第30話 ユーリの食レポ会
七輪にかぶせられた焼き網を見て、ユーリは言う。
「焼いて食べるのね」
少年はうなずいた。
「屋台で売るなら、複雑な料理はできないから。塩振って焼くだけだよ」
「なるほど」
まずはホーンラビットの肉が焼き上がった。
ユーリは肉をよく見てみる。脂肪分のほとんどない赤味の肉で、ほどよく焼けている。
「いただきます」
そうしてユーリは、ホーンラビットの肉を口に入れた――。
「こ、これは衝撃的な味だわ……。あつあつの焼き肉だけどジューシーさが全くなくて、まるで味のないゴムを噛んでいるみたい。淡白なのに妙なエグみと血生臭さがあって、わずかな塩味だけが唯一の心のオアシス。スジ張っていて固くて、歯ごたえどころの騒ぎじゃない。噛み切れなくて、飲み込めない。すごい。つらい」
「ユ、ユーリさん?」
マイナス方向への食レポをつらつらと言い続けるユーリの背を、ナナが撫でた。
少年でさえきまりの悪い顔をしている。
「姐さん、レッドボアはやめとくか?」
「いいえ。食べるわ。せっかく解体して焼いてくれたんだもの」
ユーリは焼き肉の皿を持って、決意をみなぎらせた。
みんなが見守る中、ひとくち。
「脂がすごい。大トロかベーコンみたい。そして、ロウソクを燃やしたときのあの獣臭い臭いが、口の中でする。お肉の味がとても濃いわ。ああ、このイノシシの魔物が北の森を走り回って、土を掘っている様子がよく想像できる。土臭くて泥臭くて、砂を噛むみたいにじゃりじゃりする。これぞ風味豊かな大自然の味……ッ!」
「ねえ、つまりマズイって言ってるのよね、あれ?」
「たぶん……」
ユーリの豊かすぎる表現力に、ティララとナナがちょっと引いている。
「ね、姐さん……。無理しなくていいから!」
少年はもう泣きそうだ。
「ほら、小僧、分かっただろう。食べ慣れた奴ならまだしも、初めて魔物肉を食ったらあんなもんだ。売るなんて絶対ムリだよ」
コッタが呆れ半分、気の毒半分という顔で言った。
「ううぅ、そんなあ……」
少年はうなだれた。その目には諦めの色が浮かんでいる。
やがて少年がのろのろと七輪を片付け始めたとき。
二種類の魔物肉を食べ切ったユーリが言った。
「待って。諦めるのはまだ早いわ。魔物肉を売る方法、一緒に考えましょう」
「魔物肉を売るなんて、本当にできるのか?」
少年は複雑な表情をしている。ユーリがあれだけマズそうな様子をしていた以上、下手に希望を持てなくなっているのだろう。
「工夫次第ね。それより、あなたの名前を教えてくれる?」
「ファルト」
「そう、ファルト。私はユーリよ。よろしくね」
握手をする。少年の手はガサガサで、炭に汚れて真っ黒だった。
ユーリは次にコッタの方を向いた。
「コッタ、元冒険者として教えてほしいの。食用に向いている魔物肉は、どの種類かしら?」
「ユーリが今食った、ホーンラビットとレッドボアはマシな方だな。あとは鳥の魔物のアウィスバード。山鳥みたいなやつだ」
「なるほど」
ユーリはアウレリウスから借りた魔物図鑑を思い浮かべた。コッタが挙げた魔物は比較的数の多い種類で、冒険者たちがよく狩ってくる。
ホーンラビットは角が、レッドボアは牙と毛皮が、アウィスバードは爪と羽毛が主な素材だ。
「その三種類は、納品数も多いわよね。もしお肉を有効利用できれば、すごくいいと思う」
「まあな。肉は今まで、素材を剥ぎ取った後に捨てていた。町の外で焼くか埋めるかしてる」
「埋めるだけだと、腐って大変じゃない?」
「そうだが、焼くのも大変なんだ。薪だってタダじゃねえし、火力の高い魔法使いを雇うのはもっと高くつく」
「やっぱり有効利用が鍵ね」
ユーリは腕を組む。
「ファルトの村では、魔物肉は塩を振って焼くだけで食べていたの?」
ユーリの質問に、少年は首を振った。
「鍋にして煮るのも多かったよ。麦や野菜と一緒にごった煮にする」
「それなら焼くより食べやすそうね」
「そうでもねえぞ」
コッタが言葉を挟んだ。
「煮汁全体が魔物臭くなるからな。エグさが鍋全部に移って、食うのに苦労した覚えがある」
「ああ、うん……」
みんなが味を想像して、その場がちょっと静かになった。
「ともかく!」
ユーリが空気を切り替えるように声を上げた。
「食べにくいお肉は、調理法を工夫すれば食べやすくなるわ。屋台で売るという制約があるから、まずは焼き肉の方向で試してみましょう」
「おー!」
ファルトが拳を突き上げる。
コッタやティララなどは苦笑い、ナナはちょっと引いた様子だったが、とにもかくにも魔物肉のお料理ミッションがスタートした。
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