第31話 フランのお忍び
「正宗、アスタや、頂くのじゃ」
メイドが持ってきたケーキがテーブルの上に用意されている。
「ありがとう」
「お姉様、うれしいですわぁ」
メイドさんが紅茶を注いでくれる。いい匂いのする紅茶だ。
「とてもいい匂いのする紅茶だね。最高級の茶葉かな?」
「はい、正宗様。王室専用に作られた茶葉でございます」
冗談で言ったのに本当だったわ。一口含むと、ローズの香りと腰のしっかりした味が舌に広がる。
それでいて苦くない。こっちは冗談抜きで美味しい。
とってもほっとする。やはり精神を落ち着かせるんだなぁ。
「正宗や、砂の中のワームをどうやって仕留めたのじゃ? 何をしたのかがさっぱりわからなかったぞ」
「そうですわぁ。魔力弾が不思議な動きをしていましたし、砂の中に入ってしまった後どうやったのですかぁ? 」
「んとね、対潜水艦攻撃のやり方でね……」
「潜水艦ってなんですかぁ? 」
しまった、そこからか。
二人に潜水艦の説明と、護衛艦から打ち出すVLアスロック(垂直発射型アスロック)の説明をする。
「何と、水に潜れる船と、それを追撃する魔力弾があるのじゃと?」
「もう、お兄様の世界ってぇ、私たちの知らないことばかりですわぁ」
「それで、最後のあの大爆発はなんじゃ? あのようなものも初めて見たぞ」
「怖かったですわぁ。お兄様が魔力障壁を張ってくださったからぁ何ともなかったですけどぉ」
「びっくりさせちゃったかな。ごめんね。アスタを気持ち悪くさせたんで、なんか頭にきてさ。きれいさっぱり焼いてしまおうと思ってね。あれはねエアロゾル爆弾と言ってね……」
エアロゾル爆弾の原理を説明すると、二人ともすぐに理解しているくれたが同時に呆れられてしまう。
「正宗や、何故にお主は人間が戦争に使う道具の原理を知っておるのじゃ」
「人間界に居た時の職場がそうゆう関係だったからね」
「そういう関係ってぇ?」
「ええと、国を護る仕事をやっているお役所だよ」
「じゃからか。わかったのじゃ。まったく人間共は戦争でさんざん殺しあったくせに今度は別のやり口でとんでもないものを作りおってからに」
フランは苦々しい表情になる。
「でもフラン、アスタ。俺は自分の大切な人を守るために、力を使う。それだけだよ。力のない正義って単なる無力って思うんだわ」
「正宗、大切な人なんて、恥ずかしいではないか。もう」
「お兄様ぁ……」
え? 二人が顔を赤らめているが、何か変なこと言ったか?
二人はケーキにぱくつき始めた。
「お、おいしいですわね。お姉様ぁ」
「そ、そうじゃのアスタや。ほれ、正宗もいただかぬか。せっかくメイドが取り分けてくれたのじゃ。わ……悪くならないうちにいただくのじゃ」
「あ、ああ。そうだね」
取り分けられたチョコレートケーキをいただく。
疲れた体にはちょうどいい。甘味が五臓六腑に染み渡る。
「美味しいね。このチョコレートケーキ。こっちでも食べられるなんて思いもしなかったよ」
「ええ? お兄様の国にもぉこれがあるのですかぁ? 」
「うん、代表的なのはザッハトルテというケーキだよ」
「いいですわねぇ」
「では今度食べに行くのじゃ。秋葉原にもまた行きたいのじゃ」
「また三人で行こうね」
おやつの時間が終わり、アスタは家に戻る。
俺とフランはデッドリーポイズンサンドワームのクエスト終了をギルドへ報告しに向かった。
デッドリーポイズンサンドワームはたまに持ち込まれるらしく、今度はすんなりと手続きが終了した。
一匹につき1万クレジット。あまり割のいいクエストではないなぁ。
帰り道、フランに町を案内してもらう。
街並みは、中世の城壁都市そのものだが、やたらと明るい。
ネオンサインがあるし、3Dホログラムのような看板がある。
フランに聞いてみると、ネオンサインは蓄光魔石を使用しているし、3Dホログラムはホログラムビジョンで作っているらしい。
うーん、中世の城壁都市とサイバーパンクシティがまぜこぜになっている不思議な風景だわ。
道路には、いろんな魔族がごった返しているが、たまにチラ見されるのがわかる。
都会に住んでいる人は基本的に他人に無関心だが、やはり魔界で人間の姿をしていれば目を引くのだろう。
「よくここら辺には来るの?」
「お忍びで来るがの。まあこの前言ったように女子が集まるところがメインじゃの」
どのような所なのか興味がわき、行ってみたいと話すと、フランが目を輝かせる。
「この前はアキバで楽しんだけど、こっちでも色々見てみたいからね」
「あそこも面白かったのじゃ。妾は服を見に行きたいのじゃ」
「喜んでお供いたしますよ。お姫様」
魔界のファッションも結構興味深いものがあった。
どこの世界でもやはり女性のファッションに対する興味は同じようなものだ。
フランの行きつけらしい店に入る。高級店だと一発でわかる造りだ。
で、この店のどこが、女子が集まる所なんだよ?
中の商品陳列も一品一品が間隔を置いて優雅に陳列されている。
店員がフランに気が付いたらしくすかさず周りに目配せし連絡を取ると、店長らしき女性が奥から出てきた。
「フランシウム王女殿下。ご来店賜り誠にありがとうございます。ご尊顔を拝見し恐悦至極にございます」
「うむ、苦しゅうない。世話になるぞ」
「ありがとう存じます。姫様、丁度勧めさせて頂きたいお召し物がございまして、もしよろしければ御手に取っていただけませんでしょうか」
「うむ。見させてもらおうかの。正宗や、お主はそこの椅子に掛けて待って居るがよい」
フランは店長のエスコートについていく。
俺は椅子というかソファーに座る。やはり高級店だ。ソファー自体も一流品を置いている。
万一に備え、俺はフランを目で追いかけるが、やはり王族御用達の店、スタッフがあちこちに配置され目を光らせている。
あれ? 俺を見ている奴もいるわ。
まあ、ぱっと見人間だからなぁ。怪しまれるのは仕方ないか。
フランは店長から服を見せてもらっている。小さいときにお袋とデパートに行ったことを思い出すなぁ。
数着の服を見せてもらったところで、買う服が決まったらしい。
俺はフランのそばに行く。
「決まったの?」
「これにするのじゃ」
フランが選んだのは、白の女性用スーツだった。布はとても目地が細かく柔らかい。
ボタンや装飾も落ち着いていて、一発で高級品とわかる代物だ。
ふと値札を見ると、50万クレジットと書いている。うわーブランド品だわこれ。
よし、午前中のワイバーンクエスト報酬で買ってやろう。
ギルドカードを出そうと胸ポケットに手を入れる。
「それでは、外商の者に後日お届けに上がらせます」
「うむ。支払いはいつもの通り、まとめて頼む」
「かしこまりました」
アレッ? ポケットに手を入れたまま一瞬固まる。
「どうしたのじゃ。正宗や」
「いや、なんでもないよ」
そうだよ。王族がいちいち店頭で払うはずがないわ。
「では、行くかの。世話になったぞ」
「お買い上げ誠に有難うございました。これからもご贔屓にお願い致します! 」
店員がこぞってフランに頭を下げる。
店を後にし、街並みを見ながら歩く。
途中、クレープ屋でイチゴクレープを買って、食べながら歩く。
クレープ屋では周りの女子がフランに気が付いたのだろう。フランがキャッキャ言いながら楽しそうに話していた。
こういうところは普通の女の子なんだよなぁ。
ん? よく考えたら、女の子とクレープを食べながら歩くなんて、これって初めてじゃないか!
おぉおをぉお? ガチのデートじゃねえか!
女の子とクレープを食べながら歩くようなことなんざ数千光年先のことだったのに!
非モテの神様! ありがとうございます! 本当にありがとうございます!
心の中で滝涙状態になりながら非モテの神様に平身低頭の礼拝をする。
「またお主は非モテの神様に祈りをささげておるのか? 念話で聞こえておるぞ」
フランが呆れた顔をしているがもう慣れた。
「なあフラン。店への支払いってどうやってるの?」
「うむ。納品の時には、誰が注文したかがわかるようになっておるのじゃ。パンデモニウムの経理部門が妾の口座からあの店に送金するようになっておるが、どうしたのじゃ?」
アキバのメイド服ショップと同じ感覚で、ギルドカードで支払ってあげようとしたことを話すが、あの店のお客さんはその場で支払いはしないし、店側も身元が確かなお客にしか商品を売らないと言う事らしい。
完全にツケで払うという信用売りだ。庶民感覚ではついていけない。
「あの服はどういうときに使うの?」
「主に来客対応の時じゃの。相手に失礼のないように
確かに、男の世界でも企業の取締役クラスになると、握手した時に時計を見られたりスーツを見られたりして値踏みされると聞いたことがあるからなぁ。大企業の社長が1,980円の時計を着けていたり、某量販店の1万円スーツを着ていたら、そりゃ商談相手も「大丈夫か?」と思うわ。
「フランも結構気遣いが大変なんだね」
「ちょっとしたことが威厳や権威を損ねることもある。結構シビアなのじゃ。正宗や、お主もこのあたりを勉強してもらうのじゃ」
「カーテシーを見たのもあの時が最初だった庶民でございますので、どうぞお手柔らかにお願いしますよ。姫様」
「うむ。では戻るか」
転移魔法でフランの部屋に戻る。
「フラン。今日はお疲れね。お風呂行こうか」
「そうじゃの。そうじゃ、ワイバーンの肉を厨房にもっていかぬと。正宗や先に風呂に行っておれ。妾もすぐに行くのじゃ」
「あいよ」
〜〜〜あとがき〜〜〜
この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。
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