第34話 魔法大学校の授業 正宗の常識とずれてます

 翌日

 魔法大学校の教室に入ると穂乃火とフォーノが隣り合って座っていた。


「おはよう。穂乃火、フォーノ」

「おう、おはよう。正宗」

Доброеуウーтро(おはようございます)正宗」


 俺は穂乃火とフォーノと距離を置いて座る。


「おい、正宗。こっち来いよ」


 穂乃花が俺に声をかけてくる。


「いいのか?」


 学生時代、女性の横に座ることなんぞなかった俺は本能的に女性から離れて座るように体が動いていたようだ。


「正宗、Даваヴァй! (はやく) 」


 フォーノが俺に手招きをする。


Спасиシィбоヴァ (ありがとう)」


 反射的にロシア語でフォーノに返答してしまう。

 フォーノがクスリと笑っている。


 そうこうしているうちに、クラスの連中が入ってくる。

 まだみんなぎこちない様子だ。まあ、最初はそんなものだろう。

 オリザ先生が教室に入ってくると同時に、チャイムが鳴る。


「皆さんおはようございます」

「おはようございます」

「それでは、今日の課業を始めます。今日は時間割通り、魔法理論、錬金術、剣術基礎、体術基礎、魔法実技二時間です」

 

 午前中が座学で午後が実技か。実技まで体力持つだろうか……

 魔法理論はフランと一緒に勉強した理論の復習のようなもので、プログラミングと同じようなものだったが、魔力による現象を起こすことを教えているだけで、なぜ物が燃えるか、光を発するかという基礎的な部分がないことに気が付いた。

 おそらく、次の錬金術も同じように魔力による現象をいかに扱うかというのを教えるのだろう。


 つまりは、機械の扱い方を教えるだけで、モーターの動く原理を教えないのと同じようなものだ。

 いや、ひょっとするとこれを知っているという前提で教えているのかもしれない。

 この仮説を検証するべく、ちょうどオリザ先生が火の属性の魔法の説明をしているところだったので、質問をしてみることにした。


「先生、教えてください」

「はい。ええと、紀伊さん」

「はい、火属性の魔法で火を起こす時なのですが、紙も油もないのに手の上でどうやって火が起こせるのでしょうか。また火はどうやって燃えることを続けられるのでしょうか」


 火は温度と酸素と燃えるものの3つがないと燃焼ができないので、どう答えてくるのだろうか。周りの生徒たちの反応も見てみたい。


 案の定、周りの生徒はクスクス笑う者、何こいつ? という目で見てくる者、馬鹿じゃねぇのと蔑んだ目で見てくる者に分かれていた。

 穂乃火とフォーノは「あ!」と何かに気付いたようだ。


「ええと、紀伊さん、火を思い浮かべて魔力を送るから燃えるんですよ。それで魔力を送り続けるから火が燃え続けるのですよ。わかりましたか? 」


 やはりそう来たか。これ以上深追いすると授業の妨げになるからまずはわかったふりをしておこう。


「はい、わかりました。授業の邪魔をしました。すみません」

「いいんですよ。皆さん、紀伊さんのように、どんな小さなことでもわからないことを逃さないようにしてください。解らないことをわからないままにするのは勿体ないですよ。質問することは恥ではありません。いいですね。では続けますね」


 オリザ先生がうまくフォローしてくれた。

 そして、これで仮説は証明できた。やはり基礎科学がないんだ。

 人間界と全く逆の世界だな。

 まあ、スマホの原理を知らなくてもスマホは使えるからいいんだろうが、これじゃ発展性がないわ。


 2時間目の錬金術もそうだった。化学では化学反応式というものが存在せず、魔力を入れるとこうなるということを教えていた。物質を表す化学記号や原子価とかイオン等の言葉そのもの、原子周期表も存在していなかった。


 ん? ということは俺が使った質量変換魔法もどきはどう説明するんだ? 電子e-と陽電子e+の概念がないんだし、量子力学そのものが存在しないから、E=mc²の公式もないと……。ウーム。

 とりあえず考えるのやめよう。授業に集中しないとな。


 で、気が付くとお昼休みだった。

 ダメな学生そのまんまじゃんか! はぁ。


「おい、正宗、どうした?」

「そです。疲れていませんか?」


 穂乃火とフォーノが心配そうに俺に声をかけてくる。


「大丈夫だよ。変に見えた?」

「試験の時から変だったからな」

「ギク! それは言わない約束よ。というかそれ言うんだったらフォーノもそうじゃん」

「それとこれとは話が別」


 穂乃火は相変わらずのクールさだ。


「あの、正宗さん、穂乃火さん、ランチ行くです」


 3人でランチをとる。


「正宗、さっきオリザ先生にした質問なんだが」

「それ、私も聞きたかったです」

「正宗は魔法を発動するときに、どうやっているのだ?」

「そうです。私、詠唱して周りの魔素と自分の魔力を練り上げて発動する。穂乃火さんも同じですよね」

「うむ。同じだ。だが、正宗が質問したように、燃えるのはなぜかというのを考えることはなかった。いい切り口だと思った」


 やはり、彼女たちは頭がいい。俺の言いたいことがすぐに分かったみたいだ。


「そうだね。例えば火属性の魔法を使うときは火をイメージするんだけど、火は温度と燃えるものと酸素の3つが重ならないと燃えないんだ。酸素は空気中にあるから、燃えるものと温度を魔力で供給しているんだよ」

「酸素? それは何です?」

「初めて聞く言葉だ」


 確かに錬金術で元素記号がないからなぁ。


「んとね、この空気を構成している物質の一つなんだよ。物が燃えるのを助ける作用があるし、生物が呼吸をするのに必要なんだ」

「そんなものがあるのか。初めて知った。というかどうやってそれを知っているのだ?」

「そうですよ」

「昔、人間の学校で勉強したんだ。知ってる通り人間共は魔法が使えない代わりに、科学の力で万物を解析しているんだ。もちろんまだ未解明のものが山ほどあるけどね」

「東京で人間と混じっていたのか。随分勇気あるな」

「まあ、慣れればなんてことないよ」


 元人間でぇす~なんて間違っても言えない雰囲気。


「怖くなかったですか? 私たち魔女の祖先、人間に魔女狩りで沢山殺されたです」

「でもフォーノはコミケ来たんでしょ」

「あそこにいる人達、私、この格好しているだけで仲良くしてくれた。怖くなかったです。写真沢山撮ってくれました。握手したら泣いて喜んだ人いたです。」


 確かにこの美少女が魔法使いの格好をしてコミケにいたら、そりゃ美少女魔法使いのコスプレイヤーとしか思わんわ。


「フォーノいいことしたじゃん」

「私もそのコミケとやらに行ってみたいな。どのようなものなのだ?」


 ガチの雪女がコミケに行ったらどうなるのだろうか。

 俺はコミケの説明をすると、穂乃火は目を輝かせ始めた。


「漫画というのも見てみたいし、コスプレイヤーというのも見てみたいな」


 フォーノと穂乃火でコミケに行ったらそのまんま魔法使いと雪女のコスプレ美少女でしょうが。多分我が同志が群がることになるでしょうな。


「青森からだと東京へは飛行機か新幹線だね。ただ東京の夏は暑いから冬に行ったほうがいいかもね」

「そうだな。一度人間のふりして青森市内を歩いたことがあるが、夏はやはり暑くてダメだった」

「穂乃火、怖くなかった? 私、オイミャコンに行くのも怖い」

「人間共と同じような服を着てしれっと歩いていれば大丈夫だ」

「でも、何で夏に八甲田山から下りたの?」

「ねぶた祭りを見に行った」

「跳ねたのか?」

「ああ、一度やってみたくてな。しかし、正宗はよく知ってるな」

「ねぶたって何ですか?」

「こういう祭りだよ」


 俺はタブレットを取り出してフォーノにねぶたの動画を見せた。


「Oh! すごい」


 タブレットから「ラッセーラー」の掛け声とねぶた囃子が流れると、物珍しさから周りの連中が見に来た。


「紀伊さんだっけ? これ何ですか?」


 ラミアが俺に訊ねてきた。

 コ〇ドームです。お使いになりますか? とスネー〇マンショーのようなことを言いたくなったがさすがに通じないだろう。


「これは、タブレットといって、人間が作った道具なんだ。文書を作ったり、写真を撮ったり、動画を見たりいろいろできるものなんだよ」

「へえ、便利そうですね。でも人間界に行ったのですか?」

 

 今度はメデューサが尋ねてくる。


「そうだよ。結構面白いところだわ」


 なんか俺女の子に囲まれてるよ。

 人間だったころとは大違いだ。ん? ということは、これフラグじゃないのか? 


「人間界に行った? ずいぶん人間の臭いがする思ったらここかよ」


 オーガがにやにやしながらこっちに来る。

 ほーらね。フラグ回収。はあ。あんまり正体見せたくないんだよなぁ。


「ちょっとぉ。いま面白いところなんだから、邪魔しないでよ」


 メデューサとラミアがオーガに抗議する。


「それにいまランチしているんだから」


 穂乃火とフォーノが追い打ちをかける。

 女性を敵に回すとあとが怖いのはどこでも同じだろうな。オーガはタジタジになっている。


「みんなごめん、なんか俺がそんなものを出したから騒ぎになってしまって」

「何言ってんのよ。正宗は何も悪くないじゃん。面白いじゃないのこれ。ランチ食べている間ちょっと見ていていい?」


 ラミアがメデューサとタブレットに見入っている。


「どうぞどうぞ」

「正宗、フォーノ、とっととランチ食べるぞ」


 俺達は残りのランチをさっと食べる。

 昼休みはもうちょっとあるけど、魔法実技で実技棟に行くから早めに切り上げないといけない。

 ランチを食べ終わったことに気が付いた二人がタブレットを返してくる。


「面白かったよ。ありがとう。あ、私、ヒルデガルド・ノイマンよ。種族は見ての通りのラミアでーす。ヒルダでいいよん」

「うちは、エヴァンゲリア・クセナキスや。種族は見ての通りのメデューサですわ。エヴァでよろしくな。」

「どうも、紀伊正宗です。よろしく。こちらが琉球穂乃火さん、こちらがフォティーノ・クルチャトファさん」

「穂乃火でよろしく。種族は雪女で八洲から来た」

「わたしはフォーノでよろしく。魔女でロシアから来ました」


 俺たちはポカーンとしたオーガを放置しカフェテリアを後にした。

 オーガとはちょっとしたイベントがあったんだけどね。


 午後の実技は剣術と体術と魔法実技だ。

 剣術は異世界アニメ鉄板の西欧式剣術、体術は関節技と当身の護身術だった。

 やはり魔法を使うことが主なので、いざという時に使える教養的なものなんだろう。


 フルコンタクト魔法なんてあるはずもないしな。


 で、魔法実技の時間になりました。もう、建物は壊さないぞ。それに攻撃系の魔法だけでなく治癒や移動の魔法も勉強したい。

 いつもフランの転移魔法で移動しているから、俺も使えるようにしないとね。

 

 オリザ先生が担当教官だ。


「それでは、実技を始めます。まずは準備体操で魔法力の制御です。ゲートをゆっくり開けていきましょう」


 皆がゲートをゆっくり開け始める。やはりこれだけの魔法使いがゲートを開けると魔力の奔流を感じることができる。

 俺もゆっくりとゲートを開き始める。


「紀伊さん! もう少し絞ってください!」

「え? まだちょっとしか開けていませんよ?」

「ちょっとって、どれくらいなんですか? もうこのあたりの魔力が渦を巻いていますよ!」

「10のうちのまだ1も開けていない感じですよ」

「実技棟を壊すようなことをしないでくださいね。クルチャトファさんもです。もう少し絞ってください」

「わ……わかったです」


 どうやら、俺とフォーノの基礎魔力量はかなり多いらしい。だからちょっとゲートを開けただけで魔力が噴出するんだろう。

 しかし、今日は冷えるな。日没まではまだ時間があるんだが。

 俺が実技棟の窓を見ると、窓が凍っていた。


「え? なんで? 冬将軍でも来たんかい?」

「琉球さん! あなたももっとゲートを絞ってください。全員氷漬けにするつもりですか?」


 どうやら、穂乃火も基礎魔力量が相当でかいようだ。

 大型ダムの水門をちょっとだけ開けても流れ出る水の量が半端ないように俺たち三人の魔力量は相当大きいようだ。

 確かにフォーノは全開で打ち込んで実技棟の壁を吹っ飛ばしたからな。

 次の魔法実技の時間から、俺達三人は離れて練習することになった。

 何でも各自の魔力量がオーバースペックなので、オリザ先生が俺たちに別メニューを作ることになったらしい。


〜〜〜あとがき〜〜〜

この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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