第14話 妹は白衣のヴァンパイア
誰だよ、お化けに学校も試験もない! って歌っていた奴ぁよ!
「あらいでか! 読み書き計算ができなければ、魔法書読めぬわ、人間の魂をもらう契約書は書けぬわ、スペルミスなんぞしたら契約書パーになるわと、碌なことにならんのじゃ。大体アダマンタイトなんぞの鉱物を扱うならそれ相応の知識が必要じゃろて」
フラン、力説するのはいいけど、卓袱台にぶつけた額が赤いよ。
「アスタ、その最高導師って何よ?」
「うーん、大学で教える資格ですけどぉ、最初は初級導師から始まってぇ数段階を得て最高導師になるんですよぉ」
「え? ってことは、フランは大学で教授をやっているの?」
話していて頭の回転が良いと思ってはいたが、大学教授だとは思わなかった。
「そうじゃの。まあ昔は学生に教えておったが、いまは上級導師やら研究導師の相手ばかりじゃの。前は大学の運営側ともギャーギャーやっとったわ。学生を相手にしておったときが一番楽しかったわい」
「フラン! ちょい待ち! それってこっちの世界でいう学部長クラスじゃないのか?」
「学部長というのがよくわからぬが、鉱物魔法工学科は魔法工学部にあるからの、魔法工学部全体の面倒を見るのが最高導師の仕事の一つじゃ」
「それをこっちの世界では学部長って言うんだ。うぉい! ってことはよ、こっちの世界でいう工学博士じゃねーの?」
「博士というのがよく判らぬが、まあそんなもんじゃろう」
ったく、俺の周りの女性ときたら……姉貴も医学博士に嫁が工学博士。
まさか……アスタも?
「あの、アスタ」
「なぁに? お兄様」
「ひょっとしてアスタも導師なの?」
「んー。私はぁ、まだまだ勉強途中なのよぉ」
「まだって…何を勉強しているの?」
「私はぁヴァンパイアでしょ。だから血液のことを勉強しているのよぉ。血液を通じた治癒ねぇ」
「まあ、こちらの世界でいうなら医者じゃの」
「はあ? アスタがお医者さん? 医学部?」
「あ、そうねぇ 言い方がちょっと違ったわねぇ」
アスタはケタケタと笑っている。
「アスタは今、王立中央大学治癒学部の初級導師じゃの」
もう、何も言えません。妹も医学博士なんですか。
しかも王立中央大学って、いわゆる東大ですか? 東大医学部なんですか?
という事は、アスタは白衣の天使、いや白衣の悪魔違う白衣のヴァンパイア……おぉおおおお! おおをを!!
これってもう萌え死ぬ状態マーックス!
こんなにかわいいヴァンパイアが白衣を着て聴診器を当ててぇえええ!
しかも、黒いパンストにぃいい、牙をちょこっと出して あああ!
聴診器じゃなくてその可愛い牙をあててください!
「これ、正宗、お主何を考えておるのじゃ?」
「お兄様、どうしましたぁ?」
二人が俺の眼を心配そうに覗き込んでくる。
「いや……何でもない。自分の阿呆さ加減諸々に思いっきり凹んだ」
頭の中で妄想エンジンが超臨界状態になる前にフランが制御棒を放り込んでくれた。
「時に、正宗や、お主は何を勉強しておったのじゃ?」
「原子力工学って学問だよ」
原子力と言う言葉はやはり、初めて聞く言葉だろう。
二人はキョトンとしている。
「うーん、なんて言ったらいいのかなぁ」
異世界の住人に、原子とか放射線といってもチンプンカンプンだろうし、俺は言葉に迷いながらあることを思い出した。
「そうだ、フランが言っていた太古の戦争があったでしょ。あの時に、人類は質量変換魔法ってのを使ったて教えてくれたじゃん。あの類の学問だよ」
「何? あの魔法か!」
「ええぇ? あの禁忌の魔法? お兄様そんなものを?」
二人がドン引きしているのを見ると、やはりあの質量変換魔法は悪魔たちにとっても悪夢のようなものなのだろうか。
「いや、魔法じゃないんだけどね。人間界を構成する物質はすべてが原子という粒からできていて、その粒に入っているエネルギーというか、まあそっちでいう魔力というんだろうかね、それをうまく引き出して役に立てるという学問だよ」
「じゃからか、ポテチの質量変換をすぐに計算できたのは」
「まあ、基本だからね」
「お姉さまぁ、ポテチって?」
「これだよ」
俺はアスタの前にポテチの袋を出した。
「ポテトチップスというお菓子だよ。略してポテチ。食べてみそ」
ポテチの袋を開きアスタに差し出す。
不思議そうな顔をしながら、ポテチを一枚手に取り、まじまじと見ながら口に入れる。
「あらぁ美味しい。でもこれが質量変換魔法とどう関係あるのかしらぁ?」
アスタはポテチをポリポリと食べながら不思議そうな顔をしている。
「ふふふ、これを食べるとポテチが体の中で質量に変換されて体重が爆発的に増えるという魔法の塊なのだ」
ちょっとアスタをおちょくってみようと冗談をかましてみる。
「きゃぁあ! お兄様ぁああ! なんてもの食べさせるのよぉお!」
「これ! 正宗。適当なことを言うでない。アスタは疑うことを知らぬのじゃ!」
「うそうそ、冗談だって。アスタ」
「んもぉー。お兄様ったら!」
アスタのふくれっ面もかわいい!
これだよこれ! 求めていたのわぁああ!
ビバ妹! ビバ禁断の恋! ウェエエエイ!
ああ、完全にアホになったかもしれん。
第三者から見たら、頭の中に何かが湧いているご愁傷様な奴だろう。
冗談は置いておき、質量とエネルギーの関係をポテチを手に取って掻い摘んで話す。
「このポテチ、一掴みで1グラムとする。この1グラムの質量が、すべて熱に変わったらどうなるか? ってことなんだけど 全部の質量を一気に熱に変えてしまうと、古代魔法戦争のように大変なことになるんだ」
紙に数式を書きながらアスタに説明する。
「そうねぇ」
「だけど、ゆっくりと熱に変えればどうなる? 例えばこの一グラムの数億分の一を熱に変えたら?」
「それだと、熱源になるのかしらねぇ」
「そうじゃのう」
「そういう使い方をすればいいんだよね。あと、質量に変換するときに熱以外にも放射線という、うーん何と言ったらいいかなぁ。光とか小さな粒が出てくるんだよ。これも利用することができるんだよね」
「それで、正宗や、この国ではどうやって使っておるのじゃ?」
フランの質問に、熱を使って電気というのを作っていること、その電気が天井の明かりの元やお風呂を沸かす熱の元になったりしていることを話す。
「ほう、ずいぶんと便利じゃのう。そうじゃお風呂じゃ、そろそろお風呂に入りたいのじゃ」
「そうだね。今日は歩いて結構疲れたからね」
俺は風呂のスイッチを入れると、布団を引き始める。
「あ、しまった。アスタの布団がない。アスタ、フランと一緒の布団で寝てくれる? 」
「大丈夫よぉ。お兄様ぁ。私持っているからぁ」
「え? 布団持っているって?」
アスタはディメンジョントランクを開くと真っ黒な箱を取り出した。
「これよぉ」
ヴァンパイア鉄板の「棺桶」でした。
「ヴァンパイアって本当に棺桶で寝るんだ」
「でもぉ、ここって結構落ちつくのよぉ。それに本なんかも読めるようにしているしぃ」
「へ? ふたを閉めたら真っ暗に……」
「ならないわよぉ。ほらぁ」
アスタは棺桶の中を見せてくれる。
「え? 本なんてないじゃない」
「これよぉ」
蓋の内側をアスタが触ると、蓋の一部が光り文字が現れた。
つーかこれって有機ELモニタじゃないの?
「それと、これを耳の後ろに貼ると、音も聞こえるのよぉ。今日は音楽劇をやってるわねぇ。本もいいけどこういうのもいいわよねぇ。こうしたほうがいいかしら」
アスタはそういうと画面をダブルタッチした。
ホログラムのオペラが始まった。アスタの棺桶のなかでホログラムの役者が動いている。
「あの、フラン、アスタの棺桶の中がやたらハイテクが入り混じっているんだけど、これも魔法なの? どう見てもホログラム技術でこっちでは実用化が始まったところなんだけど」
「それは魔法と工学の融合じゃの」
「これを見ながらぁ寝るのよぉ」
「めちゃくちゃ贅沢やん!」
突っ込み所が満載な棺桶に、思わず関西弁になる。
何だよこのハイテク棺桶。
「ということで、お兄様お姉様、お休みなさいませぇ。私はちょっと散歩してくるわぁ」
アスタの背中から黒い翼が生え、窓を開けて飛び出ようとする。
「ちょいまち! 人間共に見つかったらえらいことになる」
アスタの細い足首をむんずと掴みアスタを引き留める。
「動画なんかに取られてしまったら、えらい騒ぎになるからやめてくれ」
「えー。つまらないですわぁ。ではこうしますわぁ」
そういうとアスタの周りがぼやけ始めた。フランが使った光の屈折魔法だ。
「それなら見つからないと思うけど、遠くに行くなよ。道に迷ったらどうしようもなくなる」
「大丈夫よぉ。お兄様とお姉様とは念話で話せるしぃ、ベッドの位置は立体的にわかるようにしているからぁ」
アスタが両手を差し出すと、手のひらの内側に球体が現れ、棺桶の位置が光っているのが分かった。
「レーダーかよ……」
「正宗や、お主は心配しすぎじゃ」
フランがジト目で見てくる。
「いや、かわいい妹が人間共に何かされたらと思うと……」
「お兄様は心配性なのですねぇ。大丈夫ですよぉ。すぐに帰ってきますからぁ」
そういうとアスタは音もなく空中へ浮かんでいった。
「どれ、正宗や風呂に入って寝るぞ。妾も今日は疲れたわ」
「アイヨー」
〜〜〜あとがき〜〜〜
この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。
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