第13話 ミスリルソードとサンマノハ

 隣の部屋でアスタに噛まれたところを鏡で見るが、傷跡は全くない。

 アスタが血を吸い終わった後舐めてくれたのが治癒なのだろうか? 

 あれ? よく考えたら、フランが嫁でアスタが義理の妹か?

 初体験の人(?)とか愛の交換とか言っていたし、これって下手すると重婚とか言われかねない? いやアスタは妹だから……。

 ええい ややこしい。フランの言う通りここはどっしりと構えて男らしさを見せるしかないな。うん。


「正宗や、もうよいぞ」

「似合うかしらぁ?お兄様ぁ」


 目の前には、メイド服+エプロン姿のヴァンパイア少女と悪魔っ娘がツインで女の子すわりをしている。


「す……すごい、アスタもめちゃめちゃ似合っている。眼福この上なし! 最高デス!!」


 完全に俺は舞い上がってしまった。

 さっき決意した「どっしり構えて」はどこに行ったのだろう? 


「うれしいわぁ」

「ふっふっふ。次はアスタも一緒にアキバに行くぞえ」

「アキバってぇ何ですの? お姉様ぁ」

「大八洲文化の真髄じゃ」

「いや、違うから」


 アクセル全開で誤解しているフランに突っ込みを入れるが時遅し。

 アスタが興味を持ち始めた。


「行ってみたいですぅ。お兄様ぁ、是非連れて行ってくださいませぇ」


 アスタに妖艶な眼でを見つめられ


「お、おう、お兄ちゃんに任せておけ」


 と反射的に答えてしまう。


「よし、アスタは洗い物……あ、そうじゃお主は水に触れないのじゃの」

「え? 何で?」

「水は浄化作用があるでの、ヴァンパイアは触れないのじゃ。それに妾も水を触った後手がパサパサするのじゃ」

「それならこれを使えばいいよ」


 買い物袋の中からビニール手袋を取り出し二人に渡す。


「これを手にはめれば、直接水に触らなくて済むよ」

「おお、そうか」

「あらぁ便利ですねぇ」


 フランはピンク色、アスタは紫色のビニール手袋をそれぞれ手にはめて食器を洗い始めた。

 なんというマニアックな光景だ。

 今度こそ我が同志達にジャンピング土下座ものだ。

 いやそれでもはりつけ獄門は免れないだろう。

 二人はキャッキャしながら水仕事をしている。

 ふきんで卓袱台を拭こうとする俺に


「旦那はこういう時はどっしりしておくのじゃ」


 とフランがくぎを刺してくる。


「あ……はい」


 俺はふと横に置いているフランが取り出した刀に目が行った。

 これミスリルでできているって言っていたよな。

 って、えええ? 伝説のミスリルソードぉお? 

 嘘だろおい。RPGやラノベで架空の金属でよく出てきているけど、目の前に実物があるぞ。

 たしか、とんでもない切れ味を持っているというやつだよな。

 手に取って見てみたいが、なんか怖い。

 フランが片付けるのを待とう。


「やっと片付いたのじゃ。主婦しておるのぉ」

「私も、初めて水仕事しましたわぁ」

「アスタは家事とかどうやっているの? 」

「ヴァンパイアブライドがやってくれているのよぉ」

「へ?」


 ヴァンパイアブライドって確か吸血鬼の花嫁だよな。


「私たちヴァンパイアの分身でレッサーヴァンパイアなのよぉ」

「じゃあ、彼女たちが水仕事するんだね」

「基本的にぃ水に触らない生活だからぁ。でもこのビニール手袋? はとても素敵よぉ。市場に買いに連れて行ってくださいねぇ」

「妾も、これは気に入ったぞ」


 二人はビニール手袋を嵌めてワキワキと動かした。

 なんか、フェチズムっぽいな……


「フラン、刀見せてもらっていい?」

「おお、そうじゃ」


 フランは刀を手に取るとスラリと鞘から抜いた。

 銀色の刀身と刃先の綺麗な刃紋が目に入る。相当の業物わざものという事は一眼で判る。


「それってミスリルソードだよね。物凄い切れ味持っているっていう」

「ミスリルは妾の国ではよく出回っておる。台所にある包丁であったか? あのような物に使われておるぞ」

「え? マジ?」


 ミスリル製の包丁があるんだ。


「鎧は主にアダマンタイトとオリハルコンでできておるから、ミスリルでは歯が立たないのじゃ。ただ実体を持たぬ、そうじゃのう、レイスのような者はミスリルでぶった切ることはできるがの。持ってみるか?」


 俺は迷うことなく受け取った。


「うわ。すごく軽い!」

「そうじゃろう。それでいて頑丈なのが取りえじゃ。だから包丁や小さなナイフにも使えるのじゃ。ただ、ミスリルは持つ者の魔力を吸うからの。小さな刃物ならどうということはないが、このソードクラスになると使う者は魔力が相当必要なのじゃ。小さな魔力しかなければすぐに魔力切れを起こしてたちまち倒れてしまうのじゃ」

「だからぁ、レイスみたいな、霊体にはよく効くのよぉ」


 そういうことか。俺は改めてソードをまじまじと見る。


「正宗や、お主、魔力が相当あるのう。妾の血との相性が相当よかったのじゃの。普通ならこの時点でぶっ倒れておるぞ」

「え? まじ?」


 そう言いながら俺はソードをフランに返す。

 フランは慣れた手つきでミスリルソードを鞘に納める。


「このミスリルソードはもうほとんど使っておらぬ。これも護身用程度じゃ」

「でもお姉様だったら、ミスリルソードより攻撃魔法のほうが切れ味がいいわよぉ。この前もワイバーンと戦った時にミスリルソード使うのがまだるっこしくて、魔法でワイバーンを輪切りにしていましたからぁ」

「は? ワイバーンを輪切り? それ、なんかいろいろおかしくね?」


 空を飛ぶワイバーンが鮭の切り身の様になっていく姿が目に浮かぶ。


「そうか?」

「魚なら輪切りにして煮込むことはあるけど、ワイバーンを輪切りにして……その後どうしたの?」

「まんま肉屋に売り飛ばした」

「は?」


 なんだよそれ、身もふたもないじゃないか。


「いや、普通ならギルドに出して、報奨金をもらうのじゃがの、知り合いの肉屋が欲しがっておっての、中間マージンがないから結構儲けたらしい」


 フランは笑いながら答える。それに中間マージンってなんでそんな言葉知っているのよ?

 ワイバーンの肉の値段を聞いてみると、今日買った肉の値段と比べると、あの量だとまあ金貨1枚前後らしい。

 ということは、松阪肉のシャトーブリアンも真っ青の値段ってことだよな。


「お姉様のすごいところはぁ、お肉屋さんからぁ、礼金もらわなかったのよぉ。お肉屋さんもぉ、本当にワイバーン持ってくるとは思っていなかったらしくてぇ。輪切りにされていたから、最初は疑っていたんだけど、頭を見た瞬間にびっくりしちゃってぇ。あわてていたわよねぇ。結局飛ぶように売れたらしくて、ご主人がぁ礼金持ってきたのよぉ。でも受け取らなかったのよねぇ」

「フラン、それっていくらぐらい持ってきたの?」


 フランは卓袱台の上のティッシュペーパーの箱に指をさし、


「さぁのう、これと同じ位の大きさの箱に、金貨やら銀貨やらが詰まっておったのは覚えて居るが」

「ぶっ! それとんでもねー額じゃないの?」


 魔界の金銭感覚はよくわからないが、少なくとも「お札束山盛り」が想像できる。


「妾は金に興味はあまりないのじゃ。肉屋が喜んでおった。それでよい」


 その感覚もついていけない。どこかの王女様みたいだわ。


「機会があったら味見してみた……いや、やめておこう。ところで、そのサンマノハだっけ? それが武器になるんだよね。でも小さすぎない?」


 会話についていけなくなり話題を変えてみる。


「そうじゃの。集めた歯を溶かして刀にするのじゃ」

「そうすると、鍛冶屋さんがサンマノハを集めるってこと? 漁師と鍛冶屋の兼業漁師?」

「いや、鍛冶屋の手には負えぬ。最高峰の魔導士が溶解炉の周りで魔力を送り込んで溶かすのだが、溶解炉の外側を冷やして、内側を温めることをしないと炉が壊れてしまうのじゃ」


随分とややこしいことをする。溶解炉の材質を見直せばいいじゃないか。


「サンマノハの融点は五千度なのじゃ。炉を冷やさなければ先に炉が溶けてしまうのじゃ。他の方法もいろいろ試してはいるがうまくいかぬのじゃ」

「フランずいぶん詳しいね」

「お姉様の専門なのよぉ」

「さんまの歯が専門? フラン漁師じゃないよね」


 ばん!フランは卓袱台に思いきり頭をぶつける。

 ド〇フ大爆笑か? 

 フランの頭はプルプルと震えている。


「違うわよぉ。王立中央大学で鉱物魔法工学を専攻していたのよぉ。最高導師なんだからぁ」

「そっちの国にも学校あるんかーい!」


〜〜〜あとがき〜〜〜

この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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