第9話 悪魔っ娘、アキバ文化にはまる

 通りにはメイド喫茶の女の子がお客さんを呼んでいる。


「おお、正宗。あれがコスプレイヤーというのか?」

「メイド喫茶の制服だよ」

「メイド喫茶?」

「入ってみるか? お昼ご飯食べたいし」

 

 近くのメイド喫茶に入ると数名のメイドが迎えてくれた。


「おかえりなさいませ。ご主人様、お嬢様!」

 

 オムライスを注文すると、メイドさんがフランにメイド服を着せて写真を撮るサービスがあるので利用するかを聞いてきた。

 するとフランは目を輝かせ始め、すぐにメイドさんについていき着替えルームに入っていた。


「おおおお!」

「きゃあぁああ! 可愛い!」


 数分後、着替えを終えて出てきたフランを見て、男性客@我が同志とメイドの女の子が歓声を上げた。

 俺も正直びっくりした。あの国民的人気アニメのメイドがそのまんま出てきた感じだ。

 まあ、そりゃあね、この世の者ではない悪魔っ娘ですからね。

 店内は食事どころの騒ぎではなくなり、男性客は本能的に写真を撮り始めていた。


「ご主人様、どうぞこちらへ。写真を撮られますか?」

「は、はい」


 フランも何が起きたのかわからず、キョドリ始めている。

 おれはメイドさんに言われるままにフランのそばに行き写真を撮り始めた。

 が……スマホが震えている。

 指も震えている。何というチキン、我ながら情けなくなる。

 メイドさんの一人が気をきかせ、「ご主人様、写真を取らせていただきましょうか」とフォローしてくれたので迷うことなくスマホを渡してお願いした。


「それでは行きます~。はい、萌え萌えキューン!」


 フランとのツーショット写真がスマホに入った。

 そして我が同志からの視線が告げる。

「裏切者めぇえww!」

「リア充は爆発しろww!」

「もげてしまえww!」

「裏山! ビハインドマウンテン!」


 声で聞こえなくてもよくわかるよ。昨日まではそうだったのだから。

 そっちの立場だったら同じことを考えるよ、うん。


「正宗や、妾にこれは似合うておるかの?」


 フランが紅潮した顔で上目遣いで問いかけてくる。

 ゴフッ! ハートに爆発魔法が撃ち込まれました。リア充爆発です。

「はっ、はい。に……似合ってましゅ……す」


 テンパった俺は噛みさがしてしまう。


「そ……そうか。よかったのじゃ」


 ほっとするフランを見て、『マジ生きていてよかった! 人生最高!』と念じてしまう。

 もちろん、両手でグーを握り滝涙状態になりながらだ。


『じゃから、お主は生きて・・もうよい。まあ喜んでくれてよかったのじゃ。』


 ブホッ! いつの間にか念話モードに入っていたよオイ。


「私たちも一緒に撮影してよろしいでしょうか? ご主人様、お嬢様」


 メイドさん達が仕事そっちのけになっている。我が同志たちもノリノリ状態である。


「フランが良ければいいよ」

「苦しゅうない。妾でよければの」

「ありがとうございます!」


 メイドさんが代わる代わるフランとツーショットの写真を撮っていく。

 もちろん、我が同志たちも食事を忘れて撮りまくっている。


「お嬢様は外国の方ですか?」

「どちらのご出身ですか?」


 などとフランは質問攻めにあっている。


「妾は、魔界の……」

『フラン! 違う違う!』


 すかさず念話で止める。ここで変なことばらすな。


『おお! 危ないところじゃった。』


 そこに店長らしき男性が入ってくる。


「お客様、申し訳ございません。大変失礼致しました」


 店長がメイドさん達を制しはじめる。

 彼女たちも気づいたようで「大変失礼致しました。ご主人様、お嬢様」と一礼をして仕事に戻り始めた。

 フランはメイド服から自分の服に着替え、席に戻ってきた。


「びっくりしたのじゃ。このようなことになるとは夢にも思わなかったのじゃ」

「俺もだよ」


 しかし、まだ周りの視線が俺とフランに注がれている。

 もちろん視線の種類は全く違うが。


「お待たせしました。オムライスです」


 そのあとの一連の儀式を終えてようやく食事にありつけた。


「オムライス一つ食べるのに、なんかすっごく疲れた」

「妾もじゃ。じゃがいい経験になった。のう、正宗、あのメイド服というのは売っておるのか? 妾も欲しいのじゃ」

「グフッ! ゴホッゴホッ」


 思わずおしぼりを手に取り口を押える。


「売っているよ。まさか家で着る気か?」

「そうじゃ」


 フランは満面の笑みで答える。


「……エプロンと一緒に買います」


 会計を済ませ「行ってらっしゃいませ! ご主人様、お嬢様」の声を後にして店を出ると、フランがほしいというメイド服を売っている店をスマホで探して向かい始めた。


「正宗や、あの派手な赤い建物は何を売っているのじゃ?」


 フランが指をさした先のビルは某有名なアダルトショップであった。


「あれは、えーっと なんというかその……」

「行ってみるのじゃ」

「だめ。あそこは20歳未満は入れない」

「また未成年縛りか。酒を売っているのか?」

「いや、酒ではなく、その……男と女が、あーなんだ、その」


 フランはそのビルを見つめている。


「なるほど、分かった。夫婦生活に必要な夜のアイテムじゃの」

「うぉい! なんでわかったの?」

「千里眼を使ったのじゃ」

「あ……はい」


「お主の部屋にあったあの本で見つけたアダルティな下着も売っておるのじゃな」


 自分の顔が熱くなるのを感じる。


「……帰ったら全部捨てます」

「何じゃ? 勿体ない。もう少し読ませるのじゃ」

「すみません。とっても恥ずかしいんです」


 まるで部屋掃除をしていた母親にエロ本を見つけられた男子高校生のような反応をしてしまう。


 そうこうしているうちに、メイド服を売っている店の前に着く。


「うわぁあ! すごいのじゃ! 素敵なのじゃ! こういうのが欲しいのじゃ!」


 ショーウインドーのディスプレイにフランは目を輝かせる。

 どこの世界の女の子でも、やはり服にはこだわりがあるのだな。

 フランに手を引っ張られて店の中に入っていく。


「いらっしゃいませ!」


 店内には大量のメイド服が陳列されている。ゴスロリメイド服、某国民的人気アニメメイド服、アキバ系萌え萌えメイド服等よくこれだけの種類が考えられるものだと感心させられた。

 さらにニーハイソックスやロング手袋等アクセサリーもたくさんある。

 フランの目はもうハート型になっている。

「正宗、これはどうじゃ? これなんかもいいのじゃ」

「お客様、もしよろしければご試着されますか? 」

 ここでもファッションショーが始まってしまった。


「ありがとうございましたぁ」


 メイド服二着とエプロンその他諸々……散歩でなく散財歩だ。

 いや! これでいいのだ!  

 女の子とのデートなんぞ、数パーセク(1パーセク=3.26光年)先に離れた存在だったのだ。その距離をワープしてたどり着いたのだ。

 横にはにこにこしながら歩くフランがいる。

 超絶美少女と一緒にショッピングができるなんて!  

 恐らく、相手が人間だったら間違いなくカモられる対象だろうが。

 建物の陰に入り、ディメンジョントランクにメイド服一式を放り込む。


「随分使い方に慣れてきたのう。この分じゃと他の魔法も使えそうじゃ」


 ディメンジョントランクを難なく扱っているのを見てフランは感心している。


「そ……そうかな? なんか期待しちゃうなぁ」


 おれは年甲斐もなく照れてしまった。

 いや、待てよ、そう簡単に魔法が使えるようになるはずがない。いくら眷属になったとはいえ、チート物のラノベの主人公のようにホイホイと魔法が使えるようになるなんぞ、今までのパターンでからすれば苦行が待っているかもしれん。

 いや、むしろ望むところだ! 


「正宗や、何を一人で力んで居るのじゃ?」

「い……いや、何でもない」

「これからどうするのじゃ?」


〜〜〜あとがき〜〜〜

この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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