第38話 勉強会 三人集まりゃ進まない

「フォーノ、穂乃火~、おっはよ~」

Доброе エ уウーтро! おはようございまス!」

「おはよう」


 穂乃火とフォーノを見つけ、穂乃火の隣の席に座る。


「ふわあぁあ」

「どうした? 正宗。睡眠不足か?」


 大あくびをした俺に穂乃火が突っ込みを入れる。


「いや、本を読んでいてちょっと夜更かしやらかした」

「まったく、勉強熱心だな」

「すごいです」


 あの後、フランに「はむっ、ちゅー」されたのは誰にも言えない。


「そうでもないよ。俺の悪い癖だわ」

「眠くなったら言えよ。氷魔法首筋にかけてあげるからな」

「たのんますわ。だけど氷漬けにはしないでくれな。わはは」


 とりあえず、今日から少しずつ角を出している。どこで気づくだろう。頭角を現すとはこういうことを言うのだろうか。


 いつもの通り授業が始まる。

 一時間目は錬金術だ。そういえばフランがいっていたなぁ。サンマノハの融点は摂氏6,000度だって。炭化タンタルハフニウム(Ta4HfC5)の融点が摂氏4,215度で、タングステンの沸点が摂氏5,555度だから、いったいどんな元素で構成されているんだろう。そもそも金属なのか? 金属であればうーん。アーク溶接なら溶かすことはできるな。

 そういうことを考えていると、俺の肩を穂乃火がたたく。


「正宗、あてられているぞ」

「え?」

「紀伊君! 聞いているかね?」

「あ! はい」

「じゃあ、金属を溶かすためにはどうしたらいいのかね?」


 錬金術の教官がよそ事を考えていた俺をあてて、質問をしてくる。

 判り切った質問だが、きっちり答えよう。


「金属を溶かすには、物理的方法と化学的方法があり、熱を与えて溶融させるか、酸やアルカリの溶液につけて溶解させる方法があります」

「何を言っておるのかね? 火属性の魔法を金属にあてて溶かすのだろう。だいたい、その酸とかアルカリとは何だね?」


 あ……そうか、人間界の常識は通じないんだ。

 クスクスと周りで笑い声が聞こえる。


「すみません」

「まあ、いい。授業に集中するように」


 教官が呆れた顔をして講義を進める。

 やはり、原理がわかっていないらしい。というよりも、魔法で発生する現象に対して、なぜそうなるか? がないんだろう。

 多分、『そうなるもんだ』という認識なのだろうな。まあ、確かに地球でも磁力の正体が分かっていないのに磁石を使っているのと同じなのだろう。


「正宗、さっきの熱を溶かして溶融とか、酸やアルカリって何ですか?」


 錬金術の授業のあとの休み時間に、フォーノが興味津々に聞いてくる。


「うん、物質には液体、気体、個体の三つの状態があるよね。んで、金属には融点というのがあって、溶ける温度があるんだよ。そのために熱を外から加えてあげて溶かすんだ」

「その温度を与えるのが魔力なんですか?」

「そうなんだけど、じゃあ、なんで魔力を与えて温度を上げると金属は溶けるのかな? ってとこだよ」


 やはりフォーノも原理までは知らないらしい。

 

「金属を構成する原子という最小単位の粒子に熱エネルギーが加わることで、規則正しく配列されていた原子が活発に動き出してお互いに位置を変えながら……」

 「正宗、ごめんナサイ。よくわからない。原子って何?」


 フォーノに金属が溶ける原理を説明するが、穂乃火から一度に詰め込むのは無理だと言われる。

 確かにそうだ。


「あと、金属を溶かすのは、酸やアルカリでもできるんだけど……」

「人間界での知識をこっちに持ってくるのは結構きついぞ。正宗」

「確かに、下手に持ち込むとオーバーテクノロジーになりかねないな。この前のタブレットもそうだったね」

「うむ。私やフォーノは人間界でタブレットやパソコンを見ているから何とも思わないがな」

「そうですね。私もタブレットやパソコンはオイミャコンや八洲で見たので何とも思いませんでした」


 錬金術というか化学のことを少し話した方が分かり易くなるかもと思い、今度勉強会をしようと話をすると、フォーノが俺の家で勉強会をしたいと言い始める。

 おおお? いきなりイベント発生ですか? 

 あ、そういえばフランが会いたいって言っていたな。よし。そうしよう。


「いいよ。実は僕の家族に君たちのこと話したら、会ってみたいねって言っていたんだわ」

「昼休みにでもお邪魔する日を決めよう」

「はいです」


 うーん、人間界の科学と魔界の魔法を融合させた技術を作れば結構面白いものができそうなのだが。


 そして、

 何故か知らないが、学校の帰りに二人が来ることになった。

 何でも、フォーノが原子や分子に興味津々らしい。忘れないうちに聞いておきたいということだった。

 初めてだぜ! 女の子と自分の家で勉強会するのは! これぞ青春!  

 思わず両手を握りしめ、目から涙が滝のように流れ出る。


「おい、正宗、ここって、パンデモニウムじゃないのか? いいのか?」

「あのぉ、正宗さんって王族なのですか?」

「微妙なところ」


 同級生の自宅へ遊びに言ったらとんでもない豪邸でしたというノリだな。

 二人はまさかパンデモニウムに連れてこられるとは夢にも思わなかったのだろう。


「おお、正宗。お帰りなのじゃ。その二人じゃの。お主が話しておったのは。お二方初めましてなのじゃ。フランシウム・フェリシアノ・ルシフェラじゃ。よろしくなのじゃ」


 フランが自己紹介をすると、二人が驚いた顔をする。

 

「フランシウムさん。えええ! フランシウム王女殿下? 初めまして。フォティーノ・クルチャトファです。ロシアから来ました。魔女です。お会いできて光栄に存じます!」

「あの、王女様だったのですね。その節は知らぬこととはいえご無礼いたしました。改めまして、琉球穂乃火でございます。大八洲から来ました。雪女です。お会いできて光栄に存じます」


 二人ともガッチガチになっているわ。


「二人とも固くならぬでよい。妾のことも、ここではフランで構わぬ」

「では私のこと、フォーノでお願いするです」

「私も穂乃火でお願い致します」

「うむ。正宗がいつも世話になっておるの。これからもよろしく頼む」


 フランの言葉に穂乃火とフォーノが珍しく恐縮している。


「フラン、今から勉強するんだわ。というか、人間界の化学を教えてほしいって話になってね」

「そうかそうか。さすがはトップクラスの者じゃの。向学心があって良いの。父上も喜ぶじゃろうて。妾も少しやることがあるでの、後でまた来るのじゃ」


 俺はディメンジョントランクから化学の本を取り出す。

 俺は元素の周期表から説明を始める。フォーノも穂乃火も目を輝かせてみている。

 フォーノは八洲語を一応読めるらしいので判らない読み方はその都度教えていくことにする。

 二人共これだけの物質があることを初めて知ったらしい。

 が、アダマンタイトやオリハルコンが元素周期表に記載されていないことに気が付き、この周期表に書き漏れているのではと話してくる。

 

「うん、ミスリルもないよね。だけど、これの金属は人間界では伝説の物質でね。多分合金じゃないのかな? って思っているんだ」

「合金って何ですか?」

「2つ以上の金属を合わせて作る金属なんだよ。そうすることで、性質が変わるんだ」

「どうやって作るのだ?」

「大体は溶かして混ぜ合わせるんだ。その溶かす工程で、魔力を使うか他の方法で熱を与えるかなんだよ」

「だから、それが、今日の授業で正宗が答えた内容なんだな」

「あたり~」

「あと、そのあと酸やアルカリと言っていたが、それは?」

「私も、知りたいです」


 そうか、溶かすといっても物理的に溶融させるのと化学的に溶解させる方法があるし、そもそも酸やアルカリの概念がないんだな。


「この元素の周期表で……」


 酸とアルカリの基本的な構成分子や性質等を説明すると、穂乃火もフォーノもすぐに分かったらしい。こいつらやっぱ頭ええわ。


「温度で溶かすのと酸やアルカリで溶かすのではまったく違うな。人間界にいたんだから、人間に交じって学校に行けばよかったな。勿体ないことした」

「私も同感です」

「今からでも遅くないよ。俺の故郷では思い立ったが吉日と言うからね」

「正宗、人間界でも錬金術はあるのか?」

「昔はあったらしいけど、今は言い方が変わっているよ。金属工学とか冶金工学とかね。あと錬金術で使う薬品があって、それが化学になっているな」

「人間界は進んでいるんだな」

「そうですねぇ」

「人間共は魔法が使えない、というか失われた技術だから、それを補うために科学技術で魔法の代わりをやっているんだよ。僕からしたら、魔法の方がすごいと思うよ」


「正宗や、よいか? 入るぞ」

 フランの仕事が終わったようだ。あ、そうだ、フランは鉱物魔法の博士? 最高導師だっけ? とにかくフランにも混ざってもらおう。

「ほう、錬金術か。妾の専門分野じゃのう」

「あの、フラン様」


 様付で話しかける穂乃火にフランは呼び捨てで良いと話す。


「はい。フランの専門は錬金術なのです……なの?」

「まあ、鉱物魔法じゃの」

「実は今日の授業で、正宗さんの回答に興味を持ったのです。それで教えてもらうことにしたんです」

「何を答えたのじゃ?」


 フォーノが授業でのやり取りをフランに説明した。


「うむ、確かにそうじゃ。金属を溶かすときには魔力を込めるが、なぜ魔力を込めると金属が溶けるかということは、溶けだしたものが熱いからじゃ。それは魔力によって熱を入れるからじゃが、何故熱を入れれば金属が溶けるのか? ということは、まだ解明されておらぬじゃ。この世界では結果としての現象を利用しているだけなのじゃ。なぜその現象が起きるか? ということはお主らがおった人間界ではすでに解明されているのじゃな」

「全部わかっているということはないよ。だけど金属が熱で溶ける原理はわかっているんだ」


 俺は金属が溶ける原理をフランに説明した。


「ふーむ。そういうことか。魔法と人間界の技術を融合させれば面白いものができるかもしれぬの」

「フランは飲み込みが早いのだな」

「そうですね」


 二人は感心している。あ、そうか最高導師ということ知らないからなぁ。

 新しい概念でも基礎がしっかりできていれば理解ができることもあるんだよねぇ。


「まあ、妾は鉱物魔法で色々研究しておったからの。ある程度の基礎があればすぐわかるのじゃ。お主らもすぐわかるようになる」


 それからしばらく穂乃火とフォーノはフランから今日の授業の内容で分からなかったことをかみ砕いて教えてもらっていた。


「フランの教え方、すごく判りやすい」


 いつもはクールな穂乃火の表情が明るくなっている。フォーノもそうだ。


「そうか。それはよかったのじゃ。どれ、お茶にでもするか」


 フランは机の上のベルを鳴らし、メイドにお茶を持って来させた。


「本物のメイドさんは初めて見た」

「私もです。本当に王女様なのですね」

「大八洲の秋葉原にはメイドさんが沢山いるよ」

「そうじゃったの。今度行ったら、うちのメイドの服もしつらえてくるかの」

「え?! フラン、大八洲というか、人間界に行ったことがあるのか?」


 穂乃火が目を丸くしている。


「うむ。正宗と出会ったのは人間界じゃ。そこで秋葉原に連れてもらったのじゃ。そうそう、メイド喫茶じゃったかの。そこにも行ったぞ」


 そういうとフランはメイド喫茶で撮った写真を二人に見せた。


「きゃあ! かわいい!」


 クールな穂乃火の目がハートになっている。


「Wow! フラン、メイド姿 とても素敵!」


 フォーノもだ。

 そこからは女子トークが炸裂。やはり女三人姦しいというのは本当だ。

 俺の居場所は消えた。空気になってお茶を飲もう。


 ふと、穂乃火がおずおずと切り出す。

「あの、フランと正宗はどういう関係? 正宗は従者ではなさそうだが」

「正宗は妾の婚約者じゃ。人間界で結婚の契約をした」


「「えぇぇぇえええ?!」」


 二人は天地がひっくり返ったような表情をしている。


「ちょっとこれ大ニュースよ!」

「そうですわ!」

 穂乃火とフォーノが興奮している。


「フォーノ、穂乃火、頼む! お願いだからここだけの話にしておいてくれ」


 俺は手を合わせて二人に懇願する。


「何を気にするのじゃお主は?」

「いや、だって、学校で知られたら……」

「そこら辺はどしっと構えておれ。お主は仮にもワイバーンスレイヤーの称号をもらっておるのじゃろうて。そのチキンっぷりじゃと称号が泣くのじゃ」

 

 ぶっ! それを聞いた二人の鼻から紅茶が噴き出す。

 初めて見たよ。鼻から茶ぁ吹くの。かわいい女の子が台無しだけど。


〜〜〜あとがき〜〜〜

この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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