第33話 正宗、魔法大学校へ入学する
いよいよ魔法大学校入学式だ。合格通知書を受付に提出し、入学式会場へ向かう。
まずはスタートラインだ。
いろいろな種族が来ている。この前の雪女さんや、検査会場吹っ飛ばした人も来ているんだろうなあ。
入学式は学校長や来賓の挨拶、教官の紹介があるだけで事務的に終了した。
会場を出るときに、クラス分けの紙と教科書類が渡される。
「ええと、教室はと……ここか」
教室は階段教室になっているが、席数がとても少ない。20名ぐらいか。
学生の定員は200人だからその10分の1くらい。クラスが5クラスって聞いたから1クラス40人の計算だと合わないなぁ。
「やあ、紀伊さん。こんにちは」
後ろからポンポンっと肩をたたかれる。
振り向くと雪女の琉球穂乃火さんがそこにいる。
「あ、どうも琉球さん。同じクラスだったんですね。よろしくお願いします」
「こちらこそ。しかしここの教室はずいぶんこぢんまりとしているな」
「そうですよね。何ででしょうね」
「さあなぁ。よくわからんが、とりあえずどこかに座ろう」
「そうですね」
「あの、紀伊さん、一応同級生なんで、敬語やめてもらえませんか。あと穂乃火でいいですよ」
「じゃ、俺のことも正宗でよろしく」
席に座ろうとするが
「こにちは」
後ろから声をかけられる。振り向くと実技棟を吹っ飛ばした魔法使いがいる。
「あ、どうもこんにちは。先日の魔法すごかったですね」
「貴方の魔法、とても、すごかったです」
「一緒のクラスなんですね。紀伊正宗といいます。よろしくお願いします」
「こちらこそ。フォティーノ・クルチャトファです」
「お。爆発魔法少女」
「Oh! 瞬間冷凍さん」
お互いに笑顔で指をさしあっている。
「琉球穂乃火だ。よろしく」
「こちらこそです」
「とりあえず、そこの席に座ろう。立ち話もなんだし」
三人で並んで席に座る。
「えと、クルチャトファさんだっけ。御出身はロシアですか? 」
エメラルドグリーンの目と青色の髪の毛に白い肌の彼女に話しかける。
「よくお分かりになりました。あなたは何処の国から来ましたですか?」
「私は、大八洲皇国から来ました。隣の穂乃火さんも同じです」
「そうですか。私はロシアの魔法使いです。大八洲一度行きました。とてもいい国」
「
ロシア語で答えてみると彼女は驚いた表情をしている。
「Oh! あなた、ロシア語話せる? どうぞ、フォティーノかフォーノと呼んでください」
「
「そうですか。ここでロシア語聞けると思わなかった」
「穂乃火はフォーノと知り合いなの?」
「一緒のグループでな、フォーノの魔法がすごくて一発で覚えた。私は火属性を持っていないからな」
穂乃火はクールに答える。
「私、氷魔法使えない。穂乃火の氷魔法すごかった。キモノとても素敵で、穂乃火とても美人。クールビューティ。とても印象にのこった」
確かに穂乃火は色白の肌に黒髪ロングで着物を着ている。
まさにヤシマビューティだわ。これで文金高島田にしたらもろ大八洲人形だわ。
「な……やめろ。恥ずかしい。その言葉、フォーノに返す」
「コトバ返す?」
フォーノにはまだ言い回しが難しいようだ。
「フォーノが美人でクールビューティってことだよ」
穂乃火の言葉を分かり易く話してあげる。
「Oh!
フォーノは顔を赤らめて喜んでいる。
まだまだ学生は入ってくる。いろいろな種族がいる。
オーガ、ヴァンパイア、メデューサ、ラミア……モンスター系アニメそのまんまだな。
しばらくすると魔女の服を着た教官が入ってきて教壇に立つ。
「初めまして、私はクラスの担任のオリザ・ノールです。1年間よろしくお願いします。それでは出席を取りますので、呼ばれたら返事をしてください」
出席なんて久しぶりだな。大学だと出席カードが回ってきて自筆で書くんだけどねぇ。
「はい。20名全員いますね。これでSクラスの皆さんはそろいました。皆さんは上位20名の方です。本来は1年で全てのプログラムを終了し、マジシャン(魔術師)になるのですがSクラスだけは半年で全てのプログラムを終了しマジシャン検定を受けてもらいます。合格者はそのあと残りの半年を魔導士(ウィザード)検定のためのプログラムを受けてもらいます。なお、マジシャンに不合格になった場合には、Aクラスへ移動し卒業と同時にマジシャンとなります。よろしいですね」
うわぁ。厳しい。一発勝負かよ。
「そうはいっても、このクラスに選抜された時点でマジシャンと同等の能力が備わっていると思ってください。この中にはウィザードの上のアークウィザード並みの能力を持った方もいると聞いております」
クラスの中がざわつき始める。
「なんだよそれ」
「ずるくねえか?」
するとオリザ先生は咳払いをする。
「はい、皆さん魔法には自信があるかもしれませんが、このクラスに入ったからには学ぶだけでなく、お互いに魔法の使い方を教えあったり考えたりして切磋琢磨し、実りのある学生生活にしてください。何か質問はありますか? 」
一人が手を挙げる。
「はい。どうぞ」
「あの、何か人間の臭いがするのですが、ここって人間が来られるところなのでしょうか?」
「いいえ。人間は死なないとこの世界には来られませんし、来たとしても魂の形ですし、この場所には入れません。それに人間界では魔法は途絶えていますし、万が一何かの間違いで人間が迷い込んだとしても、すぐに殺して魂の形にしますから」
オリザ先生が平然と答える。
ヤバイ。俺殺されちゃうの? いや、フランと一緒なら死なないし朽ちないって言って……あ! ここフラン居ねえよ!
この前のギルドの居酒屋での騒ぎが脳裏に浮かび冷や汗が出てくる。
落ち着け俺。フラン(悪魔)とアスタ(ヴァンパイア)の血が入っているんだ。もう人間やめているんだから大丈夫大丈夫。
必死に自分に言い聞かせる。
「他に質問は無いようですね。それではオリエンテーションに入ります。今日は授業のカリキュラムを説明した後、学内の見学をして終了となります。今日は昼までです。明日からは通常の授業となります」
そのあと教育カリキュラムの説明があり、Sクラスだけは毎日6時間目まであるとのこと。AクラスからDクラスまでは毎日4時間目とのこと。
同好会や研究会の活動もあるが、Sクラスは任意らしい。
これって、高校の特進コースみたいなノリじゃん。
カリキュラムを見ると、やはり魔法以外に剣術と体術もある。
うーん、小学生から高校生まで剣道やっていたけどこっちで剣道通じるんかな?
大学では何を間違ったか徒手格闘部に入って(いや先輩に強引に入れられた)しまった。
まあ、この徒手格闘つながりで、今の役所に先輩がいて入れたようなもんだが、こっちの体術ってどんなのだろうか?
悩んでも仕方ない。ぶっつけ本番だ。
校内を見て回る。教室棟、実技棟、グラウンド、カフェテリア、体育館などを見て回った。
まあ、人間界の学校と同じだ。
「正宗、フォーノ、あそこだろ、お前らが吹っ飛ばした実技棟は。もう修理済みだな。そういえば、正宗は教室棟のガラスもほとんど粉々にしたんだよな」
穂乃火が俺に話しかける。
「穂乃火、勘弁してぇ」
「次は、正宗に負けまセンです」
フォーノが鼻息を荒くする。
「いや、そこで頑張らなくていいんだ。フォーノ」
すかさず穂乃火が突っ込みを入れる。
「たのむ。フォーノ。先生たちを泣かせないようにしてくれ」
入学試験の実技試験で目に涙をためていたのはオリザ先生だったことを思い出す。
「泣かせるきっかけを作ったのは正宗、お前じゃなかったのか? 」
ゴフッ! クールな突っ込み、何も言えません。
「では、見学は終了です。教室に戻って解散とします」
全員で教室に戻り、明日の予定を伝えられて解散となった。
明日からは朝9時から授業で午前2コマ、午後4コマとのこと。
「さて、昼めし食って帰るか」
「正宗、フォーノ、カフェテリアに行くか?」
「もちろん、私いきますよ。おなかすいたです」
学校で女性と飯を食うなんて初めてだわ。しかもこんな美少女たちと。
バジリスクのフライ定食を、穂乃火は氷たっぷりの冷やしパスタにアイスクリーム、フォーノはハンバーガーを選んでいた。
「穂乃火って、雪山にいるんだよね。どこにいるの? 青森、岩手?」
雪女伝説は沢山あるのでどこに住んでいるかを聞いてみる。
「青森だ。八甲田山って知っているか?」
「後藤伍長の銅像がある所でしょ」
高校の修学旅行が青森だったんだよな。
「よく知っているな」
「でも青森の割には、津軽弁が出ていないね。がっつり話すと思ってしまったからさ」
修学旅行先で、青森のおばちゃんが何を話しているかよくわからなかったことを思い出す。
すると穂乃火がいきなり話し出す。
「なんも、わが津軽弁しゃべれば しゃべったって しゃべられるし しゃべんねば しゃべんねってしゃべられるし どうせ しゃべられるんだば しゃべんねでしゃべったって しゃべられるより しゃべってしゃべられだってしゃべられだほうがいいって しゃべってたって しゃべってけ!」
いきなりのマシンガントークに、俺とフォーノは完全に目が点になっていた。
穂乃火が言うには、これは津軽弁の早口言葉で、標準語に直すと、私が津軽弁を言うと言ったって言われるし、言わないと言わないって言われるし、どうせ言われるなら言わないで言われるより言って言われた方がいいって言ってたって言っておいてちょうだい。ということらしい。
「すげぇ。青森の雪娘。完全に外国語だわ」
「穂乃火かっこいいです!」
「そ……そうか?」
穂乃火は顔を赤らめる。
「あ、ついでにリンゴ娘だ」
「リンゴ?」
フォーノは不思議そうに見ている。
「穂乃火の頬が青森のリンゴみたいに赤くなったからリンゴ娘って呼んだんだ」
「なるほど。うまい言い方ですね」
「青森のご当地アイドルでリンゴ娘というのがあるぞ」
「穂乃火もその一員とか?」
「Oh! すごいです」
「ナイナイwww」
穂乃火が笑いながら否定する。
「穂乃火の笑った顔初めて見た。結構いいじゃん」
「そうですよ。とてもいいです」
「そ……そうか? フォーノもその笑顔とてもいいと思うぞ。ロシア美人だぞ」
「確かに。フォーノって八洲の初〇ミクに似ていると思う」
「そのコスプレ好きです。コミケに1回行きました。今度コスプレやってみたいです」
多分、フォーノのコスプレは本物を超えるだろう。
「ロシアのどこに住んでたの?」
「シベリアです。一番近い町、オイミャコン」
オイミャコンか。冬はマイナス50度くらい行く地域だ。
「私たちは森の中に住んでいます。人間とは会わない。魔女とわかると大変だから。正宗はどこに住んでいたですか?」
「俺は東京だよ。東京から30分くらいの小さな町さ」
「そんなところに魔族が住むところがあるのか? 大都会じゃないか」
「人が多いから判らないんだよ。都会って他人に無関心だからね」
話をそらすためにアイスに注意を向けさせる。
「穂乃火、アイス溶けちゃうぞ」
「あ、そうだ、話に夢中になってしまった」
「こんなに話したの、私、久しぶり。とても楽しい。ご飯とてもおいしいです」
確かに、学校に入って早々、こんな美少女たちと話しながらランチができるなんて本当に夢みたいだ。
これで、テンプレの展開だと、パーティー組んでモンスター討伐となるんだが、魔王討伐はないな。
なんせ魔王って俺の義理の父になるんだから。
ランチを終えそれぞれ帰途に向かう。
「ただいまー」
「お帰りなのじゃ」
フランは執務中で書類の山にうずもれていた。
「フラン、大変そうだね」
「ちょっと仕事が溜まっておっての。片づけるまでちょっと待っておれ」
王女という立場も大変だ。いろんな仕事があるようだ。
傍らに執事が控えていて、フランが仕上げた書類を整理している。
俺は一度部屋に戻り、明日の予習をする。
「どうじゃった一日目は」
フランが仕事を終え部屋に来たので、お茶を飲みながら今日の出来事をフランに話した。
「そうか、お主剣術や体術の心得はあるのかえ?」
「剣道と拳法はかじっていたから何とかなるかもしれない。だけど基礎体力が持つかどうか」
「何を言って居る。ワイバーンを倒した時に平原を駆け回っていたではないか」
「いや、あれは必死だったから。でも魔法大学校は軍隊じゃないから、そんなにハードな内容じゃないと思うんだけどね。魔法使いの女性もいたし、剣術や体術は教養の一つかもね」
「いや、そうではない。魔法が使えない状況になったときに剣術や体術を知っておかないと命取りになることがあるからの。魔法使いの女の子とやらも魔法だけではだめだと知っておるのではないかの。あとはどのようなのが居ったかの」
俺はこの前会った雪女の穂乃火や、教室で見かけた学生のことを話した。
「そうか。しかしクラスに20人とはずいぶん少ないのう」
「あ、そういえば、教官のオリザさんが言っていたんだけど、俺のクラスは上位20名を集めたらしい。マジシャン試験を半年で受けて、そのあとウィザードの試験を受けるコースらしいんだわ」
オリザ先生が説明してくれたカリキュラムをフランに話す。
「なんと。そのように変わったのか。まあ、お主なら問題なく行けるじゃろうて」
「うーん。まあ行けると思うんだけど」
「どうしたのじゃ? 何か気がかりがあるのか? 」
「うん。なんか人間の匂いがするってクラスの奴が言っててね。ギルドの居酒屋みたいなことにならなきゃいいけどと思ってさ。それとかややこしいことにならないかなって」
「正宗には、人間の名残があるだけじゃ。気にする必要はない」
「確かにそうだね」
名残か。尾てい骨みたいな物だが、もう悪魔とヴァンパイアの混血になっているの
だから気にする必要はないか。
変に絡まれたら正体表したらいいんだし。
あ、でもそうすると王族関係ってわかってしまうな。
うーむ。ややこしい。いやボッチでいた俺だ。そうそう絡まれることはないだろう。
〜〜〜あとがき〜〜〜
この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。
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