第37話 正宗 ディナーでおかずにされる

 暴走するアスタを何とかなだめて、部屋に戻る。

 風呂に入って疲れを取ろうとしたのに、逆に疲れた。

 フランの部屋で、二人が髪を乾かして身なりを整えている。

 あれ? そういえば今日の夕食はどうするんだろう。

 

 フランの部屋に入って、今日の夕食はどうするかを聞くと、

「アスタのご両親、妾の叔父上と伯母上が来ておるのじゃ。だからアスタが来ておるのじゃ。ダイニングで皆で食事じゃぞ。アスタのご両親に、挨拶をする良い機会じゃぞ」


 王家と公爵家との夕食か。っておい! これ尋常じゃねえ。

 いやいや。嫁家族へのお披露目だ。よろしくしないと。


「お兄様ぁ。顔が強張っていますよぉ。大丈夫ですよぉ。私の両親、お兄様に会いたいって、今日を楽しみにしていましたからぁ」

「そ……それならいいんだ。ってこの格好じゃまずい! ちゃんとした服に着替えてくるわ!」

「大丈夫ですよぉ。お兄様ぁ」

「かしこまらんでもよいのじゃぞ」


 晩さん会ではないようなので、ドレスコードはいらないようだ。

 スラックスとワイシャツにネクタイにしておこう。


 三人でダイニングに向かう。

 アスタのご両親の名前を聞くと、お義父さんがベリアルさん、お母さんがカーミラさんということだ。


「わかった。ベリアル伯父様とカーミラ伯母様だね。そうすると、お母様がヴァンパイアなんだね」

「そうですわぁ。私もお兄様もぉ、悪魔とヴァンパイアの血を引いているのですわぁ。だからお兄様なのですよぉ。うふっ」

「ひょっとすると、僕の魂にもともと入っていた血は、アスタと同じくヴァンパイアだったのかもね。最初に噛んでくれた時に、とっても懐かしい感じがしたからねぇ」

「お兄様、そう言ってらっしゃいましたわねぇ」

「確かに、そうかもしれぬのぉ。父上が言うておったように、喰種堕ちせぬかったからの」

「お父様もぉお母様もぉ、楽しみにしているんですよぉ」


 アスタの笑顔がとても眩しい。

 三人でダイニングに入る。


「ベリアル伯父様、カーミラ伯母様、こんばんわ。お久しぶりでございます」

 

 フランがカーテシーで挨拶をする。


「おお、フランちゃんお久しぶり。元気そうだね」


 フランの話し方変わった。いつものロリババア風味ではないな。やはり王女だ。


「ルシファー叔父様、リリス伯母様、今日はお世話になります」


 アスタの言い方も変わった。


「初めまして。ベリアル伯父様、カーミラ伯母様。紀伊正宗です。よろしくお願いします」


 俺は貴族の挨拶を交わす。


「こちらこそ初めまして。正宗君。いつもアスタチナがお世話になっているね。よろしくね」

「母のカーミラです。アスタがお世話になっています。よろしくお願いしますね」

「ありがとう存じます。こちらこそアスタチナさんにはいろいろ助けてもらっております」


 ベリアル伯父様はお義父さんによく似ている。さすが兄弟。

 そしてカーミラ伯母様を見て一瞬「え?」と声を出しそうになる。

 アスタと同じく姉貴の面影があるのだ。

 カーミラ叔母様もお義母さんと同じで、気品のある妖艶な美人だ。

 レディヴァンパイアという言葉がぴったりくるが、どうしても自分の姉貴と顔が重なってしまう。

 人間界と魔界、しかも人間界からは死後の世界だ。他人の空似とはこういうことなのだろうが、偶然とは本当に凄いものだ。


 彼是あれこれ思索を巡らせていると、お義母さんから声がかかる。


「さあさあ、あなた達お掛けなさい。料理が冷めちゃいますよ」


 お義母さんの手料理だ。とても美味しそう。


「正宗君、兄さんやアスタから色々聞いているよ。私も君に会いたかったんだ。私たちの血を持っている人間が来たってね」

「はい。私自身も驚いています。最初にアスタに噛んでもらったときにすごく懐かしい感じがしまして、おそらく遠い昔の名残で持っていた魔族の血が呼び起こされたのかもしれないと」

「あら! 正宗さん、私と同じヴァンパイアなのかしら?」


 カーミラ叔母様が驚いている。

 

「祖先に魔族がいたと言う事以外よくわからないんですよ。今はフランとアスタに血をもらったので、悪魔とヴァンパイアの眷属ですけどね」

「悪魔とヴァンパイアの血なら、アスタの血と同じよね。こんなことってあるのねえ」


「そうなのよぉ。お父様とお母様の血が入っているからぁ、お兄様ですわぁ。それに最初にお兄様の血を頂いたときに、お兄様ったら……私の頭をぎゅっと抱きしめて、優しく頭を撫でてくれたのですよぉ。今まで人間の血を吸った時とは全然違いましたわぁ」


 アスタが頬を赤らめる。


「やはり正宗さんは、ヴァンパイアの血を持っていたのでしょうね。よかったわねえ。アスタ。小さい時からお兄ちゃんが欲しいって言っていたからねぇ」

「それにぃ、私の血を分けたその晩にはもう私を噛んでくれたのですわぁ。とってもお上手に私の血を吸ってくれましたわぁ」


 アスタが赤らめた頬に両手をあてて、体をくねくねさせている。

 頼むアスタ。それ以上言わないでくれ。お兄ちゃんは誤解されてもいいけど、アスタがみんなに誤解されてほしくないんだ。

 このままいけば、シスコンとブラコンのラノベになりそうだ。

 

「まあ、もともと魔族の血を引いているところに、妾とアスタで完全に血を繋げたからのぉ。先祖返りがスムーズに行ったのじゃの」

「それに、ベリアルよ。フランとアスタが正宗君に血を分けたのは人間界だったのだ。最初にフランが血を分けた翌日にはもう魔法を使い始めたらしい」

「何と! 人間界で魔法を? しかも血を分けた翌日にですか。一時期人間の文明で魔法はありましたがすでに絶滅したと思っていましたぞ」

「うむ。さらに、言い方はおかしいが、笑えることがあっての、ここ(パンデモニウム)の屋内練習場で魔力検査をしたら、魔力量が多すぎて、検査器の回路を焦がして壊すわ、魔法を試しに撃ったら魔力障壁を付与した壁を吹っ飛ばして練習場に大穴を開けるわでの」


 伯父さんが危うくお茶を吹き出しそうになる。


「ゴホッゴホッ! 兄上、久々に面白い話を聞きましたぞ。いや、フランちゃんが血を分けた時点で喰種にならなかったから、我々の血が混じっているとはうすうす感じていましたが、血が適合してさらに魔力量もそこまでとは」

「お義父さん。勘弁してください」


 俺は真っ赤になる。


「パンデモニウムに穴をあけたときの時の正宗君とフランの顔ときたら、ベリアルにも見せてやりたかったわい」


 お義父さんはさらに追い打ちをかける。


「惜しいところを逃したなぁ。少々のことでは動じないフランちゃんのびっくりした顔、見たかったなあ」

「伯父上、勘弁してほしいのじゃ」


 ベリアル叔父さんの言葉にフランも真っ赤になる。


「それにの、ロックゴーレムを質量変換魔法で吹っ飛ばすわ、Eランクの冒険者で初めてワイバーンスレイヤーの称号をもらうわでな」


 フランが返す刀でこっちに話を振って来る。


「あの禁忌の魔法を? それにワイバーンを?」


 ベリアル叔父さんが目を丸くする。対消滅爆弾なんだけど、いつの間にか名前が質量変換魔法に変換されているわ。


「いえ、本当にまぐれです。というよりも、フランとアスタに魔法の訓練もしてもらいましたから。自分だけの力じゃないんですよ。今回使ったのは『もどき』ですよ。それに、ワイバーンを倒したときに、フランはワイバーンの肉をパンデモニウムの職員さんにも分けていましたから。職員思いですよ」


 お義父さんとお義母さんがフランを見てほほ笑む。


「正宗や、余計なことを言わんでよいわい。恥ずかしいのじゃ。大体お主、ワイバーンをミンチ寸前にしたではないか。妾は初めてミンチ寸前のワイバーンを見たのじゃ」


 ほとんど俺の暴露大会になっている。

 ああ! お義母様の料理はとっても美味しいなあ!  


「それで、正宗君、今は兄上が建てた魔法大学校にいると聞いたが、どうだね」

「まだ、始まったばかりなのですが、魔法の原理を勉強できますし、友達もできて面白いですよ」

「ほほう。しかしあそこは我々魔族ばかりであるから、失礼な言い方だが、人間の格好をしていると変な目で見られないかね?」

「ちょっと絡まれたことがありましたが、まあ何とかうまくすり抜けました」


 そこにフランがにやにやとしながら茶々をいれる。


「妾と同じ角とアスタと同じ赤い目を見せてすり抜けたのじゃったの。ギルドでも同じじゃったのぇ」


 さらに追い打ちで暴露ですか、フランさん。

 もう俎板の鯉だ。覚悟を決めて、今宵の酒の肴になろう。


「え? フランと同じ角が生えてきた? アスタちゃんと同じ目?」


 お義父さんもこの件は知らなかったらしい。


「そうなのじゃ、父上。さらに羽も生えてきておるのじゃ。悪魔とヴァンパイアの特徴がきっちり出てきておる。正宗や、皆に見せて進ぜよ」


 俺は、悪魔とヴァンパイアの眷属の姿に戻る。


「正宗君や、もう人間に戻ることはできぬのぉ」


 お義父さんが何やら嬉しそうにしている。


「フランとアスタのおかげで、人間でいた時よりずっと幸せな感じがしています」


 本当にそうだ。人間でいた時よりずっと幸せだわ。無理なく笑顔でお義父さんに答えられる。

 俺の言葉を聞いて、フランとアスタが頬を赤くして照れている。


「やはり、正宗君はここに来る運命だったのじゃの。人間界で儂が正宗君に会ったときも、正宗君は余裕を見せておったからの」

「あの時は必死でしたからね。でも、姉貴を助けてもらった上に、ここまでしてもらえるなんて、本当にどうお礼をしていいかと」


 姉貴の病気を治すのに、自分の命を差し出した時のことを思い出した。

 あの一歩を踏み出さなければ今ここにはいなかったんだよな。


「今更、何を水臭いことを言うておるのじゃ。お礼なら、今度また秋葉原に妾とアスタをショッピングに連れて行くのじゃ」

「そうですわぁ。また行きたいですぅ。お兄様連れて行ってくださいねぇ」

「お安い御用でございます!」


 どうやら、伯父様夫妻にも気に入られたようで、ディナーという名の面接試験はパスした模様。

 それにしても、お義母さんの手料理は本当に美味しかった。

 さて、明日も学校だ。フランとアスタから魔力ももらったし、歯を磨いて……クリーナースライムか。

 さて寝るべし。


「正宗や、寝るのじゃ」


 可愛い笑顔をしたフランが俺のベットに潜りこんでくる。

 ……明日の朝起きられるのだろうか。



〜〜〜あとがき〜〜〜

この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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