第18話 草案完成
冒険者ギルドに戻ったユーリは、それからしばらくを魔物と素材の学びに費やした。
すぐ北の魔の森に出るという魔物だけでもかなりの種類が存在する。ましてや素材となれば、魔物ごとに部位がある。魔の森にある植物や鉱物なども対象になる。
(勉強しているというより、ゲームやファンタジーの本を読んでいるみたい!)
けれどユーリは苦にせずに、どんどん知識を取り入れていった。
一日中ずっと、宿舎に戻っても巻物を読んでいる彼女に、ティララなどは呆れて、
「よくそんなに字ばかり読んで飽きないわね。本の虫ってやつ?」
と、からかい半分に言っていた。ユーリは笑って答える。
「飽きないよ! ねえ、ついに分かったの。この『マヤリス草の朝露』は、マヤリス草に溜まった魔力が朝露に溶け出して魔法の素材になるんですって。だからこれの本体はマヤリス草の魔力、つまり分類としては植物の素材になるのよ!」
「へぇ~、知らなかったわ。マヤリス草はそんなに珍しくない草だから、小瓶に入れて取ってくる冒険者も多いのよね」
「そうなんだ。それで、冒険者ギルドから売る先は魔道具協会や錬金術協会になるのね。ポーションの材料になるって言ってたものね」
「そうみたいね。それにしても、売り先はともかく素材が何に使われるかまでは、私もあまり知らなかったわ。マヤリス草の朝露は、ありふれた素材だからたまたま知ってたけど」
ティララは冒険者ギルドに何年も勤めている職員だが、自分の仕事に直接関係する以外のことは案外知らないようだ。
彼女は主に個人からの依頼注文の受付と仲介をしている。知っている素材はそれなりに多いし冒険者にも顔が広いが、素材の使い道や分類などはあまり気にしていなかったと苦笑いしていた。
「そういえば、こんな話もあるの」
ティララは続ける。
「今まで使い道がないと捨てられていた魔物の部位が、ある日急に『素材として使うから保管しておいて』と顧客から言われてね。最近のだとゴブリンの胃袋なんかがそうね。それで慌てて、素材表の一番後ろに付け加えたわけ」
「ああ、なるほど。それで……」
ユーリはうなずいた。
素材表はおおむね種族ごとに部位が書いてあるのだが、後ろの方に突然、特定種族の部位が出てくることがあり困惑していたのだ。どういうことか確認しようと思っていたのが、思わぬところで解決してしまった。
(いい加減よねぇ。ま、これからそういうことがないように、しっかりシステム作ればいいか!)
ユーリは改めて、新しく作る仕組みの草案を練ることにした。
各種の学びと並行して、ユーリは分類システムの整理と構築を行っていく。
そう、これはシステム構築に当たる作業である。
まずは基盤となるシステムを考えて、その上に実務を積み重ねていく。ユーリが日本で勤めていた会社と同じ考え方になる。
日本の図書の十進分類表を参考に、大分類・中分類・小分類と細分化していくやり方を採用した。
『魔物』は大分類にすることにした。素材の中で圧倒的に種類が多くて、中分類以下もかなりの数になってしまうが、分類法の原則を崩したくなかった。
大分類、中分類、小分類とそれぞれに番号を振っていく。
例えば『ゴブリンシャーマンの牙』なら大分類・魔物01、中分類・亜人型01、小分類・ゴブリンシャーマンの牙0010203、となる。
内訳は、先頭3桁が種族『ゴブリン族001』、次の2桁が種族の中の分類『ゴブリンシャーマン02』、最後の3桁が特定部位の素材『牙03』と指定しているためだ。
小分類内の項目は、できるだけ統一させた。オーガなどにもシャーマンはいるので、その場合は『オーガ族002、オーガシャーマン02、牙03』。
シャーマンがいない種族は種族分類02が欠番になっている。
牙や爪などといった汎用的な部位は、分類をまたいでも同じになるようにした。
例えばホーンラビットの牙なら、大分類・魔物01、中分類・魔獣型02、小分類・ホーンラビットの牙0110103というふうに。
ホーンラビットの種族番号は011。ホーンラビットは種族の中の分類がないので、三~四桁目は01で固定だ。そして末尾は牙の03。
もし今後、変異種などが出てきたら02以降に番号を振ればいい。
種族分類や部位を示す番号の桁数は二桁用意することで、将来的に素材の種類が増えても順に番号を振っていけるようにした。
また番号と素材名を併記したため、二重に確認が出来る。ミスを減らす期待があった。
先ほどの『ゴブリンシャーマンの牙』ならば、その素材名と『01-01-001-02-003』の両方でチェックする。最初は数字に戸惑いがあっても、素材名とセットで復唱していればいずれ慣れるだろう。
倉庫内の棚は原則として番号順に並べるので、素材を探す際に迷子になるのも防げるはずだった。
(よし。基本はこんなところね)
草案としてギルド長のガルスへ持っていく。書字板に書いて図説しながら説明すると、彼は首をひねりながらもうなずいてくれた。
「ちっとややこしいが、まあ、素材の名前に数字をくっつけただけといえばそうか。よし。これで進めてくれ」
「はい!」
認められたのが嬉しくて、ユーリは大きな声で返事をする。
「では、ガルスさんから倉庫の皆さんに声がけをしてもらっていいですか?」
「あん? この件はユーリに任せてあるんだ。お前がやればいい」
「いえ、こういう新しいことは、新入りの私よりギルド長のような立場のある方から言ってもらったほうが」
「まあ、そりゃそうだけどよ……」
ガルスはどうにも腰が重い。やれやれと呟いてやっと立ち上がった。
「一応、俺から言うがな。後は任せるからな」
「…………?」
釘を差すようなガルスの言い分に、ユーリは不安を覚える。
そしてその不安は、最悪の形で実現してしまうのだ――。
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