最終話 物語達
「……さて、テレビテレビっと」
その日、僕は知り合いが社長をしている事務所のソファーに座りながらリモコンを使ってテレビの電源を入れた。すると、画面には可愛らしい笑顔を見せながら町を歩く短い茶髪の少女とそれを優しい笑みで見守る長い黒髪の少女が映っていた。
「あ、出てる出てる。ねえ、社長。ここって住みたい町ランキング第一位の町だよね?」
「うむ、そうだ」
「そっか……僕もいつかこういう町に住んでみたいなぁ」
「彼女と一緒にかね?」
「うーん……まあ、その方が嬉しいけど、僕はあくまでも保護者だからね。いつか彼女が一緒に暮らしたい相手が出来たなら、僕は喜んで彼女が巣立つのを見送るよ。まあ、君の姪っこと一緒にアイドルをしている間はあり得ないと思うけどね」
「はっはっは、そうだな。しかし……どうして私の頼みを聞いてくれたんだ? たしかに彼女をウチの姪と組ませてみたいとは言ったが、彼女が持つ能力を考えたらあまり世間には出さない方が彼女のためになるんじゃないのかね?」
その社長の問いかけに対して僕は首を横に振った。
「ううん、そんな事無いよ。彼女を世間から隠すような真似をするのは、彼女の行動を制限するような物だからね。僕はそんな事をしたくはないんだ。それに、彼女の人柄や能力はアイドルにはピッタリだしね」
「人柄はわかるが、能力がピッタリというのはどういう事かね?」
「彼女も薄々気付いてると思うけど、彼女の能力は対象が好きに相手を選べない代わりに相性が最高な相手との縁が結ばれる。そして、彼女が関わった相手にはすぐにその相手との出会いがやってくる」
「…………」
「アイドルのライブには様々な人がやってくる。そしてその中には、出会いに恵まれない人だってきっといるだろう。でも、彼女の能力があれば?」
「……なるほど。来てくれた人達やスタッフにとって最良の縁が結ばれるわけか」
「そういう事。まあ、他の仕事でも同じ事が言えるかもしれないし、その縁が結ばれた事で一時的に不幸せになる人もいるだろうね。だけど、最終的にはどんな人でも幸せになれる。それだけは間違いないよ」
「……そうか」
僕の言葉を聞いて社長が安心したような笑みを浮かべた後、僕は社長の姪っこと笑い合う彼女の姿を見ながら微笑んだ。
「彼女は人の身でありながら神にも等しい力を授かってしまった。でも、こうして彼女の能力を最大限に活かせる環境に出会えたのは本当に良かったよ。社長、本当にありがとう」
「礼を言うのはこちらだよ。君がウチの姪と彼女を引き合わせてくれたおかげで、姪も良い友人兼ライバルが出来たと喜んでいたからね」
「ふふ、そっか。それじゃあこの件についてはおあいこって事にしようか」
「ああ、そうだね」
そう言いながら僕達が笑い合っていたその時、事務所のドアが開き、三人の人物が入ってきた。
「ただいま戻りました」
「たっだいまー!」
「ただいま帰りました」
「あ、おかえりー」
「おかえり。三人とも今日の仕事はどうだったかね?」
その社長の問いかけに姪っこさんはVサインを出しながら答えた。
「ふふ、もちろんバッチリだよ!」
「そうかそうか。それは良かったよ」
「ところで……テレビに映っているのは、この前のロケの映像ですか?」
「そうだよ。テレビを点けたらやってたから観てたんだ」
「……そうでしたか」
彼女が嬉しそうな笑みを浮かべる中、彼女らのマネージャーは僕を見ながら不思議そうに首を傾げた。
「ところで、神様はどうしてここに?」
「ちょっと遊びにね。仕事ばかりだとどうしても息が詰まっちゃうから」
「なるほど……」
「……神様、その気持ちはわかりますが、私がいない間も仕事はしっかりとこなしているのですか?」
「もちろんだよ。見た目は君と同い年くらいだけど一応君の保護者だからね。それくらいはしっかりとやってるよ」
「……それなら、良いです」
僕の答えを聞いて彼女が安心したように言うと、姪っこさんは何かを思いついたような顔をした。
「そうだ……! せっかく神様もいる事だし、これからみんなでどこかに行こうよ!」
「これからって……社長にもまだ仕事が──」
「大丈夫だよ。今日の分の仕事なら話をしながら終わらせたからね。それに、たまには休息も必要だよ」
「……わかりました。だが、二人はバレないような変装をしろよ?」
「はーい♪」
「わかりました」
マネージャーの言葉を聞いて二人が出掛ける準備を始め、社長がそれを見ながら微笑む中、そんな彼らの姿を見ながら僕が幸せな気持ちに包まれていると、彼女はにこりと笑いながら僕に手を差し出してきた。
「さあ、神様も準備をしましょう」
「……うん!」
彼らの人生という物語の新たなページに進むため、僕は返事をしながらその手を取った。
千文字のラブストーリー 九戸政景 @2012712
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