第15話 さよなら人間よろしく魔族
その夜半、やはり来ました激痛が、ではなく体の中から何かが出てくるような感じと、犬歯が奥底から伸び始め猛烈に血が吸いたくなる感覚を覚え始める。
横を見ると、フランが静かに寝息を立てながら、きれいな首をさらけ出している。
青白い月明かりに照らされ、俺の目に映る幻想的な美少女悪魔っ娘の白い首筋に、牙を穿ちたくなる欲求を抑えきれなくなり始めていた。
アスタの血でヴァンパイアになり始めているのだろう。
「お兄様ぁ」
棺桶から出てきたアスタが後ろから耳元で囁く。
「血が吸いたいのですね。私のをどうぞ」
「でも、妹を噛むなんて」
「私ぃ、お兄様に噛まれてみたいのぉ」
「アスタ」
アスタは透き通るような白い首筋を上目遣いで見ながら差し出し、両手を俺の背中に回す。
「噛んでぇ……お兄様ぁ」
耳元で妖艶な声で囁くアスタの白い首筋に、ヴァンパイアの本能のままに牙を穿つ。
牙の先からアスタの血が口に入ってくる。むさぼるようにアスタの血を飲み始める。
ほんのりと甘美で冷たいアスタの血が牙と口の中に入ってくる。
アスタに強く抱きめられ、背中に回した指先から鋭く伸びた爪がずぶずぶと食い込んでくるのを感じるが、全く痛みを感じない。
いやむしろ気持ちがいい。
「んはぁ……お兄様ぁ」
アスタの表情は妖艶で、開いた口元にかわいい牙が見える。
ひとしきりアスタの血を吸血すると、落ち着きを取り戻すことができた。
「アスタ、俺も……噛んで」
「うふっ! お兄様ぁ」
アスタの目は真っ赤に輝き、捕らえた人間から吸血するヴァンパイアの表情そのものとなっている。
人間が見たらそのまま失神するかショック死するだろう。
でもアスタのこの表情、可愛い。
キュン死するほど可愛い。
アスタをぎゅっと抱きしめ、吸ってくれと言わんばかりに首を差し出す。
アスタの鋭い牙が俺の首を穿ち、ヴァンパイアの本性を現したアスタは俺の血をむさぼるように飲み始める。
最初にアスタに噛まれた時とは全く違う感触が俺を襲う。
冷たいアスタの体を抱きしめながら、心が幸せに満たされてくるのを感じる。
「んっ ゴクッゴクッ はぁあ お兄様ぁ」
俺の血で赤く染まったアスタの口の中から鋭い牙が白く妖艶に輝き、牙の先から血が彼女の唇に滴り落ちる。
「アスタ……」
俺はこの上ない幸せを感じながらアスタの頭をなでていた。
「ウフフ。これでお兄様もヴァンパイアですねぇ。お姉様の悪魔の血も入っていますしぃ。私幸せですぅ」
アスタはいつもの口調に戻っていたが、真紅の目に口から滴り落ちる血は正にヴァンパイアそのものだ。
「俺もだよ。アスタもフランも大好き。すっごく幸せ」
「人間に未練はないのじゃな。正宗や」
ブッフォオオォ!
いつの間にかフランが起きてこちらを見ていた。やばい浮気だと……いや禁断の関係をやってしまったのを見られてしまったか!
NTRストーリそのものじゃないか!
「ふ……フラン。いつの間に。こ、これは、あの……」
「ふふふ、最初から見ておったわい。久々に良いものを見せてもらった。気にするな。して、アスタや。正宗に噛まれた心地はどうじゃった」
「とっても良かったですわぁ。お兄様がこんなに積極的だなんてぇ、もう嬉しいですわぁ。それに、お兄様はとても慣れた感じがしていてぇすごくよかったですぅ。ねえ、お兄様は、本当に人間だったのかしらぁ」
「うん。人間だったよ。今はもう違うけどね。どうして?」
アスタが言うには、ヴァンパイアになった人間の噛み方はぎこちなく、独特の癖があるらしい。
確かにアスタに噛まれた時にはすごく懐かしい感じがして自然に受け入れられたし、アスタを噛む時も同じだったんだよなぁ。
「ひょっとしたらぁ、お兄様にはぁ、私たちの血がぁ、もともと入っていたのかもしれませんねぇ。お姉様ぁ良い方を見つけられましたねぇ」
アスタはそういうと、フランの胸に猫のように頭を摺り寄せた。
フランはアスタを抱きしめ頭をなで始めた。
これ、誰得の絵図よ。
ゆりユリ百合し始めているのか、いや姉妹丼か?
でも美少女悪魔っ娘と美少女ヴァンパイアが青白い月の光の下でパジャマ姿で絡んでいる。これは悪くない! いや最高だ!
これもまた眼福! 非モテの神様、ありがとうございます。お供え奮発させていただきます!
「ねえ、お姉様ぁ。お兄様がまたぁ……」
「よいか、アスタや。つける薬がないというのは、ああいうのを指して言うのじゃぞ」
無意識のうちに礼拝をし始めている俺に二人のジト目が突き刺さる。
せっかく上がった評価を自分で完膚なきまでにぶっ壊したことに気づくが時すでに遅し。
「すみません……すみません……非モテ歴長くてすみません……」
枕代わりの座布団にうつ伏せになり頭を隠しながら、両目から滝のように涙を出していた。
幸せの絶頂から不幸のどん底に叩き落されたとはこういうことか。
いや! 違う! パジャマ姿の美少女二人にジト目でみられて弄られる。こんな幸せなことがあるものか! ビバリア充!
どうしようもないことを考えていると、俺の耳に二人の艶めかしい声が聞こえる。
「くはっ」
「お姉様ぁ」
そっと声のほうに目を向けると、アスタがフランの首を噛んでいる。
「え?」
思わず声をあげてしまった。アスタがフランの首に噛みついているのだ。
が、アスタからフランに光が流れているのが目に映る。
一瞬自分の目を疑ったが、確かに光が流れている。これって魔力を移しているのか?
「よかったのじゃ、アスタ」
「どういたしましてお姉様」
「ひょっとして、フラン、今アスタから魔力をもらっていたの?」
「よくわかったの」
「いや、光みたいなのがアスタからフランに流れていくのが見えたんだ」
「あらぁ。お兄様ぁ。もう見えるのですねぇ。すごいですわぁ」
「こうやって、魔力を分け与えることができるのじゃ」
魔力の受け渡しかぁ。この二人と魔力をやり取りするなんて、なんて贅沢なんだろう。
〜〜〜あとがき〜〜〜
この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。
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