第39話 正宗 プレデビューして出し殻に

「正宗、Aランク冒険者ですか?」

 

 フォーノ、頼むから鼻から出た紅茶を拭いてくれ。


「いや、今はDランクの冒険者だよ」


 そういってギルドカードを見せる。


「Dランクでワイバーンスレイヤーなのか?」


 穂乃火も鼻から出た紅茶を拭いてくれ。

 穂乃花はギルドカードにワイバーンスレイヤーの紋章であるワイバーンと二本の剣が刻み込まれているのをまじまじと見ている。


「ワイバーンを倒して何とかDランクになったんだ」


 それを聞いた穂乃火とフォーノは目と口をポカーンと開けている。


「おい。正宗。変な言い方だが、お前魔法大学校に来る意味あるのか?」

「ひょっとして、オリザ先生が言っていたアークウィザード級の魔法使いは、正宗さんのこと?」

「よくわからないなぁ」


 とぼけてみるが、フランが追い打ちをかけてネタバラシをする。


「フォーノのいう通りじゃ。妾の父上が、正宗の魔力がアークウィザードを超えておると言っておったがの、魔力の制御がうまくいっていないということで魔法大学校に行くように命じたのじゃ」


 フランがネタバラシをする。


「そういうことか。だから魔法障壁を突っ切っる攻撃魔法を放ったんだな。あんなもの初めて見た」

「おいおい、それ言ったらフォーノだって爆発系統の魔法で魔法障壁ぶっ壊したじゃん」

「あ、あれはですね……正宗が悪いです。あんなすごい魔法見せる、私も頑張ったですよ」


 フォーノが口を尖らせて赤くなりながらつぶやいてくる。なんか可愛いわ。


「フォーノじゃったのじゃな。もう一人実技棟ぶっ壊したというのは」

「穂乃火も、魔法障壁まで凍らしたです」

「おい、フォーノ。恥ずかしいからやめてくれ」


 穂乃火が真っ赤になる。現在暴露大会真っ最中です。


「まったく、類は友を呼ぶとはこのことじゃの」


 フランは呆れた顔で半分にやけている。

 まったく、じゃあ、お返しでフランのネタをばらしてやろう。


「それ言ったら、フランだってSランクの冒険者じゃないか。ついでに王立中央大学の最高導師だし」

「い?」「え?」


 やっぱり、穂乃火とフォーノの表情は完全に埴輪状態になっているわ。

 クールな穂乃火の埴輪顔って結構面白いな。


「じゃから、お主は……まったく。ネタバラシをせんでもよい」


 そこで顔を赤くするフランもまた可愛いのだけどまあ、これでイーブンということで。


「類友でしょ~」


 フランにニヤリと笑ってやる。


「Sランクの冒険者なんて見たことないです」

 

 フォーノの目はキラキラしてきている。


「最高導師もだ。もう、私は驚かないぞ。驚くのがばかばかしくなってきた」

「だから、錬金術をわかりやすく教えてくれたのですね。うれしいです」

 

 フランの講義にすぐについてこられるんだから、やはり大学校のトップクラスの学生だわ。


「どういたしましてなのじゃ。ん?」

「どうしたの? フラン」

「いや、今アスタから念話があっての、遊びに来るそうじゃ」

 

 やはりアスタも類友だ。


「正宗、だれか来るのか?」

「フランの従妹いとこだよ」

「え? そうすると公爵家の方なのですか?」

「たしか、穂乃火は一度会ったはずだよ。合格発表の時にフランと一緒にいたんだけど、覚えていないかな?」

 

 穂乃火は記憶をたどりながら思い出し始めた。


「あ……ひょっとすると、あの銀髪の方か?」

「そうだよ」

 

 そこにドアがノックされ、アスタが入ってきた。


「お姉様ぁ、お兄様ぁ。あら、お客様ですかぁ。お邪魔していいですかぁ?」

 

 わが妹の相変わらずの天然っぷりにホッとする。心の清涼剤だ。


「よく来たのアスタや。紹介したい者がおるのじゃ」


 フランは穂乃火とフォーノをアスタに紹介した。


「アスタチナ・フルオロ・ヴァンピエールです。アスタとお呼びください」


 アスタは貴族らしく、カーテシーで挨拶をした。

 穂乃火とフォーノはやはりがちがちになっている。まあ、最初に王女、次に公爵家令嬢だもんなぁ。


「お二方ともぉ、お兄様の同級生なのですねぇ。お姉さまにも教えてもらったみたいですねぇ」

「ええ。とっても判りやすく教えてもらいました。さすがは最高導師様です」


 フォーノがとてもうれしそうに答える。


「あの、アスタさん。ちょっと教えてもらいたいのだけど、正宗はアスタのお兄様なの? 血が繋がった兄妹?」

「はいそうですよぉ。お兄様の血の半分はお姉様から、半分は私からですよぉ。私の母がぁヴァンパイアなのでぇ、お兄様と私はぁ同じ血が流れているんですぅ」


 穂乃火もフォーノも半分ぐらいしかわからないようだ。確かに俺の外見はどこから見ても人間だしなぁ。


「正宗。よく考えたら、私もフォーノもお前の正体がよくわかってないのだが。どこから見ても人間だが、魔法を使う人間は見たことがないし。不躾な質問だが……」


 うーん、ここでちゃんと答えておくべきかなぁ。

『フラン、アスタ、言ってしまって構わないかな?』

『良いじゃろう。ここは魔界じゃ。人間界とは違うのじゃ』

『いいのではないですかぁ。隠す必要なんかありませんわよぉ』


 なんせ、中学時代にちょっと俺に興味を持った女の子から、「遠慮せずに、言いなよ。私だってアニメとかゲーム好きなんだからぁ」と言ってきたので、つい好きなアニメとかゲームのことを話したら、ドン引きされて二度と話しかけてくれなかった経験があるからなぁ。


 まあ、俺にはフランとアスタがいるからいいか。


「えっと、隠していたわけじゃなくて、言い出す機会がなかったんだ。俺、元々は人間だったんだよ」

「ええ?!」


 当然のごとく穂乃火とフォーノはドン引きする。

 そりゃそうだ。

 魔界に人間が来るなんて絶対にありえないし、紛れ込んだら(以下略)だからな。

 穂乃火にしてみれば獲物だし、フォーノにしてみれば魔女狩りの仇キャラだもんな。

 俺はフランに出会った経緯を話し始める。


「で、フランに出会って、フランから悪魔の血をもらったんだ。そのあとアスタからヴァンパイアの血をもらったんだよ。フランは純粋な悪魔、アスタはお父さんが悪魔でお母様がヴァンパイアなんだ。俺もアスタと同じ血になっているのと、フランはアスタから見るとお姉様なので、俺のことをお兄様って呼んでくれているんだわ」

「そういうことですね。悪魔とヴァンパイアのハーフ、あの魔力理解できます。最初、人間って聞いたとき本当驚いたです」

「でも、失礼な言い方だが、悪魔とヴァンパイアの特徴が全然見えないぞ」


 そりゃそうだ。思い切り隠しているんだから、ちょっと今日は角を出し始めているけどね。


「いや、正宗はの、お主らを驚かせないようにと隠しているのじゃぞ」

「そうですわぁ。お兄様は、お姉様の角と羽、私の赤い目と牙、両方持っていますからぁ」


 その言葉に二人は驚きの色を隠せない様子であった。


「今日はもう驚かないと腹を決めていたが。こんなことってあるのだな」

「私、正宗の姿、見たいです。人間の姿しているは、ここでは不自然です」

「フォーノの言う通りだと思う。それに私も是非とも見てみたい。正宗、いいか?」


 二人ともワクテカ状態になっている。やはり理系女子なのだろうか。

 あの時の悪夢がよみがえるが、ところ変われば品変わる、郷に入っては郷に従えだ。


 正宗@眷属バージョン カミングアウトの瞬間だが、何かドキドキする。

 こういう時は、そうだ! この手だ。

 俺は立ち上がり、両手を前に出して数字の2を描き一言「変身!」

 4人とも紅茶を吹き出す。よし! 掴みはOK!  


「こんな感じだけど……」


 初めてフランとアスタ以外にこの姿を見せたが、やはり何かこっぱずかしい。少し顔が赤くなるのがわかる。


「おお! 正宗! かっこいいじゃないか」

Оオーчень Хорошоショー!(とてもいい!) 正宗」


 え? カッコいい? うそぉをおぉおをぉお?! 俺生まれて初めて「カッコイイ」って女の子に言われたよ!  


「正宗や、どうしたのじゃ? 目から滝のように涙を流してからに」


 そりゃそうじゃん……


「だって、フラン、俺さ、生まれて……初めて……女の子に……カッコイイって言われた。生きていて良かった。こっちに来てよかった。わが生涯に一片の悔いなし!」


 どこかの世紀末キャラクターのように拳で天を突く。 


「正宗、さては、お前、人間界では全くもてなかったのだな」


 穂乃火のドライアイスの槍のような突っ込みが俺の秘孔を直撃する。

 

「ヒデブビハ!!」


「そうですわぁ。だってお兄様ったら自分で『非モテの神様』を作って、勝手に崇拝しているのですよぉ」


 そこにアスタから横やりが入り、さらにフランが追い打ちをかける。


「大体お主、何度も言うが、人間としての生涯は終わっておるのじゃぞ」


 フォーノはフランの言葉がまだうまく聞き取れなかったらしい。


「え? 終わった人間ですか?」


 そして、フォーノに止めを刺され、膝から崩れ落ちる。

 それ全然意味違うから。


「俺、もうズダボロ」

「「私たちに紅茶を噴出させたんだから、これぐらいなんてことないでしょ」」

 そこでハモるな……お前ら。


「まあ、冗談はこれぐらいにしても、正宗、マジで人間の姿よりずっといい。ヒルダやエヴァだってそのままの姿で来ているじゃないか」

「穂乃火のいう通りですよ。悪魔とヴァンパイア両方の血ですから、誇りに思うですよ」


 二人がやっとフォローしてくれた。


「確かに、そうだね。ヒルダにしてもエヴァにしてもその通りだね。ありがとう。なんかすっとしたよ」


 うん、まだ何か俺の中で受け入れられていないところがあったんだな。だから驚かせないなんて言っていたけど、ただの言い訳だ。

 まして血を分けてくれたフランやアスタに失礼だわ。


「しかし、人間に我々の血を分けるとどうなるのだ? 雪山で何人も人間を「看てきた」が、血を分け与えたことはなかったので、よく分からないな」

「雪女が男に血を与えたら、雪男になるんじゃないのか?」


 さっきのお返しに穂乃火を茶化す。


「そったらことまぁんずねえっきゃ! ゴホン、失礼した」


 おっと! 穂乃火の地元の言葉だよ。いいねぇ津軽弁!  


「まあ、間違いなく喰種落ちじゃの」

「そうですわぁ」

「でも、正宗さんは喰種落ちしなかったです。パチェムー(なぜ)?」

「うむ、元々正宗の魂には我々魔族の血が入っていたのじゃ。じゃから適合したのじゃ」

「ふーむ、いわゆる、先祖返りか」


 相変わらず穂乃火の突込みは鋭いわ。


「穂乃火、あのさ、何か言い方が違うと……」

「そうですわぁ。だって、お兄様にぃ私がぁ血を分ける時なんかぁ、抱きしめてくれたんですよぉ。そのあと私のことぉすぐに噛んでくれましたしぃ。祖先はきっとヴァンパイアですわぁ。あんなに胸がキュンとなるのは初めてでしたわぁ」


 アスタが俺を遮り、顔を赤らめながら両手を頬に当てて嬉しそうに話す。

 アスタ頼む、その言い方だとあらぬ誤解を受ける。


「正宗、それって禁断の恋ではないのか?」


 ほらね……穂乃火がさっそく喰らいついた。


「え? 正宗さんとアスタさんってそういう関係だったですか? (´艸`*) キャー」


 だからぁあ……フォーノが煽り始める。


「フランお姉様と私はぁ、お兄様ともう何回も血も魔力も交換をしたのですから、私はぁ、お姉様と同じくぅ、お兄様のものですわぁ」


 あ……とどめ刺された。頼むアスタ、拗らせるな。


「きゃぁあ。Расскажиジーтеチェ  мне  большеショエ. :(もっと聞かせてください)」

「お! 私も聞きたい!」


 フォーノと穂乃火が食いつく。

 そこにフランがにやりとしながら燃料を投下する。


「実はじゃの、これには裏話があってのぉ」


 リアル悪魔の囁きよ。 


 はい、それからはもう恋バナ全開です。しかも「禁断の恋」の恋バナです。

 明日明後日は大学校休みですからいいですが、これから俺はどの面下げていけばいいのでしょうか。誰か教えてください。

 4人に散々弄られ、解散するころには俺は出し殻と化していた。



 〜〜〜あとがき〜〜〜

 この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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