第9話 物語

 ある日の放課後、俺は妹と妹の彼氏と一緒に帰ると言う友達と別れ、自分の部活を行うべく、部室へ向かって歩いていた。



「……それにしても、今日もアイツは亡くなった彼女の墓参りに行くのかな。まあ、行っててもおかしくはないよな。なにせ、亡くなってからしばらくは結構暗かったし……」



 しかし、その友達も今では前のように明るくなり、その事に俺は安堵していた。というのも、その友達とは小学生の頃からの付き合いだからで、他の友達よりも絆が深いと思っているからだ。



「……そこまで一人の相手を愛せるアイツも幸せだけど、想われてる彼女も幸せ者だよな。あーあ……俺もそこまで想える程の彼女が欲しいなぁ……」



 そんな事を思いながら歩いている内に俺は部室である図書室へ着き、そのドアを静かに開けた。すると、カウンターに一人の長い黒髪の女子生徒がいるのが見え、俺はソイツに近付きながら静かに声をかけた。



「よっ、今日も早いな」

「あ、先輩。お疲れ様です♪」

「お疲れ。顧問は?」

「まだいらっしゃってませんよ」

「ん、そっか。それじゃあ、とりあえず俺達だけで今日も部活を始めるか」

「はい」



 そして、俺は本棚から適当な本を手に取り、それを持ちながらカウンターのそばの椅子に座り、静かにそれを読み始めた。そう、俺の部活は色々な本を読み、その本の内容についての話をしたり感想文を書いたりする『読書部』なのだ。

 

 そんなのが部活として成り立つのかと思うかもしれないが、この『読書部』はなんと学校が出来た頃に当時の校長が創部した物らしく、それ以来廃部になる事なくずっと続いているのだ。尚、入るのは本当に読書が好きな奴か図書委員くらいで前者は俺で後者はさっき話していた後輩だったりする。



 まあ、アイツは後者であり前者でもあるんだけどな。



 そんな事を思いながらチラッと後輩の事を見ると、後輩も本を読んでいるのか何か真剣な顔をしながらカウンターの中に視線を向けていた。



 あ……こうなったら、しばらくは話しかけても無駄だし、俺も本に集中するか。



 そう思った後、俺は読んでいた本に視線を移し、本の中の世界へと入り込んでいった。





「……んぱい」

「……ん?」



 近くで聞こえる声に気付き、そちらに視線を向けると、そこには微笑みながら俺を見ている後輩の姿があった。



「……あ、もしかして部活終わりか?」

「はい」

「そっか。んじゃあ、さっさと図書室閉めて帰るか」

「はい」



 その返事を聞いた後、俺は読んでいた本を本棚にしまい、図書室内の戸締りを確認した。そして、戸締りが完璧な事を確認した後、俺達は図書室から出てしっかりと鍵をかけた。



「それじゃあ鍵は俺が返してくるから、お前は先に──」

「あ、先輩。その前に……」



 そう言うと、後輩はカバンから何枚もの原稿用紙を取り出した。



「これは?」

「書いていたお話です。まだ未完成なのですが、先輩に読んで頂こうと思って」

「へー……お前、話書けたんだ。でも、俺なんかで良いのか?」

「はい。というかは、先輩じゃないとダメなんです」

「俺じゃないとダメって──」

「感想は明日にでも聞かせてください。それでは、また明日……!」

「お、おい!」



 俺は慌てて制止をしたが、後輩はその場をさっさと去っていってしまった。



「なんなんだ、一体……まあ、良いや。とりあえず鍵を返しに行くか」



 そして俺は、原稿用紙をカバンにしまってから職員室へと向かい、図書室の鍵を返した後、顧問と軽く話をしてから職員室を出た。その後、下駄箱に向かって歩いていた時、ふと後輩から渡された原稿用紙が気になり、俺はカバンから原稿用紙を取り出し、その内容を読み始めた。


 内容はよくある学園物で、主人公の女の子は部活動の中で同じ部活の先輩に恋をし、その先輩にどう気持ちを伝えたら良いか悩んだり、友達に相談したりしていた。



「へー……結構面白いけど、この主人公の名前ってアイツの名前だよな……? それに、部活動も同じ『読書部』だし……」



 そんな疑問が浮かぶ中、俺はどんどん読み進めていった。そして、あるシーンまで来た時、俺は妙な既視感を覚えた。


 そのシーンというのは、主人公が部活帰りにその先輩にラブレターを渡し、そのまま恥ずかしそうに去っていくシーンであり、それはさっきのアイツの行動とどこか似通っていた。



「え……ちょっと待てよ。それじゃあ、この物語って……」



 この物語の正体やアイツが俺じゃなきゃダメだと言った理由がわかった瞬間、俺の顔は火がついたようにとても熱くなった。



「明日、感想を聞かせてって言ってたけど、つまりはそういう事だよな……よし、俺も男だ。しっかりと答えを言わないとだな」



 気持ちを落ち着けながら決意を固めた後、俺は顔の火照りを感じながら下駄箱に向かって歩いていった。

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