第32話 正宗、体が変わる

「ふう。長い一日だったぁ」

 

 夕暮れの街並みを眼下しながら湯舟でくつろぐ。バススライムの纏わりつきが気持ちいい。

 朝は平原、昼は砂漠。平原ではいきなりワイバーンの討伐、砂漠ではデッドリーポイズンサンドワームの討伐。

 普通、RPGでは最初にスライムとかゴブリンなんだけど、いきなりラスダン前のモンスターって無茶ぶりだよな。


 Eランクの冒険者相手に一体何の罰ゲームだ? 一歩間違えれば死ぬぞ。

 あ、そうかフランがいる限り大丈夫なんだ。

 うーん、でも死なないってそれ自体が驕りと隙につながるんだよな。

 それに万一フランに何かあれば俺も共倒れだからな。

 やはり女房を守るのは旦那の役目だ。


 それにアスタのこと……本当に大バカ者だわ。妹なのに。自分が食べなくても妹に食べさせるのが兄貴なんだからな。

 マジで肝に銘じないとだめだわ。これから外で食事するときはなるべく個室のある所にしよう。

 他の目がある場所で『食事』をするのは、公爵令嬢としての品を落としてしまう。

 アスタにもゆっくり食事してもらいたいもんなあ。

 まあ、すぐに良くなってよかったけど、本当にどうしようかと思ったわ。


「正宗や、入っておるか?」


 フランの声がする。


「お先に入っているよぉ」


 タオルを体に巻いたフランがかけ湯をし、湯船に入ってくる。バススライムがバスタオルとフラン体の隙間にフィルムのように薄くなり入っていく。


「ふう。気持ちがいいのじゃ。天国なのじゃぁ」


フランも湯船の中で体を伸ばし気持ちよさそうにしている。


「悪魔が天国って、なんか変じゃね? まあ気持ちはわかるけど」

「そうじゃの。ワハハ」

「今日のワイバーンの肉はどんな料理にするの?」

「厨房のコックにお願いして、妾たちの分はステーキにしてもらった。父上と母上の分は母上に先に渡しておいたから、まああとは厨房に任せて職員で食べてもらえばよい。休日にバーベキューでもすればよかろうて」


 さすがは王女様だ。あれだけのワイバーンの肉なら恐ろしい額の値段が付くのだろうけど。


「フラン、職員思いだね。優しいんだね」

「妾たちがこうやって居られるのも、職員達のおかげじゃからの」


 フランは屈託のない笑顔で答える。

 あのお転婆なフランからはちょっと想像がつかないけど、こういう優しさっていいよな。


「ワイバーンのステーキって楽しみだな。レストランで出すところはあるの?」

「そうじゃの。高級レストランか料亭ぐらいじゃな」

「料亭あるんかい?!」

「料亭を知っておるのか?」


 フランに料亭が大八洲が発祥だと言う事を話すと、確かに料亭の個室は正宗のアパートと同じく畳敷きだったとのこと。

 おそらくは魔界の誰かが大八洲で料理の修業をしたのかもしれない。

 何でも、料亭では箸を使っていたらしい。

 だからか、フランもアスタも俺の部屋でお箸を平気で使っていたのは。


「そうじゃの。つながったわい。確かに大八洲じゃ。ワハハ」

「ギルドの居酒屋はナイフとフォークだったよね」

「そうじゃの。そういえば正宗や、ギルドの居酒屋で思い出したが、チンピラに絡まれた時、お主角を出しておったが、いつの間に角ができていたのじゃ?」

「よくわからないんだ。どんな形していたか覚えている? 両方のこめかみのところから出てくる感触があったんだけどね自分からは見えないんだよね」

「妾の角とよく似ておったような気がする。出てきたのはここからか?」


 フランは俺の正面から両手で俺のこめかみを触る。


「そのあたりかな」


 フランのバスタオルの胸の部分が俺の目の前に来る。

 童貞の俺には蛇の生殺し状態だ。

 さらに息子も立ちましたが、同時にフラグが盛大に立ちました? 


 フランが体を伸ばしてバスタオルが緩んだところにバススライムが動き、体を包んでいたタオルがはらりと湯船に落ちる。

 フラグ回収です。お約束のシーンです!  

 俺の目の前にフランの豊満な真白き二つの雪山と、その頂上に咲いた紅色のサクランボが現れる。


 Oh! Yeah! 眼福! GANPUKU!  


 あとは鉄板、俺は鼻血のバルカン砲発射後、キュートな2つのサクランボ爆弾に撃沈され湯船に沈没。

 フランは両腕で前を隠しアタフタ。


 ジャバーッ

 湯船から半身を乗り出し、風呂桶に冷水を入れて頭からかぶる。

 おい息子よ、お前もおさまれ。湯船から出られねえじゃないか。


「どうした正宗? 変な態勢で水をかぶって」

「いや、これは男の事情で」

「ああ、あの本に描いてあったことじゃな。そうじゃ。まだ正式なカップルにはなっておらぬのじゃ」


 あの美少女同人誌、やはりまずかった。

 いや確かに同人誌が裸体でいや、裸足で逃げるぐらいの美少女悪魔っ娘が目の前に半裸でいるから、それ以上のシチュエーションなんですが、まだそこに至るのはまずいいでしょ。


「だから、それ、忘れてください。お願いです。結婚式終わるまで我慢しますから」

「ふーむ、あの本に描いている男共とは違うのぉ」

「フィクションと一緒にされるとその……」


 俺の顔が真っ赤になる。


「まあ良いわ。ん? 何を赤面しているのじゃ。愛い奴じゃの」


 完全に手玉に取られています。まあこれのほうが夫婦関係上手くいくそうですが。

 フランが俺にキスをしてきた。

 俺も唇を重ね、両腕でフランを抱きしめる。

 フランの二つの突起が俺の胸にあたると同時に、チロチロと舌を入れてくる。

 俺も舌を絡ませフランを味わう。


「正宗、大きくなってきたぞ。正直じゃの」

「フラン可愛いんだもん」

「もう」


 お互いに目を合わせクスリと笑う。フランの紅潮した顔と大きな瞳がたまらなく可愛い。


「そろそろ、ステーキができるころじゃの」

「上がろうか」


 もう息子が元気になっていることはわかっているので、躊躇なく上がる。

 フランの目が追っているのがわかる。


 フランの部屋に戻ると、メイドさんが夕食の準備をしてくれていた。


「おかえりなさいませ」

「うむ」

「お疲れ様です。ありがとうございます」


 ワイバーンのステーキは今まで食べたステーキとは全く別物だった。

 お母さんが作ってくれた肉じゃがも、ワイバーンの肉で作ってくれていたがこれとはまた別の味だ。

 おそらく松阪牛や大田原牛よりもおいしいのかもしれない。

 二つとも高級すぎて食べたことはないが。

 

 焼き方はミディアムレアで、ナイフを入れるとすっと切れて血が滴り、固くもないが柔らかすぎることもない。

 メイドさんが言うには、スズランの根のすりおろしを薬味にするといいとのこと。

 スズランの根に入っているコンバラトキシンは致死性の猛毒だ。人間が食べたらイチコロなのだが、ステーキにつけて食べてみると結構おいしい。

 こっちの世界に連れてきてもらってよかった。


 食事を終え、フランに本を貸してもらうと、部屋に戻り勉強を始める。

 やはり、魔力の制御をもっとうまくしないと、魔力切れを起こしたらジ・エンドだ。

 剣術は小学生から高校生まで剣道をやっていたが、勝手が違うかもしれないから戦力外と考えないとなぁ。

 魔法大学校だから、剣術はないんだろうと考えながら、大学校のカリキュラムを見ると、あるよ剣術。

 

 あと体術もあるんだ。

 クエストこなして持久力や瞬発力つけないとなぁ。

 入学までにやらなければならないことは沢山ある。

 俺は元人間なんだから、ほかの純粋魔族と違ってハンデが大きいだろう。頑張らないと。


 二時間くらい勉強しただろうか? 眠気を催し始め、本を『読んでいる』のか『見ている』のかが判らなくなってきた。

 こういう時は潔く寝るに限る。

 

 ふと、フランのことが気になる。

 よく考えたら、こっちに来てからフランはずっと俺に構いっぱなしだ。

 王女としての仕事があるんだろうから、申し訳ないな。

 そう思いながらフランの部屋へ入る。


「フラン、入るよ」


 フランは机に突っ伏して寝ていた。机の上には魔法工学書がある。

 ああ、大学教授の一面もあるんだよな。


「貴方、勤勉ですね」と言いたくなる。


「フラン、風邪ひくよ。ベッドに入って寝ようよ」


 悪魔が風邪をひくというのはないだろうが、人間界の癖だろう。


「ううーん、寝てしもうたか。ふう」


 珍しくため息をついている。やはり疲れたんだろうな。

 フランをお姫様抱っこで抱き上げる。意外と軽い。


「これ、正宗や。恥ずかしいではないか」

「一度やってみたかったんだ」


 そう言いながらもフランは俺に抱き着いてくる。

 フランをベッドまで運び、布団をかけてあげる。


「お休みね。お疲れ様」

「妾を一人で寝かせる気か?」


 フランが布団の中からじっと見てくる。


「フランの横がいい」

「妾もじゃ」


 部屋の照明が何故か薄いピンク色になる。どこの風俗店だ? 


 すっとフランの首筋が俺の目の前に来る。フランのヘテロクロミアの眼の白目が黒に、金銀の目が赤に変わり、姿も人間が見たら卒倒する悪魔そのものになっている。

 

 が、悪魔とヴァンパイアの血持つ俺には、その姿が愛おしく見える。

 彼女の姿に血が騒ぎ始め、こめかみから角が、牙と指先の爪が夫々伸び始める。

 

 そうだ、今日は俺の魔力をフランに分けて、いや返してあげよう。この力はフランとアスタにもらったんだから、貰いっ放しじゃ男が廃る。

 

 もう言葉はいらない。

 俺は魔力を牙からフランに戻すイメージをしながら、雪路のような真っ白の首筋に牙を穿つ。

 魔力が戻ってくるのを感じているのだろう、フランがぎゅっと抱きしめてくる。


「くはあ……ましゃむねぇ」


 フランの両脚も俺を抱きしめにかかる。だいしゅきホールド状態だ。

 フランの両手の爪が俺の背中にずぶずぶとめり込む。


「いいのじゃぁ。くあっ。ふわぁあぁーん」


 魔力を入れ終え牙を穿った部分を舐める。


「正宗ぇ、いつの間に魔力供給覚えたのじゃぁ。よかったぞ。今度は妾の番じゃ」


 フランの目はいつもに増して怪しく輝き始めている。背中の翼は黒光りし角も輝きを増している。

 差し出した俺の首筋にフランの牙が穿たれる。

 痛みは全くない。フランの口の温かさ、唇と舌の柔らかさが伝わる。

 フランをぎゅと抱きしめと両手の爪がフランの背中にめり込む。

 首筋を通してフランの魔力が全身に回り始める。


 すると、背中から何かが出てくる感触が伝わる。

 バリバリッ!

 何かが破れる音がする。


「おお、正宗。お主にも翼が生えたのじゃ」


 振り向くとフランと同じ黒い翼が背中を突き破って出てきていた。


「わ! すごい。フランに分けてもらった血のおかげだよ。ありがとう。なんか嬉しい」

「もう、人間には戻れぬの」

「いいよ。フランと一緒なら」


 フランと唇を重ね舌を絡ませる。

 翼をたたみ、ベッドに横になるとフランは腕枕に頭を置いてゴロゴロしだした。

 本当何よ? この可愛い生き物。思わず抱きしめて額にキスをする。


「愛してる、お休み。フラン」

「妾もじゃ。お休みなのじゃ、正宗」


〜〜〜あとがき〜〜〜

この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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