第16話 正宗、親バレする

 朝日がカーテンの隙間から入り込み、鳥のさえずり声と、パンの焼ける香りで目を覚ます。

 フランとアスタが朝ご飯を作ってくれていた。


「おお、正宗。おはようなのじゃ」

「おはようございますぅお兄様ぁ。よく眠れましたかぁ?」

「ああ、おはよう。よく眠れたよ。あれ? アスタは太陽の光浴びて大丈夫なの?」

「ええ。大丈夫なんですよ。お兄様も大丈夫でしょ?」

「あ、本当だ」


 どうやらアスタはデイウォーカヴァンパイアらしい。

 伝説級のヴァンパイアだわ。

 実際悪魔とヴァンパイアの両方の血をもらっている俺も日光を浴びても灰になっていない。

 上司から仕事を無茶振りされたときには徹夜をして朝日を浴びて灰になることはいつものことだが。

 あとは十字架とニンニクだが、これも克服したのだろうか? 

 あれ? そういえば悪魔も十字架が弱点なのだろうが。

 まあ俺はクリスチャンではないから十字架はもっていないので嫁と妹に実害はないか。

 しかし、目覚めたら美少女二人が朝ご飯を作っているなんて、夢みたいだわ。

 あれ? そういえば俺ヴァンパイアにもなっているんだが、食事は大丈夫なのだろうか? 

 まあアスタのような純血種じゃないから人間と同じ食事はできるのだろうけど、食あたりしない?

 いや死人が食あたりなんぞ聞いたことがないわ。

 鬼のようなメシマズを食わされれば別だろうが。

 とりあえず俺はトイレに行く。

 用を足していると、携帯電話が鳴った。

 しまった、取れない。まあいいか。 


「もしもし」


 フランの声がする。

 おい! それ俺の電話。

 そうだ! フランの世界にも携帯あったんだ。

 女の子が出たらヤバイ。

 しかし、座ってしまった以上全部出すまで出られない。

 おれは大急ぎで用を足し、手を洗って部屋に戻る。


「フラン、誰からよ?」

「おお、正宗、ちょっと待て。では御父上殿、正宗に代わりますのじゃ」


 げ! 親父? ヤバイ!  


「もしもし、親父? あの、これはその……」

「でかした正宗! よくやった! 結婚したって今フランちゃんから聞いたぞ! ガハハハッ」


 ブホッ!  

 電話の向こうから、親父がお袋を呼んでいる。

 いかん、完全に詰んだかも!


「母さんや! 正宗に嫁さんができたらしい。もう昨日から一緒に住んでいるそうだ!」


 親父! 頼むからやめてくれ!  


「正宗! あんた、よくやったわね。本当に母さん心配していたのよ。あんたこの年まで彼女いなかったじゃないの。それがいきなり結婚だなんて。どこのお嬢さん捕まえたのよ? 連れていらっしゃい!」

「いや、連れて来いと言われても」

「じゃあ、今から行くから、ちょっとそこで待ってなさい!」


 そういうや否やお袋は電話をガチャ切りした。


「正宗や、顔が変じゃ、いや顔色が変じゃぞ」


 電話を終えたあとの顔色を見て、フランが心配そうに覗き込んで来る。


「いや……顔に自信はないが、ってそうじゃなくて、親父とお袋がここに来るらしい。俺にまさか嫁ができるとは夢にも思ってなかったらしく、大騒ぎになっていた」


 両親の家はここから車で三十分の程の所にある。

 やましいことはしていないので逃げる必要はないのだが、嫁が悪魔っ娘で、妹がヴァンパイア娘なんてわかったらどうするよ? 

 いや、その前に外国人の出で立ちしているとはいえ、二人のぱっと見年齢は高校生だぞ。

 親父とお袋にぶん殴られるかもしれん。


「お兄様、朝ご飯できましたわよぉ」

「正宗や、今更じたばたするでない」


 フランは観念せいとばかりの様子だ。

 どこまで肝が据わっているのだろう。


「俺、胃が痛い」

「治癒魔法が必要か?」

「いや、そういうのじゃなくて」

「腹が減っては戦ができぬじゃ。まずは頂こうぞ」


 フランは将来肝っ玉母さんになる事請け合いだ。


 朝食を取り始める。

 アスタはもちろん血液パックだが、どのみち俺の血が彼女の朝食なのだからしっかり食べておかないと貧血で倒れられてはアスタに申し訳ない。

 しかし、メシマズかと思ったら全くその逆だ。

 彼女たちからしたら異世界の材料で、オムレツにソーセージにパンにサラダにコーヒーとよくここまでサクッと作れるものだと感心してしまった。


「このオムレツ、フワッとしてとてもおいしいね。ソーセージもうまくゆでているし」

「バジリスクの卵と色が違うだけだからぁ、結構簡単でしたよぉ」

「このソーセージというやつは、マンティコアの肉をデッドリーポイズンサンドワームの皮で包んだものと同じじゃからの。調理は同じようなものじゃ」

「そうですよぉ。サラダのお野菜だってマンドラゴラの葉とスネークトマトの調理と同じですからぁ」

「おい……一体そっちの世界では何を食べているんだ? マンティコアは何とかわかるが、デッドリー何とかって何よ? あとマンドラゴラの葉っぱって食べられるんか? 」

「デッドリーポイズンサンドワームじゃの。砂漠にいる生き物じゃ。こいつの皮が肉を包むのによいのじゃ」

「マンドラゴラの葉はぁとてもおいしいのよぉ」

「それ、人間が食ったらどうなるんだ?」

「よくわからぬ。なんせ人間自体がおらぬからの」

「そりゃそーだわ。生きた人間がフランの国にいたら、そりゃおかしいね」

「そうですよぉ。お兄様ぁ」


 三人で楽しく食べる朝食は、とにかくおいしい。

 が、よくよく考えると、この話ってもう人間完全に辞めているような気がする。

 こんなので両親に会って大丈夫なのだろうか?


「あ、そうだ、フランとアスタ」


 彼女たちが異世界から来たことを悟られないようにしないといけない。


「あのさ、多分親父たち二人を見たらいろんな意味でびっくりすると思う」

「いろんな意味とは何じゃ?」

「えぇ? どうしてぇ?」


 そりゃそうだろ。こんな別嬪さんが二人もいるんだ。

 やばいことに手を染めたなんて思われて……いやそうじゃなくて、二人に人間のふりをしていて欲しいことを伝える。

 悪魔とヴァンパイアだなんてまず信じないだろうけど、そっちの世界のことをうかつに口に出すとややこしくなる。

 設定として、二人は留学で外国から来たことにし、大八洲皇国をよく知らないことにする。そしてアスタにはディメンジョントランクに棺桶を戻してほしい事を伝える。

 これ見られた瞬間ドン引きされるのは目に見えている。

 それに美少女二人がいることに親父たちがびっくりすることよりも、異世界のことをホイホイ言われて訳が分からなくなることのほうが心配だった。


〜〜〜あとがき〜〜〜

この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

もしよろしければフォロー、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る