第35話 フランとアスタと正宗 川の字になる 

 パンデモニウムに帰ってからフランに魔法実技での出来事を話すと、大笑いされた。


「マジックテスターを焼き切る魔力があるのじゃから仕方ないのじゃ。それに、魔界での教養と友人を得るつもりでよいのじゃ」


 確かにマジックテスターの内部回路を焼き切ったことを考えると仕方がないことかもしれない。

 それに折角来た(拉致られた)魔界だ。友達はやはりほしい。学生の時も会社に入ってもボッチだったからなぁ。もっともそれでメンタルを鍛えられたと言う事もあるんだろうけど。

 

「それにその二人は面白そうじゃの。機会があれば会ってみたいものじゃし、大体正宗や、お主非モテの神様を信仰している割には、女性に縁があるのではないのか?」

「不思議だわ。みんな美少女ばっかりだ。もうお釣りがくるレベルだよ」

「男の友達はできぬのか?」

「絡まれてばっかり」


 その言葉にフランがピクッと反応する。


「男に絡まれるって、お主そっちの趣味もあったのか? これじゃ、Bえ」

「うぉい!」


 フランが薄い本を見せてくる。何でそんな本持っているんだよ!

 こっちでも描く人がいるのか?


「アスタとアキバに行ったときに買った薄い本の中に入って居った。くされ女子というのかの?」

「腐女子……いやそれじゃなくて、その本も頼むから捨ててくれ」

「いやじゃ。これは良い物なのじゃ」


 フランは頬を膨らませてプイと横を向く。

 悪魔でさえも腐女子化させるこのパワー。あな恐ろしや、人間界。

 

「それで、絡まれてとは? どうなったのじゃ? 」


 ランチの最中に別のクラスのオーガの男子学生から『お前人間じゃねえのか?』と絡まれたが、そのままカフェテリアの隅の方で正体をちょっとだけ見せたことを話す。

 ギルドで三つ目の大男に絡まれた時と同じようなパターンだ。


「コソコソせんでもよいのに。ここは人間界じゃないのじゃぞ」

「うーん、まあそうなんだけど、正体見せてさ、穂乃火とフォーノがびっくりするといけないかなと思ってね」

「クラスの中には悪魔族とヴァンパイア族もおるじゃろて。特に違和感は持たれないはずじゃ」


 確かにその通りだ。むしろ人間の恰好をしている方がおかしいのかもしれない。

 ただ、クラスの連中は見てくれや親の地位には殆ど興味がなく、むしろ魔法実技が終わった後俺たち3人に魔法を教えてくれって言ってくることをフランに話す。

 学生の向学心の高さに感心したフランは、将来の為にクラスの全員を取り込んでおくように、学生だけの特権じゃ、後々役に立つのじゃと話してくる。

 確かに両親から学生時代の友達は一生の友達になると言われていたんだよな。結局陰キャボッチの俺は友達を作り損ねてしまったけど。

 しかし後で役に立つってどういう意味だろうか。


「確かに、友達は多いほうがいいとい思うけど、後で役に立つって? まさか神族と魔族の戦争のためなの?」

 

 人間界では、神と悪魔は敵対していて神が悪魔を滅ぼすってのがよく言われているから、現実もそうかと思いフランに聞いてみるが、フランは「は?」と言う顔をする。

 

「まったく、人間というのは勝手に我々を解釈しよるわい。正宗や、以前妾が話したこと覚えておるじゃろう。神々と共同で人間の世界を修復したことを」


 そうだ。この話でその話であれっ? って思ったんだわ。

 何で神様と悪魔が共同で世界の修復を行うのかなと。


「そもそも、人間どもが神と悪魔と言って居るが元々は一緒に住んでおったのじゃ。その頃は今のような区別なんぞなかった。地上から天界に帰ってきた魂を休ませ再度地上に送り出すということをやっておったのじゃ」


 ああ、これが輪廻転生ってやつだな。

 本当にあったんだ。


「じゃがの、やはり人間は悲しいかな、濁りなき魂で地上に送り出しても、地上で罪を犯し咎人とがびととなって帰って来る者もおれば、咎人とならずとも真っ黒に染まった魂で戻ってくる者もあるのじゃ。そこで神々で話し合った結果、妾の父上が汚れた魂をもらい受け、汚れた部分を取り除いて送り返すということを引き受けたのじゃ」


 フランの話に、汚れ役をやるお義父さんってサラリーマンの鏡みたいな人だ、 おとこだ!と唸ってしまう。


「父上がサラリーマンか。まあ確かに天界を会社と考えればそうなるな。でじゃ、父上がさらに神々に提案しての、人が罪を犯さないようにするには、罪を犯すとこうなるってことを人間に知らせてしまえばいいのではないかと。それが人間共がいう『地獄』じゃ」

「悪いことしたら地獄に落ちて、火あぶりになるとか血の池地獄に落ちるとかというやつだね」

「まあ、そうじゃの」

「でもどうやって人間界に広めたの?」

「人間共でいう神話の時代以前じゃの。何回か人間は滅びかけて居るが、復活の黎明期に父上やその他神々が人間の形をして地上に降りていくのじゃ。そこで人間と一緒になって生活し、人間があるべき姿、所謂宗教や道徳を広めたのじゃ」

 

 これってガチの神話だよな。

 フランが言うには、この時に天国や地獄という概念を人間に広め、悪行をした人間は地獄に、善行をした人間は天国に行けるという今の宗教の基礎を作ったとのことだ。

 さらにお義父さんは自分から悪役を買って地獄の悪魔という概念を植え付けたらしい。

 お義父さん、マジ、カッコよさパねえっす。


「フランよく知っているね」

「いや、これは母上から聞いたのじゃ。母上は父上のその行動に惚れて、父上のところに押しかけて結婚したのじゃ」

「うわぉ! 押しかけ女房? その血をフランが継いだわけだね」

「いや、あの時はの……まあそうなるのじゃな」


 フランは頬を赤らめる。あの強引さは母親譲りだ。


「でもこっちへ連れてきてもらったけど、俺が知っている地獄みたいなのはないよね」

「実際は魂の汚れをこそぎ落とすのじゃ。そういう場所があるのじゃ。ちなみに正宗はどのような地獄を人間界で知ったのじゃ? 」

「ええと、通勤地獄に残業地獄とデスマーチ」


 よく考えればサラリーマンっていつも地獄にいるようなものなのかもしれない。


「お主の場合は、モテない地獄じゃろ」


 ゴフッ! 俺のハートにロンギヌスの槍が突き刺さる。

 ゴルゴダの丘で十字架に磔られたイエス・キリストの気分がよくわかる。


「それは言わない約束よ。フランさん」

「まあ、冗談はさておいて、父上はこのために魔界を作り、自ら来たのじゃ」


 うーん。これっていわゆる社内起業というやつか? 神様ホールディングの社内カンパニーで、新しいカンパニーを作って自ら代表取締役社長に就任するってやつじゃん。


「それにの、天界と魔界で交流もあるのじゃぞ」


 俺は宗教には詳しくないが、そんなことは初めて聞いた気がする。


「神事交流プログラムがあっての、天界から魔界への出向、もちろん魔界からの出向もある。お互いの世界を見て見識を広めるのと同時に、人脈いや、神脈を作らせるのじゃ。いざというときにお互い顔を知っておけば話が早いじゃろう」


 おい、これって会社員と全く変わらねーじゃん。つーか、善行を積み上げて天界にたどり着いたと思ったら、魔界から出向してきた魔族がいましたって、生きた心地がしない? だろうな。


「じゃあさ、俺も神様に会うことができるの? 」

「うむ。できる。ただし非モテの神様はおらぬぞ」

「では、俺がその神になろう! 万国の非モテ・オタ男子諸君よ立ち上がれ!! リア充への鉄槌を下すのじゃ! なんてね~」


 俺はモーゼのように両手を広げておどける。


「お主、妾と結婚してリア充じゃろ。さらに妹までできておるではないか。どこが非モテの神様じゃ?」


 フランがジト目で俺を見る。

 それによ、フラン、何でリア充って言葉知っている? 


「そうですわぁ。お兄様ぁ」


 ブホッ!  

 いつの間にかアスタが来ていた。

 

「あ……アスタ。いつの間に? 」

 

 妹の前でバカな行動を見られてしまい、広げた両手のやり場に困ってしまった。

 

「たった今ですわぁ。お兄様ぁ。非モテの神様なんてだめですよぉ。ジークから聞いたんですけどぉ、この前のワイバーンの件でEランクの冒険者がワイバーンスレイヤーの称号をもらったことで、女性冒険者の噂になっているんですよぉ。お兄様に会いたいとか言っている方多いらしいのですよぉ」


 おい、これってモテ期到来ですか?

 いやいや! そんなことはない……とは言えない。


「そういう方がぁ、非モテの神様になるっておかしいですわぁ」

「確かにそうじゃ。自己矛盾起こして居るの」


 フランとアスタはケタケタ笑う。

 うーん。秋葉原に非モテ・オタ神社を作ろうとしたのだが、その神様自体がリア充じゃあっという間に神社焼き討ちだな。


「それにぃ、お兄様が神様になったら、私ぃお兄様の血が吸えなくなりますわぁ」


 アスタは赤い目で俺にねだってくる。


「よし! 神様になるのはやめた。 フランとアスタに「はむっ、ちゅー」されるほうが大事だ! うん!」


 こういうことは即断即決が必要だ。

 が、これが裏目に出る。


「じゃあ早速なのじゃ!」

「そうですわぁ!」


 そのままフランとアスタに持ち上げられベッドに放り込まれると、そのまんま二人に首筋に「はむっ、ちゅー」されることになり、この時点で非モテの神様になる資格は剥奪となった。

 大の男一人を軽く持ち上げるなんて、やはりこの二人は悪魔とヴァンパイアだわ。

 フランとアスタの牙が首の両側に穿たれる。首にあたる二人の唇がとても気持ちがいい。フランの牙に俺の魔力が、アスタに俺の血が流れ込む。

 二人の背中から黒い翼が現れ、爪が体にめり込んでくる。

 

 悪魔とヴァンパイアの正体を現した美少女をぎゅっと抱きしめると、細い脚が獲物を逃がさないとばかり俺の脚に絡みつき動けなくなってしまう。

 いや動きたくない!  

 

 二人の脚の肉感に加えて、フランのオーバーニーソックスとガードルの感触、そしてアスタのストッキングの感触が伝わってきている。これぞ天国! 魔界で天国! いや地獄に仏? 

 ええい、何でもいい。幸せってこういうことなのだ!  

 ぴちゃぴちゃと舌で舐められる感覚が首筋に伝わる。とてもくすぐったくて気持ちがいい。至福!  

 

 ふと、もし非モテの神様になったときにこのリア充画像が流れたら、間違いなく神社は氏子から焼き討ちどころか、神社ごと爆破され身をもってリア充爆発を味わうことになるだろう。 

 やはり俺の選択に間違いはなかった。


「お兄様ぁ、ごちそうさまでしたぁ。美味しかったです」

「美味しかったのじゃぁ。正宗や」


 フランの目は白目が黒く黒目が赤に、アスタの目は黒目が燃えるような赤になっている。二人の瞳孔は縦長に切れ、小さな口からは俺の血が滴り落ちている。

 二人は俺に頭をこすり付けてくる。もうほんとにかわいいったらありゃしない。


「どういたしまして」


 俺は二人をぎゅっと抱きしめて、二人の頭に頬擦りをする。甘い匂いが鼻腔をくすぐる。


「ねえ、お兄様ぁ、お姉様ぁ」


 アスタは服の襟口をはだけ、白い首筋を見せて甘えてくる。吸血衝動に駆られた俺は、本能のままアスタの首筋に牙を穿つ。


「くぅふうぅうん。お兄様ぁ」


 アスタの表情は歓喜に満ち溢れ、黒い翼がハサハサとまるで子犬のしっぽのように動いている。

 アスタの血はとても甘く、アスタの柔らかくて温かい魔力が体の中に入ってくる。


「愛い奴じゃの、アスタ」


 フランもアスタの首筋に牙を穿つ。


「ふぁああ お姉様ぁあ。もっとぉお」


 アスタの目は更に萌え、いや燃える様な赤になる。フランの魔力がアスタに注ぎ込まれているのだろう。

 フランの魔力がアスタを通じて俺に入ると角が出始め、黒い翼が背中から現れる。

 俺とフランはアスタの首筋を舐めて傷を消す。


「お兄様ぁ。お姉様の血の効果が出てきましたね。素敵な角と翼ですわぁ」

 

 おお、妹に素敵と言われた!

 お兄ちゃん嬉しいです!ありがとうアスタ。


「アスタの血は即効性で、妾の血は遅効性なんじゃの。正宗はアスタの血をもらってすぐにヴァンパイアが出てきたからの」

 

 フランが血の効果の違いを話す。確かにフランの血をもらってから翌日には念話とディメンジョントランク使えていたけど、アスタの血をもらった後は数時間後にアスタを噛んでいたもんなぁ。


「傷の治癒力は二人譲りかな? 相乗効果だね。だから、フランにも返すね」


 フランの首筋に牙を穿ち、魔力と血を一緒に返す。


「いきなりはずるいのじゃぁ。正宗ぇ」

「じゃあ私もお姉様に返しますねぇ」


 アスタもフランの首筋に牙を穿つ。


「もう愛い奴じゃの、お主らはぁ、くはぁあ」


 フランは両腕で俺とアスタを抱きしめる。

 ふと見ると、フランの角が青白い輝きを出し始めている。


『フランの角、とっても綺麗で可愛いね』


 俺はフランの角をそっと撫でる。


「ましゃむねぇ、つ、角は、ら、らめぇええ。ふぁっ、ふあぁあぁああ」

『お姉様ぁ、可愛いですぅ』


 アスタもフランの角をそっと撫でる。


「アシュタまでぇえ。も、もう、らめなのじゃあ、ひあぁあ」


 気が付くとフランを中心にアスタと俺で三人川の字になって寝ていた。

 フランとアスタの顔は紅潮し肩で息をしている。

 これ、第三者が見たら、どう見ても変態プレイの事後だわ。

 でもこんな美少女と同衾して、首を噛み合って血と魔力を分け与えあうことができるなんて、本当に最高death!  

 さて、賢者タイムになるところだが、これではムードぶち壊しだ。

 俺は肘枕をしながら嫁と妹の寝顔をみる。うーん眼福MAX!。


「おはよ。フラン」


 目を覚ましたフランの頭をなでながら額にキスをする。


「正宗ぇ。よかったのじゃあ」


 虚ろになったヘテロクロミアの眼も可愛い。


「僕もだよ」

「正宗や、先に風呂に行ってくるのじゃ。妾とアスタはちょっとやることがあるでの。風呂から上がったら夕食なのじゃ」

「わかった、お先にいただくね」


〜〜〜あとがき〜〜〜

この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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