺の分だ。

 レーナ皇女の体内に魔石があるって事は常時身体強化がせれてる状態……しかも獣人ならば常に獣化してるのとほぼ同じ状態。つまり肉を消化できてもおかしくないって理由だ。


 まぁ、最悪腹を壊したら治癒で治すが。


 三匹纏まって行動しているフォレストハイウルフに目星を付け、三匹を一斉に氷で囲む。ウルフたちが驚いている隙に囲んだ氷の中に水を流し込み、そして氷で蓋をする。


 水中で呼吸できないかつ、氷を突破できない生物に対して無類の強さを誇るこのアクアリウム戦法。見た目が明らかに召喚獣の使う魔技から離れているのがなぁ……あと溺れながら死んでいくのを見るのは結構刺激が強い。

 もがき苦しんで気絶して死に至る場面とか誰が見たがるんだよって言いたい。



 程なくして意識を飛ばしたフォレストハイウルフ達の首をたっぷりと魔力を込めた水刃で切り飛ばし、絶命と血抜きをする。

 とは言え血抜きの知識なんて一切無い。やってる事は血抜きモドキだろう。


 ……にしても結構血が出るな。妙な魔物とかが引き寄せられなければ良いんだが。

 おっと、これはフラグだったか?


『キュオオォォォォォオオオ!!!』


 遠くから少し低めな飛行生物の鳴き声が聞こえる……これ以上の長居は危ないかもしれない。


 フォレストハイウルフと果物を纏めて氷で囲み、その氷を操作して運んでいく。氷で閉ざしたことで冷凍保存が出来るかつ、血の匂いとかも漏れ出ないからかなり良い運搬方法だと思う。


 そして移動をするのは正解だった。

 移動を開始してほんの数十秒後、先程までいた場所『ドスン……』と何かが下りる音が聞こえた。


 離れたところから見たそいつは赤黒い「竜」だった。

 一対の翼に、二本の脚。俺と同じようなドラゴンっぽい頭部に尻尾。骨格は違うが、「竜」である事には変わりない。


 ブラッドワイバーン──肉食であり、血を好む竜だ。通常種でありながらも上位種並みの力があるとされる奴。

 今の俺達からすれば化け物だ。オーガよりも強いかもしれない敵、戦闘は避けるべきだろう。


 ワイバーンはフォレストハイウルフから抜いた血を啜っていてこちらに気付いていない。今の内に帰るべきか。


 念のために身体を水で洗って氷を纏っていて良かった……気づかれたら戦闘になっていただろうし。

 でも、念には念を……出来るだけ遠回りして帰る事にしよう。もしブラッドワイバーンが俺を追跡できた場合、遠回りしてれば追い付いてくるだろうしな。


 出来るだけあの洞穴には魔物を使づけたくない。レリアを危険にさらしたくないし、レーナ皇女も気を失っている。

 気付かれないのが一番だが、無理ならば戦う時は俺一匹が良い。主であるレリアとその友人であるレーナ皇女。召喚獣として二人を守る為にも一匹で戦うのだ。


 それに、もし俺が休眠死亡状態になっても、魔石があるレーナ皇女と一緒ならばなんとかなるだろうしな。

 いや、獣化できなくなるからやはり死んだらダメか? ちゃんと生きてレリアを守るべき、か……


 まぁ、レリアを守るためならば命を放棄してもいいだろう。本当に命懸けになったとき、真っ先に命を懸けるのは主のレリアじゃなくて召喚獣ペットである俺の役目だろうしな。

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