第36話 ブラコン暴走、お兄ちゃん 私を見て!

 眼下に広がる夜の街並みを見ながら湯船につかる。最高の光景だ。

 しかしここは地上から何メートルあるのだろうか。フランの部屋でも相当な高さがあるのに、ここはさらに上層階だ。アパートの2階にいた俺にとっては、このような高さは想像もつかない。タワーマンションの住人でも多分高さの感覚が狂うかもしれないな。

 

 そういえば、アスタは今日何しに来たのだろう。まあ、妹が姉と兄のそばにいるものだから別に気にしないが、二人で何をするのだろうか。

 ん? アスタの家ってどこ? それにアスタのご両親にお目通りしていないな。俺の叔父というか親戚になるわけだから、知らないというわけには行かないだろう。

 あれ? アスタのお父様はお父上の弟さんだから、悪魔だろ。でアスタはヴァンパイアだからお母様がヴァンパイアか。

 

 ということはアスタも俺と同じ悪魔とヴァンパイアの血を持っているんだろうな。

 まあお母様の血が濃く出ているからヴァンパイアになったんだろうなぁ。

 

 でも、悪魔という名前自体がおかしいのかもしれないな。天上界で汚れ役を買った上に、人間が善行をするように憎まれ役を買っているんだからなぁ。

 

 悪魔崇拝者っているらしいけど、こいつら碌なことしないらしいから、お義父さんにとっては迷惑千万この上ない連中だわな。

 邪な心を持った神なら、悪魔じゃなくて邪神だな。

 他愛もないことを考えていると、フランの声がする。


「正宗や、お待たせなのじゃ」


 タオルを体に巻いたフランが入ってくる。

 が、


「お待たせしましたお兄様ぁ」


 ブフォオオ! アスタも入ってきたよ! いや、妹だから別に構わないのだが、そうじゃなくて! 眩しすぎるよ! すらっとした体に銀髪ロングの美少女ヴァンパイアなんて! 

 俺は反射的に湯船に潜り込んでしまった。


「どうしたのじゃ?」

「どうかしましたか? お兄様ぁ」


 ボコボコ……お湯の中からあぶくがでてくる。


「何をしておる?」

「わひゃぉあswでyhあ!」


 フランに脇腹を両方から突っつかれ思わず、飛び上がる。


「何を遊んでおるのじゃ? 潜水艦ごっこか?」

「いや……まさかアスタまで来るとは思わなかったから」

「ご迷惑ですか?」

「イヤイヤイヤイヤ! そんなことないないない! 家族でお風呂に入るのは問題ないから。迷惑なんて全然ないから!」


 アクセル全開で俺は否定する。二人ともタオルを体に巻いているので絶対領域はカバーされているが、逆に湯上りパブみたいでなまめかしい。

 ここは家族浴場だが、家族に欲情するな! と息子に言い聞かせる。

 二人は湯船の窓際から並んで夜の街並みを見ながら女子トークをしている。

 ほんのりと顔を赤らめた緑の髪のフランと銀髪のアスタ、二人とも彫りの深い顔をした美少女だ。本当に絵になるよ。

 温泉のポスターに使えるわこれ。


「お姉様ぁ。ここはいつ来てもいい眺めですわぁ。お湯も気持ちいいですし」

「そうじゃの。魔石を利用した温泉じゃからのぉ」

「え? ここ温泉だったの?」


 単なるお風呂だと思っていた。言われてみればお風呂を出た後しばらくホカホカしているんだよな。


「そうじゃ。気が付かなんだのか?」

「あ、そうか。アスタが入っても何ともないから、やっぱり温泉だね」


 魔石の成分が沢山入った温泉なので、大丈夫なようだ。

 他に温泉があるのかを聞くと、魔界には沢山の天然温泉があるそうだ。

 フランのおすすめの温泉があるそうで、週末に泊りがけで行こうとなる。


「さてと、そろそろ出るのじゃ。夕食の時間じゃ」

「そうですわね」

「うん、出ようか」


 フランとアスタが湯船から出ようとした時二人が湯船の縁に膝をついたものだから、二人の「具」が目に飛び込み、そのまま鼻血のバルカン砲を一斉射し再度湯船に潜航した。


「ああ……非モテの神様。眼福の極みでございます。思い残すことありま……DT捨てられなかったぁあ」


 ブクブク.。o○周りに天使がたくさん見え始める。

 これが本当の「地獄に仏」だわ。


「正宗や! しっかりせい!」

「お兄様! 大丈夫ですか!?」


 ここは天国か? 天使に呼び起され……悪魔とヴァンパイアに起こされました。

 でも二人とも俺の天使です。

 気が付くと、脱衣場でフランが俺を団扇で扇ぎ、アスタが冷たい水を持ってきている。

 アスタに水をもらい、気を取り直す。

 二人とも、バスタオルを体に巻いたままだ。


「一体どうしたのじゃ? いきなり鼻血を出して湯船に沈み込みおってからに」

「びっくりしましたわぁ」


 まさか、『見たこと』をまともに言えるわけがない。

 長風呂でのぼせたことにしよう。


「いや、ちょっとつかりすぎたかな。大丈夫だから心配しないでね。ごめんね」

「大事に至らなくてよかったですわぁ」


 アスタがほっとした表情をしている。

 無邪気な顔をしたアスタを見て、見てはいけないところを見てしまった自分の罪悪感に苛まれる。

 いや、あれは事故だ。そう言う事にしよう。


「ここまで運んできてくれたんだね。ありがとう」

「どういたしましてなのじゃ。さて、服を着るのじゃ」

「ちょっとまった、今バスタオル脱がれたらまずい」

「おお、そうじゃの」

「私は別にぃお兄様なら見られてもぉ構いませんよぉ。うふふぅ」


 なんという健気……いや、そうじゃなくて。


「あそこの衝立のところで着替えるから。また鼻血だして倒れてしまったら申し訳ないし」

「相も変わらず純情じゃのぉ。ん? ということは風呂場で鼻血を出したのは何でじゃ?」

 

 しまった。地雷踏んだ。


「だから、のぼせたんだと思うよ」

「おお、そうじゃの。さっき言うておったの」


 うまく躱せた~ と思っていたらそこに止め刺されました。


「そう言えばぁ、私たちさっき湯船から出るときに、膝をついていましたわねぇ」


 アスタ! 頼む、そこは思い出さないでくれ! という願いも空しく


「あ! ということは、正宗や……まさか」


 フランがジト目でこっちを見てくる。

 あ、詰んだ。

 こういう時には、奥義!ジャンピングDOGEZAだ。


「すみません。不可抗力でした」


 フランの顔は真っ赤になるが、アスタはほんのりと顔を赤らめ、モジモジし始める。


「妾の大事なところまで見られてしもうたのか! いや、妾は正宗の嫁じゃから構わぬが、アスタは妹であろうが!」

「だから事故だって。不可抗力だって!」


 フランと言い合っているそばで、顔を赤くしたアスタが、両手を頬に付け思い詰めた顔をしながらとんでもないことを口にし始める。


「お姉様ぁ。私ぃ……お兄様なら見られても構いませんわぁ。むしろ、今ここでアスタのすべてをお見せしますわ。お兄ちゃん、アスタの全部を見てほしいの!」

 

 両手でバスタオルを脱ごうとするアスタをフランと一緒に止めにかかる。


「分かった分かった! アスタ、お兄ちゃんが悪かった!」

「アスタや! そこは越えてはならぬ!」

「構いませんわぁ。もう何回も血も魔力も交換をしたのですから! 私もお姉様と同じくお兄ちゃんのものですわあ!」


 ヤバい! アスタが暴走し始めた。

 二人でアスタの腕を押さえてバスタオルを脱がさないようにするが、「お兄ちゃんは私のもの! 私はお兄ちゃん専用なの!」とブラコン暴走状態になっている。


「フラン! アスタを何とか止めてぇええ!」


 俺は涙目になりながらフランに助けを求める。


「お主も何とかせぇええ!」


 〜〜〜あとがき〜〜〜

 この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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