第29話 ルクリアとリファル
ルクリア・プリモディアside
私は凡人だった。
特に勉強が出来るわけでもなく、武術も得意なわけではない。魔法も得意でなければコミュニケーションもそこまで上手くはなかった。
そんな私の価値なんて、自他共に認める美しい顔立ちと王族と言う立場くらいだ。
でも…それでも良いかなと思ってた。兄さんは優秀で国も安泰だろうし、どうせ私は政略結婚で好きでもない人に嫁いで子を孕む程度だろうし。
何かに秀でてなくても生きていける。私の立場なら、よっぽどの事が無ければ破滅することはないと分かってたから。
…でも、レリアと言う妹が出来てから嬉しくもあり悔しくもあった。
レリアは…兄さん以上の天才だ。なんでもすぐに吸収するし、魔法の制御もすぐに上達したし、召喚獣との絆の深まり方も凄く早かった。
…そんなレリアが好きでもあったけど、嫌いでもあった。まるで私が持てずに生まれた物を全部持って生まれたかの様な子だ。何度その才能を寄越せと思った事か。
そんな愚痴を夜深くに吐き出していた時…レリアの召喚獣であるリファルが現れた。
…正直、最初の印象は不気味だった。リファルからは召喚獣とは思えない程の知能を感じる。
魔物の中には確かに人間に並ぶ程の知能を持ってる存在もいる。だけどそれは長い間生きた個体ばかりで、基本召喚主と同じ寿命である召喚獣は知能は発達する前に死んでしまうのが普通だ。
だけど…リファルはレリアに召喚された時から、異様に賢かった。
…そんな不気味な存在が真夜中に一人の私に寄ってきたもんだからつい拒絶する様に、八つ当たりをする様に愚痴をリファルにぶつけた。
…そこから奇妙な関係が始まった。
リファルはこちらの言葉を理解するどころか、魔法で文字を作って意思疎通すらしてくる。でもこれは私だけらしい…レリアには普通の召喚獣だと思ってて欲しいのだとか。………君の何処が普通の召喚獣なの?
でも…それなら好都合とばかりにまぁまぁな頻度でリファルを深夜に呼び出して愚痴を聞いてもらったりしてた。時たま勉強で分からない事を教えてもらったりもしたけどね。
そんな日々を過ごしているうちに、リファルがとんでもない事を言ってきた。
『…努力、してみない?』
…正直、何を言ってるんだと思った。努力なんかしても、結局は才能を持ってる人達に負けるのは決まってるのだからやる意味なぞないと思ってる。
そう言ったのだが、リファルはレリアに出来損ないの姉と見られるか、尊敬出来る姉と見られるか…どちらが良い?とか言ってきた。
なんとも酷い二択だと思う。レリアの才能は妬ましいとは思ってるが、レリア自体は大好きだ。私が愛する家族の一員でもあるのだ。
流石に出来損ないとは思われたく無いから自主練習をやり始めた。
私はほぼ毎日練習をして、時々深夜にリファルに見てもらってアドバイスを貰ったり、まだ習ってない一味違う身体強化を教えてもらったり。
さながら師匠と弟子だ。誰が想像出来るだろうか…私の師匠が妹の召喚獣だなんて。
でもそのおかげで私は恥ずかしくない姿になれたと思う。実力も当然ついたし、誰に見せても恥ずかしくない王女としての姿になれたと思う。
…レリアとの仲も良好だし。
そして私は学園に入学する事になった。周りには才能を持った生徒が沢山居たし、先生達の実力も凄かった。
ただ、リファルによって鍛えられた私は無事に首席として合格した。ほんと、リファル様々である。
だから、リファルが学園に来るまでに凄い実力を…レリアが届かない程の実力をつけて驚かせてやろうと更に努力を重ねた。
あいにくと努力はそこまで嫌いじゃない。失敗しようとも確実に実力は付くのだから。
そして、恋愛とか全部蹴って努力し続けた結果いつの間にか生徒会長になった。学園一の実力者になったわけだ。これならレリアもリファルもビックリするだろうと思った。
そしてレリアが入学してきて…また、才能を見せつけられた。
「…ほんと、なーんで私の先を行ってるんだろうねぇ」
目の前で放たれた稲妻を避ける。学園で何度もユニーク属性相手に戦ってきたからこの程度なら大丈夫だ。
私は旋風をリファルに向けて放ち、砂埃も巻き込んでリファルの視界を潰しながら出来た死角から氷で生み出した剣で切り掛かる。
でもリファルは水ブレスで旋風を散らし、竜の爪で剣を受け止める。そしてそのまま氷の剣をへし折って私の首元に爪を突き立てる。
…ほんと、強過ぎる。これでも私生徒会長なんだけどなぁ。
「ねぇリファル、私の召喚獣になってくれない?」
…そんな無理難題を言う。そもそも召喚獣の交換なんて聞いたことすらない。と言うかほぼ絶対に出来ない。
返答は『無理』そりゃそうだ、リファルのレリアへの愛は相当な物だし、レリアを裏切る事なんて出来ないだろう。
まぁ、無理難題を言ったが別にフユに不満を持ってる訳ではない。フユが居るからこそ、私は私であれるのだから。
…フユは、私の写し鏡みたいな物だしね。私の恋心も写すのは辞めて欲しいんだけどなぁ。
「…いつか、私もユニーク属性が使えるようになるのかな」
地面に寝そべり、先程のリファルとの戦闘を思い出す。一発でも貰えば即致命傷になる稲妻の属性…基本属性とは段違いの性能で、それ一つだけでも他生徒を圧倒出来るほどの力。
もし、私にも使えればどれだけ戦闘の幅が広がった事か。
星に向かって手を伸ばす。輝いてて、綺麗で、どれだけ欲しいと願っても…手に入らない物に。
私は凡人だ。
でも、凡人でも出来ることはある。
たとえ天才でなくとも…私は秀才としてレリアの歩む道の先を走り続けよう。
追い抜かされる、その日まで。
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