第42話 覚悟を決める代償
レーナ(ラナ)side
オーガの大ぶりな攻撃を避け、懐に潜り込む。
けれども攻撃はしない。何せ肌には傷付かないし、顔を狙うにしても身長が違いすぎて届かない。
「ほらオーガ、私を攻撃してみなさいよ……!」
オーガを挑発し、避ける準備をする。オーガって言う魔物は総じて脳筋だから——来たっ!
上段から繰り出される剣での叩きつけをいなし、まずは目を狙って刺突を繰り出す。
——が、瞼を閉じられて防がれてしまった。瞼程度の薄皮でも貫けない自分が嫌になってくる。
至近距離に居る私を攻撃しようと腕を振るって来たので大きく後退。
オーガの様子を伺うと瞼を掻きながらうっすらと笑いを浮かべてこちらを見ている様に見えた。……まるで嘲笑っているかの様に。
「いいわ、その挑発に乗ってあげるっ!」
単身でオーガの懐に潜り込み、攻撃を誘発させて今度は常に半開きの口を狙う。
目を狙ってもどうせ瞼を閉じられて防がれるのだ。ならば口を狙ったほうがマシだ。
「……よしっ!」
口の中に刺突を繰り出し、しっかりと刺さった感触があった。初めての有効打に少し嬉しくなりながらも剣を抜こうとする。
「えっ、あ……」
オーガが、笑っていた。口を閉じながら、笑っていた。
剣を抜けず、そして隙を晒してしまった。
(ヤバいっ! 早く引かな——)
「————かはっ……!」
オーガの拳が見事に胴体に当たり、そのまま吹き飛ばされる。
殴られた衝撃で空気を吐き出してしまい、更に呼吸がしづらくなって酸欠気味になり、意識が朦朧とする。
そして飛ばされた先でモフッとした物に受け止められ、そのままモフッとしている物と一緒に地面に転がった。
「——ハァッ! はぁ……はぁ……!」
なんとか呼吸を再開させるが、身体が動かない。ただ一発の拳による攻撃、それだけで私は満身創痍になっていた。
「ラ、ナ……逃げ——」
ゆっくりと歩いてくるオーガからラナを逃がす為にもそう言葉を放つ。
「逃げ……なさい……命令、よ。ラナ……逃げてっ!」
どんな時でも一緒に居てくれたラナ。
強くなる為の存在ではなく、愛情を持って接せる【家族】。そんなラナを……自業自得なミスで死なせたくない。
召喚獣は生き返る? 違う。本当に絆が……信頼を置いているならば、例え召喚獣であっても死なせたいなんて思えるわけが無い。
思えば、私が焦ってたせいでこうなったんだ。
レリア王女との実力差を見せつけられ、守られるだけ。皇族として、誰よりも強くあろうと思ってた私にとって……凄く屈辱的で、そして守られるだけじゃないって証明したかった。
けれど、結局私の実力じゃ通用せず、死の淵に立たされている。
オーガに勝てず、そして無理をしないと言う約束すら守れなかった。
「なに、してるの……! 逃げなさい……逃げなさいって言ってるでしょっ!」
『グルルルル……』
ラナは私を庇う様に立ち、オーガを威嚇している。その後ろ姿からは「絶対に守ってみせる」と言う意思が伝わってくる。
主人の命令であっても譲らないケツイを感じた。
そして、その時はやってきた。
オーガが大きく横に剣を振り、邪魔者を薙ぎ払うかの様にラナを切り飛ばした。
雷獣とは言え、ラナは子供。しかも防御力に乏しい雷獣の、だ。
私を庇う為に避ける事すらしなかったラナは一撃の元に葬られ、光の粒子となって私との繋がりを通じて私の中へと戻っていく。
あぁ、私がラナを殺してしまった。
プライドを守る為だけに無茶をして瀕死になってしまった私を庇って……死んでしまった。
オーガが私の元に歩いてきて、手に持った大剣を振り上げる。
遠目に見えるレリア達はいまだに蛇と戦っている。こちらの状況に気付く様子はない。
(あぁ、死ぬんだ……あははっ、コレが弱者の宿命って奴?
……ふざけんじゃないわよ)
強くあろうとした。
皇族として。何よりもラナの——雷獣の主人として。
絶え間無い努力をした。
制御の難しい雷属性を扱える様にし、そして発展させる為に試行錯誤した。何度も怪我をし、痛みにも耐え続けた。
希望が見えた。
自主練習の時に、ふと気づいた新たな可能性。心臓の近くにある、【新たな臓器】。不確定ではあったけれど、ほぼほぼ確信していた。
「こんな事なら、さっさと覚醒させておくんだった……でも、まだ遅くないっ!」
私は【獣化】を開始した。
ラナは死んだ。つまり獣化する事は出来ない。にも関わらず、獣化は開始した。
その力の源は……私の心臓のすぐそばにある【魔石】。
「グッ……ガハッ!」
満身創痍の体に更に無理をしているからか、血反吐を吐く。
でも、死なないなら問題ない。だってラナは……私のせいで死んだんだから。
「応えなさい……答えなさいよっ! なんのために毎日毎日痛みを——ゲホッゲホッ! 痛みに耐えていたと思っているのよっ!」
身体から放電が始まる。周囲に手当たり次第に雷を放ち、無差別に攻撃をし始める。
そしてその雷は、オーガが振り下ろした剣すらも弾き飛ばした。
日頃の練習で付いた傷が痛む。でも、今更痛みがなんだって言うんだ。
そして、魔石が活性化した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます