第28話
とある高校の屋上。そこで学生服を着た人物が落下防止用の柵に手をかけながらボーッと景色を見ていると、そこに一人の女子生徒がゆっくりと近付いてきた。
「ここにいたんですね」
「……まあね。たまにはこうやって屋上から景色を眺めたくってさ」
「…………」
「それで、どうしたの? 今は授業中でしょ?」
「身代わりを置いてきたので問題ありません。それよりもあなたに訊きたい事があります」
「訊きたい事、ね……もしかしなくても君が天使だと噂されている件かな?」
「はい。そしてその噂を流したのは、あなたですよね。神様」
その言葉に神は頷いた後、静かに振り向き、女子生徒を見ながら笑った。
「やっぱりバレた……か。もしかして色々な人に聞き込みでもした?」
「はい。すると、全員があなたの人相を話してくれましたよ」
「まあ、そうだよね。別に口止めとかはしてないし」
「……神様、どうしてそのような事をしたのですか?」
「その方が君が怪しまれないと思ったからだよ。君は人の身でありながらあらゆるモノの縁を結ぶ力、心に恋の花の種子を蒔く力、そして開花した恋の花を視る力を持っているからね」
神が笑いながら言う中、女子生徒は表情を変えず静かに口を開いた。
「つまり、あの噂は私のためだったと?」
「そう。君は存在しているだけでヒトならざるモノにまで影響を及ぼすし、その力は前世で夫婦だった人達を再び結び付けたり次元を越えた縁を結んだりする程に強い。そして、君が意図してやっているわけじゃないから、人々は知らず知らずの内に縁を結ばれるし、それには誰も抗えない」
「……だから、あなたは私の前に姿を現した。私を保護して部下という形で近くに置く事で、悪人から守りながら他の神々に目をつけられないようにするために」
「うん。生まれて間もなく両親を亡くし、孤児として生活していた君を見つけるのは大変だったけど、見つけられて良かったと思ってるよ。そうじゃないと、君の力を悪用しようとする人間が現れかねなかったからね」
神が哀しそうな笑みを浮かべる中、女子生徒は同じように哀しそうな笑みを浮かべながら頷いた。
「私の力は相手を選べませんからね。神様の言う通り、そんな人間が私の前に現れる可能性は十分あったと思います」
「うん。だから僕は、君が下界を愛でいっぱいにするために遣わされた天使だという噂を流した。恋愛の女神だとか良縁の女神みたいな噂を広められると、変な新興宗教団体とかが食いついてきて、君を拐った上で祭り上げ始めそうだからね。まあ、ようはそうならないように保護者として先手を打ったわけさ。君はあらゆるモノの心に綺麗に咲いた恋の花を見て楽しむのが好きなのに、それを嫌いになってしまうのは良くないからね」
「神様……」
「……ねえ、君はその力をどう思ってる? やっぱり、無くなって欲しいと思う?」
その問いかけに女子生徒は微笑みながら首を横に振った。
「いいえ。まあ、小さかった頃はこの力が煩わしいと思った事がありますが、今はそう思いません。周囲の人が幸せになるのを見るのは好きですし、私の力はしっかりとした使い方をすれば世界中を平和に出来ると思っていますから」
「……そっか。それは良かったよ」
「ですが……どうしてそんな事を?」
女子生徒が不思議そうに問いかけると、神は女子生徒を見ながらにこりと笑ってから口を開いた。
「実はね──」
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