第10話 悪魔っ娘、盛大に勘違いする

「そうだね、食料を買って家に帰ろうか。何が食べたい?」

「そうじゃの。こっちの食べ物はまだ良く分からんので、任せるのじゃ」


 秋葉原の大通りを駅に向かって歩き出す。フランは昔のお上りさんのように、巨大なビル群をキョロキョロと見ている。

 ビル群が珍しいと言う事は、やはり魔界とは景色が違うのだろうか。


「正宗や、あれは何じゃ? ガラスの中に人形が入っておるぞ」


 フランの目線の先にはゲームセンターのクレーンゲームがBGMを流している。


「あれは、クレーンゲームといってね、店の中を見てごらん」


 フランはクレーンゲームで遊んでいる人を見る。


「おお、あれでつかんで取るのじゃな?」

「そうそう、でも取りにくいように……ってフラン!」


 話し終わる前にフランはクレーンゲームの前に行ってしまい、持っていたお釣りのコインを入れている。

「よし。そのまま、あれ? 落ちた? なんでじゃ? もう一回。もう少しでとれるのじゃ」


 ぬいぐるみが入ったクレーンゲームにフランは夢中になっている。


「フラン。これはな、『もうちょっと』というところで取れないようにしているんだ。あとな、クレーンは持ち上げるのに使わないんだ」

「じゃあどうやるのじゃ?」

「まあ見ていなよ」


 俺はぬいぐるみのタグの輪の中に爪を入れ落とし口寄せることを2,3回繰り返す。


「途中で落ちてしまっているではないか」

「いいんだよ。これで」


 落とし口の上にぬいぐるみの一部が出たのを見計らい


「秘技、クレーン本体押し!」


 クレーンにぬいぐるみの一部が押され、ぬいぐるみがくるっと回り景品取り出し口へと落ちる。


 「チャッチャラー」


 クレーンゲームからゲットの音楽が流れる。


「おおお! すごいのじゃ! こういう方法もあったのか!」

「はい、フラン」


 俺はクレーンゲームの景品取り出し口からぬいぐるみを取り出しフランに渡した。


「ありがとうなのじゃ! うれしいのじゃ!」


 ニパァっと満面の笑みでフランが喜んでいる。すごく可愛い! 


「よかった。フラン、これはバランスのゲームだからね。つかみ取るゲームじゃないんだよ」

「そうなのか」

「そ。どうやってバランスを崩していくかって考えるんだわ。まあ、中の景品ってかなり安いものだから余りお金つぎ込むのは意味ないんだよね。買ったほうが安い場合もあるしね」


「ほー」


 フランはにやりと笑った。何かを思いついたようだ。


「ならば、魔法で動かして」


 鉄板の考えだ。


「捕まるからやめなさい。別の意味でもまずい」

「冗談じゃ。じゃがこの機械、妾の国でも作れば面白いかもしれぬ」


 俺はフランにゲーセンの中をのぞいてみようかと誘う。


「すごいものじゃな。あのクレーンゲームの他にもこのようなものがあるのか」


 フランは初めて見るテレビゲームにめをキラキラとさせている。


「そろそろ行こうか。また遊びに来ようね」

「うむ。楽しかったのじゃ」


 帰りのTXに乗り、駅を降りると途中のスーパーに食材を買いに入る。

 そう言えば、フランの好みの料理って何だろう。


「そうじゃの、バジリスクの砂肝や砂クジラの肉……」

「ストーップ」


 フランが魔界の食材を言い始めたので俺はすぐさま止める。


「何じゃ? 好物を聞いておいて」

「どっちもこの世には存在しない動物だから」

「おお、そうじゃった」

「じゃあ、鶏肉を買おうか。あと魚も」

「おお、正宗や、クラーケンがあるぞ。でも小さくはないか?」


 周りで買い物をしている人がこっちを不思議そうな目で見ている。そりゃそうだ。タコをクラーケンって確かに半分あっている(?)けどさ。


「おお、秋刀魚のようじゃな」

「秋刀魚好きなの?」

「うむ。買ってほしいのじゃ。なかなか食べられないのでな」

「そうなんだ。不漁続きなの?」

「いや、鉱山の中で生息しているのじゃが、アダマンタイトとテクタイトの混合鉱石の中を泳いでいくので捕まえるのが難しいのじゃ」

「へえ。ん? なんか変なこと言わなかったか? 秋刀魚が山の中で取れる? 鉱石の中を泳ぐ?」


 岩石の中を泳ぐ魚って何よ?

 普通は水の中ただろうに。


「そうじゃ。何かおかしいのか?」

「あとで教えてくれ。そうだ、秋刀魚だとあとは大根が必要だな」


 秋刀魚を数匹トングで挟んでビニール袋に入れたると、次は野菜売り場へと向かう。


「大根とは何じゃ?」


 どうやらフランの国には大根が無いようだ。


「これだよ」


 俺はフランに大根を見せる。


「正宗! 危ない! ノキアドじゃ。かみ殺されるぞ!」


 瞬間、フランの目の色と表情が変わり同時に右手が光った。

 

『フラン! 違う! 落ち着け! そっちの世界とごっちゃにするな!』


 攻撃系の魔法を発動しようとしたことを察知した俺は念話でフランを止める。


『おお! そうじゃった。すまぬ。』


 ハッとしたフランは、魔法の発動を止めた。


『一体何をしようとした?』

『そいつは、ノキアドと言うての、森の捕食者いや害獣なのじゃ』


 フランが言うには、このノキアドは、大型の獣でも襲われれば、物の数分で骨まで食われてしまう。

 しかも食いついたときに酵素で肉を溶かし始めるから始末が悪く、先が尖っているので木の上から魔獣や住民に刺さって致命傷を負わせることもあると。


・・・・・・何それ、怖い。


 フランの国では、危険動物に指定されていて、捕らえるか始末すればギルドから多額の礼金を出すことになっているし、定期的に生息している場所を火炎魔法や雷撃魔法で掃討するらしい。


『正宗が止めてくれなければ、今頃火炎魔法で焼き払っているところじゃった。礼を言うぞ。』

『野菜が人や獣を襲うって何よ? というか、フランの国、悪魔以外にも住人がいるの?』

『妾の国には、我々悪魔族以外にも沢山の種族がおるのじゃぞ』

『そっか』


 俺は冷や汗をたらたら流しながら周りを見た。


「お客様、なにか不都合でもございましたか?」


 店員が近づいて心配そうに俺たちを見ている。


「いえいえ。ちょっと彼女外国から来たもので、八洲のことにまだ慣れていないので。本当すいません。お騒がせしました」


 フランの手を引くと、他に必要な家事用具を買い物かごに入れ、レジで支払いを済ませると、二人でそそくさと店を出る。


「正宗。迷惑をかけた。すまぬ」


 フランが申し訳なさそうにしている。


「いいって。異世界から来てくれて知らないことだらけなんだから。だけど、魔法は人前で使わないでね。マジで。動画に取られたら大騒ぎになるどころじゃすまないから」

「分かったのじゃ」

「フラン。心配してくれてありがとうね。もし俺がフランの立場だったら同じことしているかもしれないからさ」


 片腕でフランをぎゅっと抱きしめる。


「そんな。照れるではないか」


 フランは顔を赤くしている。


〜〜〜あとがき〜〜〜

この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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